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第13章 数々の秘密
第290話 数々の秘密と気の神髄

「それで、やり方だが……まず、見た方が分かりやすいだろう」


 カピタンはそう言って、《気》を体に集中し始めた。

 試合のときに見せたときと同じ気配がする。

 沢山の《気》が、カピタンの体の表面に凝縮されていくのを感じる。

 そして、カピタンはしばらくして、ふぅ、とため息を吐くと、


「これでいい……ほれ、触ってみろ」


 と言って、自分の右腕を示した。

 ……特に何か変わっているようには見えない。

 強いて言うなら、身体強化を使っているときの気配を少し強めたような《気》の気配がする程度だ。

 しかし、実際に触れてみると……。


「……おぉ。これが……」


 触れてみると、カピタンの腕自体の感触ではなく、何かに一枚隔てられているような、そんな感触がする。

 ばちりとした、静電気のような感じと言えばいいのか。

 押し返されるような斥力がそこにはある。

 ためしに強く力を入れて押してみるが、押した力の分に少し力が加えられた反作用が働いて、押し返される。

 

「こんどは、こいつで切ってみろ」


 カピタンはそう言って、短剣を俺に差し出してくる。

 しっかりと研がれた実用品だ。

 そんなもの、別に戦っているわけでもないのにカピタンに向けることに忌避感を感じ、


「いや、でも……」


 と俺が逡巡していると、カピタンは呆れた表情で、


「……お前、試合のときは殺す気で向かって来てただろうが、今更何言ってんだ」


 と言って来た。

 確かにそれはその通りなんだが、戦闘中と言うのは良くも悪くも倫理観のタガが外れるからな。

 興奮が理性を上回ると言うか……なんかヤバい奴みたいだが、多かれ少なかれ戦士と言うのはそんなものだろう。

 しかし、今は平常時なのだ。

 どっちかと言えば控えめな性格の俺としてはいいのかな?とか思ってしまう。

 ……控えめだぞ?


 俺がそんなことを考えていると知ってか知らずか、カピタンはさらに言う。


「まぁ、何にせよ、本人が別にいいって言ってるんだ。この状態を維持するのも結構だるいんだから、さっさとやれ」


 顔には出ていないが、意外に結構消耗するらしい。

 そういうことならさっさとやるべきだろうな、と心を決めた俺は、カピタンの腕に短剣を振り下ろす。

 早くしようと思っていたから、実際に短剣はかなりの速度でカピタンの腕に向かって振り下ろされた。

 あ、ちょっと強すぎたかな、と思ったが、まぁカピタンなのであるから、大丈夫だろう……。

 

 実際、短剣はカピタンの腕に突き刺さることはなかった。

 短剣は、先ほど手で押したときと同じように、弾き返されて吹っ飛んだ。

 どうやら、力を込めれば込めるほど、弾き返す力も強くなる、ということのようだった。

 これはいいな、と思う。

 カピタンは感心しながらそんなことを思う俺に、


「……さっさとやれとは言ったが、そこまで本気でやらなくてもよかっただろ」


 とちょっと睨みながら恨み言を言う。

 短剣の速度から、俺が結構なガチ具合で腕に短剣を突き刺そうとしていたことを察したらしい。

 だってやれっていったじゃん、と思い、軽く睨み返すとため息を吐かれた。

 まぁ、確かに少し力は込めすぎたのは確かだけど。


「まぁ、いい。しかし今のでなんとなく雰囲気は分かったろ?」


 そう聞かれたので、俺は頷く。

 

「気の……鎧みたいなものを作る技術ってことか?」


「まぁ、今のはそういう利用の仕方だが、もっと一般化した言い方をするなら……気の物質化、だな。魔術にもあるだろ? シールド作ったりするあれだ」


 そう言われて、なるほど、と思う。

 俺が魔力が弱いころにもなんとか少しだけ使えていた技術の一つだ。


「《気》でも同じことが出来るってことか?」


 俺の質問にカピタンは少し首を傾げて、


「まったく同じってわけでもないな……まぁ、俺は魔術は専門外だから、ガルブの婆さんからの受け売りみたいになるが、魔術によるシールドは事前にしっかりとその形状なり維持する時間なりを構成した上で作り上げるものなんだろ?」


