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第13章 数々の秘密
第296話 数々の秘密と空駆ける亜竜

 リンドブルムに乗ってマルトに行くのはいいとしてだ。

 いざ乗るとなると緊張するな。

 父であるインゴはすでにその背に乗って、慣れた様子でどこかから取り出した手綱をかけているが……。


「……まぁ、緊張してもしょうがあるまい。完全に野生のリンドブルムだと言うのなら警戒すべきだろうが……こいつはきっちりインゴ殿に従えられているのだ。問題ないだろう」


 ロレーヌがそう言って、俺よりも先にリンドブルムに近づき、それからその鱗を撫でで、その背に上っていった。

 俺の百倍度胸があるな……。


「レント、結構悪くない景色だぞ! 早く来い!」


 リンドブルムの背中から俺にそう声をかけるロレーヌである。

 そう言われて行かないわけにもいかず、俺はリンドブルムに近づく。

 近くに行けば、その細かいディティールが明らかになる。

 てらてらと輝く鱗、縦長に瞳孔の走った瞳、ギザギザとした歯と牙の覗く大きな口に、蝙蝠の飛膜を巨大化し、頑強にしたような翼。

 全てが巨大で、およそ人に従うような存在には思えないが、実際にインゴはこれを手懐けているのだ。

 一体どうやっているのか分からないが、古代の人間と言うのはそういうことすらをも可能とする技術を持っていたと言うことなのだろう。

 なぜ滅びたんだろうな?

 分からないが……とりあえず登らねば。

 そう思ってさらに近づき、リンドブルムの肌に手をかける。

 ざらっとした感触がするが、ちょうどいいデコボコ感で登りやすい。

 俺が登っている間も、リンドブルムはおとなしくしていた。

 慣れているのだろう。

 そして、登り切ると、確かにロレーヌの言う通り、見晴らしがよく見える。

 いつもよりかなり高い視線になるからな。

 とは言え、周りにあるのは森だけなので、そこまでの感動はないが。

 そもそもこれから空を飛ぶのだから、そっちの方がずっといい景色だろう。


「よし、乗ったな。振り落とされないようにしっかりと捕まっていろ。急ぐからな」


 そう言ってインゴが手綱を引っ張ると同時に、リンドブルムの翼がバサバサと音を立てて空気を叩き始めた。

 徐々に空へと昇っていく巨体。

 見える景色が少しずつ高くなっていく。

 森の木々の間を抜け、北の森全体が見えて来た。

 遠くにハトハラーの姿も見えたところで、


「……おっと、そうだった。ロレーヌ殿。このリンドブルムが下から見えないように認識阻害の魔術をかけてもらえないか? 出来るだろう?」


 と、インゴが思いついたように言う。

 リンドブルムが空を飛んでいる姿くらい、稀ではあるが上を見上げていると見なくもない光景である。

 しかし、その口に手綱が噛まされていて、かつ背中に人間が数人載っているとなればまず見ない。

 もちろん、遥か上空を飛ぶリンドブルムを地上からそこまではっきりと見ることなど普通は出来ないが、冒険者などの中にはちょっと普通では考えられない技能を持つ者がある程度いるのだ。

 恐ろしいほどの視力を持つくらいの者は、むしろその辺に転がってると考えた方がいい。

 となると、下から見てもあまり気には留められないように対策をしておく必要がある。

 これにロレーヌは、


「……別に構わないが、いつもはどうしてるんだ?」


 言いながら魔術を構成し初め、そしてすぐに完成させてしまった。

 インゴはそれを確認しながら答える。


「滅多に乗ることはないが、必要な場合にはガルブに頼んでいる。ガルブがロレーヌ殿なら一通りの魔術は出来ると言うことだったのでな」


「つまり丸投げか……あの人は……」


 呆れたような表情をするロレーヌだが、ガルブはもともとそんな性格である。

 

「ま、ガルブについては気にするだけ無駄だな。あの人には村の誰も逆らえん……」


 村一番の権力者であるはずの村長が言うからには、本当にそうなのだろう。

 生き字引で、村の秘密を知る一人であり、強力な魔術師で、かつ薬師でもある……なるほど、村で逆らったらありとあらゆる意味で終わるなという感じであった。

 それから、インゴは、


「では、そろそろ進むぞ。空気の抵抗についてはリンドブルムが魔力でもって防いでくれるからそれほどではないが、それでも揺れはするからな。振り落とされないように気をつけろ」


 そう言って、手綱を引っ張る。

 すると、リンドブルムは翼を羽搏かせ、進み始めたのだった。


 ◇◆◇◆◇


 とてつもない速度でリンドブルムは空を駆ける。

 こんな光景など一度たりとも見たことがなく、感動が胸を突く。

 飛空艇に乗れば見れる景色なのかもしれないが、そんなものに乗れるような身分じゃないからな……。

 まぁ、身分というよりは財力の問題だが、そもそもいくら乗りたいと思ってもヤーランにはない。

 帝国にはあるから、ロレーヌは乗ったことがあるかもしれないが……。

 ただ、このリンドブルムからの景色はそんなロレーヌすら感動しているようだ。


「これは、素晴らしいな。ここまでの高空を飛ぶのは通常の飛竜では厳しい。滅多にできない経験だ……」


 飛竜も単体でならそれなりの高度は飛べるようだが、それでも長い時間は飛べない。

 外気温の変化に弱く、あまり高空を飛ぶと落ちるらしい。

 対してリンドブルムはそう言った問題はないようだ。

 さきほど、インゴが魔力によって空気抵抗をなくしてくれている、みたいな話をしていたが、体温についてもそのような手段で解決しているのかもしれない。

 それか、もともと気温の変化に強いとか?

 その辺りについては俺は専門家ではないから何とも言えないが……まぁ、問題がないならいいか。


 寒さもあまり感じられない。

 とは言え、元々俺はちょっと色々感じにくい性質になってしまっているのであれだが、ロレーヌも特に寒そうではない。

 ロレーヌも冒険者であるから普通より遥かに強靭な体を持っている、とも考えられなくはないが、インゴも寒そうではないし、大丈夫と言うことだろう。

 インゴは確かに村長で、リンドブルムを従える特殊な技術を持っているのかもしれないが、体は普通のおっさんだからな。

 身のこなしから分かる。

 リンドブルムに上るときもしっかりと中年男の動きだった。

 

「半日もあればマルトに着く。それまでは景色を楽しんでくれ」


 インゴはそう言って、手綱を強く握り、前を見据えたのだった。


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