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第13章 数々の秘密
第301話 数々の秘密と方針

 その人物のことを思い出し、あんなに以前からマルトの中にいたのか、と思うと同時に、確かにあの頃から新人冒険者の失踪が起こり始めたこともあり納得が胸に広がる。

 会った場所も《新月の迷宮》であったし、すれ違ったのは、後に一緒に銅級冒険者試験を受けることとなった駆け出し冒険者、ライズとローラが魔物と戦っているすぐ近くだった。

 偶然近くを通り過ぎただけと思ってたが、あの人物の正体も考えると……本当はライズとローラも狙っていたのかもしれない。

 そこを俺が通ったために、あとでことが露見することを恐れて、やめたとか……。

 だとすればライズとローラは運が良かったのかもしれないな。 

 

 ともかく、これで街にいる吸血鬼ヴァンパイア、そしておそらくは新人冒険者を襲撃していた犯人が分かった。

 冒険者組合(ギルド)に報告するべきだろう。

 ただ、居場所は……。

 今もまだ《新月の迷宮》にいるのかな?

 そう、エーデルにつながりを通して尋ねると、エーデルからは、分からない、と返って来た。

 たった今、見せられた映像、それを最後に見失ってしまっているということらしい。

 まぁ、エーデルも視覚をつなげた先の鼠がやられたときの衝撃で気を失っていたわけだから、分からないのも当然と言えば当然である。

 しかしそうなると……どうしたものか。

 いきなり《新月の迷宮》に吸血鬼ヴァンパイアがいます!

 などと言ったところで怪しい話だ。

 それに、今もいるかどうかは分からない。

 何か説得力が欲しいところだが……。

 

 そう思って悩んでいると、


「……ん? 屍鬼しきたちの所在ならかなり把握している?」


 そう、エーデルから伝わってくる。

 曰く、街の中にいる鼠たちから各地で奇妙な行動……放火やら徘徊やらをしている人物の様子が伝わってきているらしく、おそらくは屍鬼しきであろうとのことだった。

 エーデルの手下である小鼠(プチ・スリ)は、エーデルのように特殊な強化が施されているわけでもないから、戦って倒すことは出来ないものの、監視するくらいはお手の物と言うことのようだ。

 うーん、そういうことなら……。

 まずは、街中の屍鬼しきを掃討するのを先にした方がいいかもしれないな。

 いくら吸血鬼ヴァンパイア屍鬼しきを増やせる能力を有しているとはいえ、いくらでも簡単に、というわけにはいかない。

 饅頭づくりとはわけが違うのだ。

 大体饅頭づくりだってそれなりの手間暇がいるのである。

 屍鬼しきなんて魔物を増やすのにも結構な手間が必要だ。

 まず材料に人間が必要だし、そこから血を吸い取った上で、自分の血を分けてやらねばならない。

 それで即座に屍鬼しきになる、というわけではなく、ある程度、時間を置く必要もある。

 熟成である。

 ……冗談だ。

 しかし、人の身から魔物の身へと変化するために、本当に時間を置かなければ屍鬼しきにはならない。

 怪しげな死体があったら速攻燃やすべきだ、と言われることがあるが、それはそういう事情があるからだ。

 いくら吸血鬼ヴァンパイアから屍鬼しきに変化させられている途中とは言え、燃やし尽くせば流石に消滅するからな。

 ただ、そうはいっても例外はあって、それなりに吸血鬼ヴァンパイア側が負担を負えば、短時間で完成する即席屍鬼(しき)も作れるようだが、その場合は吸血鬼ヴァンパイアの力が目減りするようである。

 魔力の問題なのか、血の問題なのか、その辺は分からないが……まぁ、それはあまり気にしなくてもいいということだ。

 今回、ウルフが言ったように百体近く屍鬼しきがいるかも、というのは今作っているというわけではなく、長い時間を掛けて作り、そして隠してきたのだろうという意味である。

 時間がかかる、と言っても五分十分で出来ないと言うだけで、何日何週間と言う時間があれば、百体くらい作ることは決して不可能ではないのだ。

 

「よし、じゃあ屍鬼しき狩りから始めるか……ただ、その吸血鬼ヴァンパイアが《新月の迷宮》を出て、街に戻っている可能性もあるからな。もしそれらしき人物を見つけたら、そっちを優先するぞ」


 エーデルにそう言うと、肯定の返事が返ってくる。

 いつもながらに頼もしいと言うか、非常に便利と言うか……。

 あぁ、あとそれに加えて、


「孤児院の方も見張っておいてもらえるか? 屍鬼しきがやってきたら、すぐにリリアン殿とアリゼに伝えられるように」


 そう言うと、当然だ、と言う意思が返ってくる。

 これで、当面の心配はなくなったかな……。

 安心して屍鬼しき狩りに向かえる。

 まぁ、その前に、リリアンとアリゼにエーデルの手下たちが孤児院を見張っていることを伝えようか。


 ◇◆◇◆◇


「……そうですか。それは非常に助かりますわ。ありがとうございます」


 リリアンにエーデルの手下たちの見張りについて伝えると、そう言われる。

 リリアンは続けて、


「しかし、従魔をそのように使われて大丈夫なのでしょうか? 私も詳しくはありませんが、あまり沢山の魔物は従えられないと聞いたことがありますが……」


 と心配を口にした。

 エーデルたちが仕事をしない心配と言う訳ではなく、孤児院の監視の方に人手ならぬ鼠手を割いたら屍鬼しき探しの方に支障が出るのではないかと言う心配だった。

 しかし俺は首を振る。


「俺が従えていると言うより、エーデルが従えている感じですからね……物凄く沢山手下がいるようで、その辺りは問題ありませんよ」


「なるほど、直接従えられる数が少なくとも、間接的に従えることが出来ると言うことですか……」


 リリアンは俺を従魔師モンスターテイマーだと思っているからか、感心したような表情である。

 俺も俺で従魔師モンスターテイマーの常識は知らないから、これが普通なのかどうかも謎なので、一応、


「これは俺の秘密の一つなので、内緒にしておいてください」


 と言っておいた。

 実際、他の従魔師モンスターテイマーもやっていることかもしれないが、そうだとすると従魔師モンスターテイマーの情報収集能力がとんでもないことになるだろうからな。

 しかしそんな事実はないし、これはエーデルが可能にしている特殊な能力と考えた方がいい。

 まぁ、そのうち、従魔師モンスターテイマーの常識も仕入れた方が良いだろう。

 父さん……インゴに聞いてもいいが、あの人もまた、一般的な常識からは外れた存在である。

 もっとまともな、というか普通の従魔師モンスターテイマーの知り合いを見つけた方が良いな、と俺は思ったのだった。


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