 まぁ、確かにそうだ。

 魔術と言うのはなんだかんだ言って、かなり理論的な力だ。

 その構成がしっかりしていなければ、すぐに失敗する。

 シールドの維持程度でも構成はしっかりやらなければだめだ。

 

「気は違うのか?」


「まぁな。こっちはもっと感覚的な力だ。理屈に沿って作り上げる、っていうよりかは感覚で掴んで操り方を覚える、って感じだ。だから、こういっちゃなんだが、ずっと愚直に使いつづければ、馬鹿でも出来るようになる。頭はいらない」


 物凄く身もふたもない言い方だ……。

 ただ、分かる気はした。

 魔術は理論であるからして、地頭の出来は非常に重要だ。

 そして、頭脳が強く影響する関係で、魔術の天才と言うのは学問的な天才にかなり近似する。

 対して《気》の使い手は……こう言っては何だが、勉強が出来れば同様に出来るようになると言う訳ではない。

 むしろ、馬鹿が多い、というと怒られそうだが、有名な《気》の使い手の中には単純思考を形にしたような人物も少なくない。

 それは、別に理論を組み立てて、という魔術に必要な作業が、《気》の場合にはそれほど重視しなくてもいいからだろう。

 もちろん、頭はいい方がいいだろうけどさ。

 そういうことを考えると、カピタンは《気》の使い手にしては頭脳派かもな……言ったら怒られそうだけど。

 カピタンは続ける。


「気の物質化は身に付ければ色々なことが出来る。気の形状を自由に操れるんだ。たとえば……こんなことも可能だ」


 そう言って、カピタンは地面に落ちている短い枝を拾い、手に持つ。

 何をするのかと思ってみていると、そこに気の力を込め、そして次の瞬間、上からはらはら落ちて来た木の葉を、ざんっ、と切り裂いた。

 

「……今のは」


 俺が驚いていると、カピタンは説明する。


「何も触れていないように見えただろ? だが、この枝の先には俺が伸ばした気の刃がある。それで切ったのさ」


 そう言って、つつ、とその不可視の刃に触れるそぶりをした。

 カピタンは俺にもその刃部分を差し出し、触れるように視線をしゃくったので、言われた通り、おっかなびっくりと俺はそれに触れる。

 すると、確かにそこには何かあった。

 何も見えないが、長く伸びた刀身の存在が。

 カピタンは言う。


「慣れればこんなことも出来るってわけだ。形状も自由自在だ。便利だろう?」


 確かに、便利だ。

 というか、不意打ちに最適である。

 こんな使い方を思いつくのもどうかと思うが、暗殺なんかに重宝しそうでもある。

 

「もちろん、欠点もある。消耗が結構激しくてな。普通に戦うなら武器にただ気を込めるだけの方がずっと楽だ。これは切り札か、最後の手段にでもとっておいた方がいいかもしれん」


 先ほどからずっと、気の物質化をし続けているカピタンの額には汗が見える。

 かなり消耗している、ということなのだろう。

 俺よりもずっと《気》の使用に優れているカピタンをしてこれなのだから、俺にどのくらいこれが出来るのかはわからないが……。

 カピタンは言った。


「じゃあ、とりあえずはやってみるところからだ。やり方? 叩き込んでやるからただひたすらにやれ。練習すればそのうち出来るようになる」


 その顔はずっと昔に見た鬼教官の顔で、俺の脳裏には酷い思い出が蘇ったのだった。 


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新作 「 《背教者》と認定され、実家を追放された貴族の少年は辺境の地で、スキル《聖王》の使い方に気づき、成り上がる。 」 を投稿しました。 ブクマ・評価・感想などお待ちしておりますので、どうぞよろしくお願いします!
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