「方策? それは一体……」
首を傾げるロレーヌに、カピタンが口を開く。
「インゴ。頼めるか?」
彼が声をかけたのは、俺の義理の父であり、村長でもあるインゴ・ファイナだった。
頼めるかって……インゴに何か出来るのか?っていうのも酷い話だが、何も想像が出来ない。
村長だから村での権威くらいはあるだろうが、それくらいじゃないのか?
そんな俺の視線を理解したのか、インゴは、
「……レント、私だとて、カピタンやガルブと同じ、歴史を伝えるものだぞ。それなりにな……」
と呆れたように言った。
若干の悲しみと言うか、息子に頼りになりそうもないという目で見られている失望が見える。ちょっと申し訳ない気分になった。
別に尊敬していないと言う訳ではないのだが、ことこの場面において何か出来るとは思えなくて……。
ちなみに、この場には今、俺とカピタン、ロレーヌにガルブしかいない。
母ジルダは村の女性たちと井戸端会議に出かけていて、リリとファーリは狩人と薬師の修行中らしかった。
指導者たるカピタンとガルブがいなくていいのかという気もするが、狩人の方は他にもカピタンの部下たちがいるし、薬師の修行の方は下ごしらえ的なことをしているにとどまるようで別に大丈夫と言う話だった。
つまり、ここには事情を知る人々しかおらず、色々言っても問題ないわけだ。
「《国王》だったっけ? でもカピタンやガルブみたいに特別な技能を伝えられてるってわけじゃないんじゃ……」
《魔術師長》とか《騎士団長》と言った分かりやすい役職を持っているガルブとカピタンが魔術や戦闘技術について特別な技を伝えられてきたのは分かる。
が、《国王》がそういったものを伝えられる、とは……。
知識とか歴史とか、そういうものを他の役職持ちより沢山伝えられてる、とかそんなものかな、という気がしていた。
しかし、インゴは言う。
「確かに、気や魔術については私は使えんがな。ただ、その代わりと言う訳ではないが、特殊な技術を伝えられている。話を聞くに、お前たちはマルトに出来る限り早く戻りたいのだろう? そのために、私が伝えられてきたそれが役に立つ」
「一体それは……?」
「見ればわかる。まぁ、それより、準備はいいのか?」
俺の質問に、インゴはそう尋ねて来た。
俺が、
「もうマルトへ行けるのか?」
そう尋ねると、インゴは頷いて、
「あぁ。急いでいるんだろう。忘れ物がないように気を付けるといい」
そう答えたのだった。
◇◆◇◆◇
「本当にこっちでいいのか……?」
森の中を歩きながら俺がそう尋ねると、インゴは答える。
「ああ。間違っていないぞ」
「しかし、こっちには何も……」
転移魔法陣のある遺跡の方向からもずれているし、どこに向かっているのかさっぱり分からない。
横を歩いているロレーヌも怪訝そうな顔だが、
「……まぁ、お前の親父殿なんだ。信じるしかあるまい」
そんなことを言っている。
まぁ、別にインゴに俺に嘘を言う理由も意味もあるとは思えない。
だから問題ないんだろうが、全く先が読めないので不安だった……。
とは言え、俺たちには黙ってついていくことしかできない。
仕方なく黙々と歩いていると、
「……よし、ここら辺でいいだろう」
インゴがふと立ち止まってそう言った。
そこは、北の森の中にあって、木々が避けるように開いた広場だった。
たまにこういう場所はあるから別におかしくはないが、しかしここで止まって一体……。
そう思っていると、インゴが口元に指を持ってきて、
――ピィーッ!
と、指笛を吹く。
「……何やってるんだ?」
俺が首を傾げてロレーヌにそう言うと、ロレーヌは、
「……まさかとは思ったが、おそらくこれは……」
と何か心当たりがある様子だった。
それから、周囲をきょろきょろと見渡している。
なんだなんだ、と俺だけ首をかしげていると、突然、空から風が吹いてきた。
「……なんだ?」
そう思って上を見てみると、そこには……。
「……竜?」
大きな翼を羽搏かせる竜が、そこにはいた。
しかし、俺の台詞にロレーヌが注釈を入れる。
「いや、あれは竜は竜でも、亜竜だ。タラスクの仲間だな……流星亜竜リンドブルム」
リンドブルム、というのはロレーヌが言った通り、亜竜の一種である。
ただ、亜竜と言っても侮れる存在ではなく、倒すのにはやはりタラスクと同様、冒険者ランクで言う所の金や白金級が必要になってくる存在だ。
そんなものがなぜ……。
そう思っていると、インゴが言う。
「……《国王》に受け継がれたのは、リンドブルムなどを初めとした、普通なら手懐けることが出来ないとされる魔物を従える技術だ。おそらくは、いざというときに《国王》だけでも逃げられるようにということだろうが……他の二人より勇ましさに欠けて申し訳ない気分になるな」
「つまり、父さんは、
「今風に言うとそうだな」
カピタンが知り合いの従魔師がどうこう、と言っていたが、あれはおそらくインゴのことを言っていたのだろう。
これだけ近くにいれば色々と聞けるよな……。
しかし、リンドブルムを従えるか……。
上位の亜竜なんて、
そんなことが可能なのか……。
俺がそんなことを思っていることが表情から理解できたのか、ロレーヌが、
「人間の従えられるのは小型の飛竜が限界と言われているが……こうして実際に従えているのだから出来るとしかあるまいな」
そう言ってインゴとリンドブルムを見た。
インゴは地面に着地したリンドブルムの鼻先を撫でている。
リンドブルムは非常に機嫌良さそうに、インゴに頭を擦りつけていて、なるほど、確かに完全に従えているなと分かる様子であった。
ロレーヌは続ける。
「しかし、これなら確かに半日あればマルトまで戻れるな。馬車で五日かかる距離も、空を飛べればひとっ飛びと言う奴だ。リンドブルムの飛行速度は流星や雷に例えられることもあるほどであるし……」
まぁ、確かにリンドブルムに乗っていけると言うのならその通りだろう。
心配があるとすれば、果たして俺たちが乗れるのかと言うことだが……。
俺は尋ねる。
「父さん、そいつにマルトまで乗せてってもらう、ってことでいいんだよな?」
「ああ。私の言うことなら聞くからな。覚悟はいいか?」
そう尋ねたインゴに、俺たちは頷いた。
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