カピタンは言った通り、俺に一通りやり方を説明した後は延々と実践をさせた。
「……よし、そのまま保ってろよ」
カピタンは、俺にそう言う。
俺の方は何をしているかと言えば、先ほど教えられた気の物質化をやっているところだ。
と言っても、カピタンのように全身を覆うようなことは出来ていない。
そうではなく、手のひらを覆うような形で、不格好な気の鎧を維持しているだけだ。
はっきりとは見えないが、感覚的に分かる。
本当は皮膚の上にもう一枚、皮膚を作るような感覚で出来るのが一番だと言うことだが、俺が作っているのは皮膚一枚どころか、厚手の手袋をつけているようなものだ。
しかも、その強度は脆い。
カピタンが木の棒をもって、俺が作った気の鎧ならぬ気の手袋を叩く、という作業を何度も繰り返しているわけだが、軽くたたいたくらいでぱきりと壊れてしまうのだ。
まぁ、カピタンもカピタンで、木の棒に気を込めて叩いているので、一般的な鉄の剣くらいの強度はある棒になっているから、そこまで捨てたものではないだろうが、それでもまだまだ足りないのは当然の話だ。
……やっぱり、一朝一夕でどうにかなりそうではない。
しかし、コツコツ続けていけばまぁ、そのうちなんとかなりそうではあった。
カピタンも、
「……ま、一日目でそんだけ出来れば上出来だろうな」
と言ってくれる。
しかし、
「カピタンみたいに体全体を覆うようななのが出来るようになるにはどれだけかかるのか……」
と俺が言うと、カピタンは、
「さぁな。それこそ努力次第だ。ただ、一部でも出来るようになればお前なら十分なんじゃないか? 相当目が良くなってるみたいだしな」
確かに、この体になって目は良くなっている。
反射神経も良くなったし、一部だけでも気で防御できるようになれば、体の好きなところに盾を出すような感覚で戦えそうではある。
「……でも多用するのは厳しそうだ」
「それはそんだけ無駄遣いしてるからだろ。薄くしろって言ってるのはその方が消耗が少ないからだ……おっと、そこ、歪んだぞ」
言いながらカピタンは容赦なく棒でたたいてくる。
壊れるたびに修復する、を繰り返しているのできつい。
そして、とうとう気が尽き、一切放出できなくなった。
気を出そうとしても、何も感じられない。
それをカピタンも察したようで、
「今日のところは終わりだな。気が出なくなったんじゃ、どうしようもない。無理に出す方法もないではないが……」
「そんなものがあるのか?」
「ああ。寿命削れば出来るぞ。普段よりも強い力も出せる。が、お勧めしない。理由は明らかだろ?」
俺の質問に恐ろしい返答をしてきたカピタンだった。
それから、ふと思いついたような顔で、
「……お前、寿命ないんだからいけるかもな? ないよな、寿命?」
と言ってきたが、俺は首を横に振って拒否を示す。
「勘弁してくれ。寿命は……あるかどうかわからないんだから。そもそも厳密にいうと俺はなんなんだかわからない存在なんだからな。変なことしたらやばいかもしれないだろ」
実際、切られたらすぐに治るし、眠くもならないし……という諸々の特徴を考えると
実際、その寿命を削ってどうにかする方法を試してみて、死んでしまったらどうするんだ。
というか、そもそも……。
「カピタンはやったことがあるのか?」
「あるわけないだろ。俺だって命は惜しい。ただ、やり方については伝えられているからな。やろうと思えば出来ると思うぞ。教えることも可能だ」
「また物騒な技法を伝えて来たものだな……」
「いざってときはあるからな。切り札として伝える必要があったんだろ。ただ、実際に使った奴がどれくらいいたのかは分からないがな。ハトハラーにいる限り、使う機会なんてほぼない」
まぁ、転移魔法陣を守って来たんだから、何かとんでもないのが来た時のためにそういうものを伝えておく必要はあったというのは分かる。
カピタンにそういうものが伝えられてきたのだから、ガルブの方にも何か物騒なものが伝えられているのかな……。
それをロレーヌが学んでいるわけか。
なんだか恐ろしくなってくるな。
心配し過ぎか。
そんなことを話ながら、俺とカピタンは村へと戻っていく。
◇◆◇◆◇
「……これはまた、随分と豪華だな」
家に戻ると、そこにはすでに夕食が出来上がっていた。
村長の家であるからテーブルも大きく広いわけだが、そこには沢山の料理が並べられている。
明らかに、俺とロレーヌと両親だけが食べるため、という感じではない。
それもそのはずで、村長家には普段は見られない人数の人がいた。
俺とロレーヌ、それに両親は言わずもがな、そこにカピタンとガルブ、それにリリとファーリまでいる。
「……なんでお前らまで」
俺がそう言うと、リリがその勝気な瞳をこちらに向けて、
「だって、ガルブおばあちゃんと、ジルダおばさんが料理を教えてくれるっていうから」
と言って来た。
俺は眠そうな顔立ちのファーリに、
「……そうなのか?」
と尋ねると、彼女も頷いて、
「うん。そうだよ。大事な料理を教えてくれるって……」
と言いかけたところで、リリがファーリを引っ張って台所に連れていった。
「……一体何だっていうんだ?」
俺がそう呟くと、料理を運んでいたロレーヌが、
「まぁ、あまり聞かんでくれ。それより、どうだ。まぁまぁ良くできているだろう?」
とすでに出来上がっている料理を示しながら言う。
確かに、どれも良く出来てはいる。
ただ、俺の義理の母であるジルダが作ったものではないのは分かる。
微妙に違うんだよな。
それが悪いと言いたいわけではもちろんない。
「リリとファーリが作ったのか?」
「ああ、それと私もだ。ハトハラーの伝統料理なのだろう?」
「……そうだな。どれも昔からよく出されているものだ。どの家に行ってもハトハラーなら頻繁に見るな」
と言っても、どこかの村のような虫料理ではなく、普通の肉や野菜を使った料理だ。
まぁ、魔物のそれももちろん含まれているが、虫はないな。
あったら俺はもっと虫好きになっているだろう。
どちらかと言えば、苦手だ。
「ま、味の方はどれくらいうまくできたかは分からんが……後で感想を聞かせてくれ。マルトに帰っても作れた方が良いだろう?」
ロレーヌがそう言ったので、俺は頷いて、
「わかった」
そう言って、席についたのだった。
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