「……つッ!?」
森で先日のようにカピタンと《気》の修行をしていると、唐突に頭痛が走った。
別に頭痛くらいたまにあってもおかしくはなかろう、これだけ厳しい修行をしてるんだし、という話になるかもしれないが、俺はこの体になってからそう言った人間的な苦しみからは完全に開放されているのだ。
肩コリから始まり、腰痛、筋肉痛、虫歯……すべての苦しみが俺の体から去った。
そんな俺に今更普通の頭痛が襲ってくる?
あり得るはずがない。
つまり、何か理由がある痛みだ。
「……どうした?」
流石にカピタンもおかしいと思ったのだろう。
そう俺に尋ねてくる。
俺は答える。
頭痛の先、何かに繋がっているような感覚、俺を呼ぶような、非人間的な声……。
そこから頭痛の理由を推測して。
「……たぶん、俺の使い魔に何かあったんだと思う。軽い頭痛がしたんだ」
「使い魔? あぁ、マルトに残って情報収集しているとか言う、お前の従魔か。しかし、従魔ってやつはこれだけ離れていてもその身に起こったことを主に伝えられるものなのか? 知り合いの
確かに、
その従魔の従え方はかなりの秘密主義だが、俺のそれとは異なることは容易に想像がつく。
その効果もだ。
その気になれば、主から魔力や気を奪い取っていける従魔関係など
まぁ、絞れば防げはするが、エーデルは必要なときにだけ必要な分、奪っていく。
少々疲労がたまっても、別に無理に止めるようなものではない。
だからいいのだが……。
どっちが主従だ、なんて心の中で突っ込んでいるのはただの軽口だ。
それにしても、カピタンには
顔が広すぎる。
まぁ、それは今はいいか。
俺はカピタンの質問に答える。
「俺の場合は普通の
「じゃあ、その頭痛は気のせいなんじゃないのか?」
その可能性はないではない。
けれど、俺に伝える感覚があるのだ。
さっきまで繋がり、意識を持っていたものが、なくなったということを。
まさか、死んだと言うこともないだろうが……いや、絶対にありえないとも言えないな。
とにかく、どうにかして無事を確認したかった。
憎らしい憎らしいと普段言ってても、やはり大切な使い魔である。
せっかく縁で主従関係になったのだ。
向こうが何が何でも俺を主として仰ぎたくない、と思っていたというのならともかく、こんな形でお別れするわけ位にはいかないのである。
俺はカピタンに言う。
「気のせいじゃない。ただ、どんなことがエーデルの身に降りかかったのかは……マルトまでいかないと分からない」
「……そうか。となると、マルトに帰ると言うことか?」
「あぁ。でも馬車じゃどんなに急いでも五日はかかる道のりだからな。すぐに準備しないと……」
気の修行が中途半端で非常に残念だが、こればっかりはな。
万全を期して帰ってみればすでにお亡くなりになってしましたじゃ、エーデルも浮かばれないだろう。
そう思って、俺が村に戻る準備をしていると、カピタンが、
「……別に半日程度で帰れる手段がないわけじゃないぞ」
と言って来た。
その言葉に、俺は一つの存在が浮かぶ。
「転移魔法陣か?」
あれがマルトまで続いてるものがあるというのなら、即座に戻ることも出来るだろう。
同時に、もしそれが可能だとすればそれ以外にないような気もした。
しかし、カピタンは意外なことに首を振った。
「違う。もっと別の方法だ」
「別の方法?」
首を傾げる俺にカピタンは、
「とにかく、一旦村に戻った方が良いな。早く話した方がいい。急ぐんだろう?」
歩きながらそう言われて、俺も慌ててついていく。
何か方法があるのなら、ぜひそれを使いたい。
エーデルの身が心配だった。
◇◆◇◆◇
「何? エーデルが?」
ロレーヌが驚いたようにそう言った。
村についてからまず、俺たちは村長の家に来たのだ。
そこでロレーヌがガルブから色々と学んでいるからである。
俺たちと異なって森の中でやっていないのは、魔術とはまずは理論から始まるもので、そこについては座学で学ぶしかないから、ということらしい。
まぁ、俺やアリゼもロレーヌから初歩を学ぶときはそうだった。
魔術が高度になってもその基本は変わらないと言うことだろう。
俺はロレーヌに言う。
「ああ、具体的に何があったのかは分からないが、何か異常があったことは間違いないと思う。こんなこと、今まで一度もなかったからな」
「睡眠をとっているだけ、ということはないのだな?」
であれば、全く繋がりが感じられないのも一応説明がつくと考えての言葉だが、俺は首を横に振ってこたえる。
「あぁ。違う。ただ普通に睡眠をとっているだけなら、頭痛なんてないんだ。あいつも俺の眷属になって休憩はあまりとらなくても平気になってたみたいだが、それでも一応、習慣か一日に一、二時間くらいは眠っていたからな。そういうときはすっと繋がりが静かになるような感じで……。なんていうかな、今回は無理に引き裂かれた感じと言うか」
こればっかりはうまく説明ができない。
こんな経験をしている人間など、中々いないからだ。
もしかしたら
ロレーヌは俺の言葉に頷き、言う。
「そういうことなら、早くマルトに戻らなければな。仲間の危機だ」
ペット程度の扱いかと思っていたら、結構立場は高かったようである。
俺もそれくらいの認識であるので、ちょっと嬉しい。
俺も頷いて答える。
「ああ。そうだな」
「しかし……馬車で戻っても五日はかかるぞ。転移魔法陣がマルトに繋がっていればいいのだが……まだ確認できていないし、あるかどうか……」
ロレーヌもまた、移動手段についてすぐに頭に上ったようだ。
これに対し、カピタンが言う。
「いや、それにはちょっとした方策がある」
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