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第13章 数々の秘密
第276話 数々の秘密と煽り

「何を言うかと思えば、そんなことかい」


 ガルブが俺の言葉にため息を吐きながら言った言葉がそれだった。

 ガルブは続ける。


「レント、あんたは私らの弟子だ。弟子が背負っているものくらい、師匠である私たちが背負えなくてどうすんだい。ねぇ、カピタン?」


 話を振られたカピタンも、ガルブ同様の気持ちのようで、


「まったくだな。大体、どんな秘密を抱えているか知らないが……お前のことだ。何かやばいことをした、と言うよりかは何かに巻き込まれた、とかそういう話だろう。流石に大罪を犯した、と言う話だったら自首を勧めるだろうが……違うよな?」


 最後の方はほとんど冗談めかした口調だった。

 そういうことを俺がしない、と理解した上で信じてもくれているという意思表示に他ならなかった。

 こんなご時世である。

 絶対にそういうことがありえないとは言えないだろうが、それでも俺は最後の選択を誤らないと思ってくれているのだ。

 ありがたい話だった。

 ロレーヌもそう思ったのか、俺の肩をぽん、と叩いて、


「よい師匠方に恵まれたな。私の師とは大違いだ……」


 と、意味ありげな台詞を口にしたが、そこは突っ込まないでおこう。

 なにせ、思い出すにロレーヌの師匠ってあれだろ。

 短杖ワンドの製作のときに短杖ワンドをぶん投げられた人だろ?

 可哀想……。

 それを考えると俺は師匠に恵まれている。

 ガルブには毒を飲ませられたし、カピタンには誰もいない野山に放り出されて生き残れ、と言われたこともあるけれど。

 ……恵まれているよな?

 まぁ、ガルブは絶対に死なないよう、かつ後遺症も絶対に残らないよう、細心の注意を払って行ったと言うし、カピタンにしても当時の俺にはまるで気づけなかっただけで、夜通し見守っていてくれたらしいから、やっぱり恵まれているのだろうな。

 

 俺はカピタンに答える。


「もちろん、罪なんて犯してはいないさ。ただ、罪とされる場合もありそうだけど……」


 吸血鬼ヴァンパイアであることそれ自体が罪だと言われるとな。

 まぁ、俺は罪人だろう。

 ニヴからすれば鬼・即・斬だ。

 まっさらな雪の平原を見つけた子猫よりも凄い勢いでこっちに向かってダイブしてくるだろう。

 絶対に勘弁願いたい。

 まず可愛くない。

 見た目は整ってはいるのだが……目の輝きとかがな。

 肉食獣のように爛々とし過ぎ。

 猫も肉食かも知れないが、可愛さのレベルが違う。

 ……怒られそうだから、この辺にしておこう。


「罪とされる場合がある? それは一体……」


 カピタンが俺の言葉に首を傾げる。

 ガルブも同様だ。

 しかし、おぼろげながらに、ガルブは理解しつつある輝きを瞳の奥に宿しかけている。

 まさかこれだけの情報で分かるのか?

 あの婆さんヤバすぎないか……と思うが、思った途端に睨まれた。

 勘がね、あの人は鋭すぎるんだよ。

 もう少し鈍くなってくれ。無理か。

 ガルブは首を捻りきりなカピタンとは異なり、なるほど、と言った様子で言う。


「カピタン、私はなんとなくわかったよ。しかしそれは信じがたい話でもある……もしそうだとすれば、レント。あんたは……相当苦労してきただろう。それなのに、以前と変わらない様子なのは、あんたの努力か、それとも周りにいる人たちのお蔭か……大変な幸運だ」


 ……ダメだな。分かられてる。

 

「ガルブの婆さん、あんただけ分かった風に言うなよ。俺には全く分からんぞ……なぜもう分かるんだ」


 カピタンは肩をすくめつつ、ガルブに文句を言う。

 すると、ガルブは、


「そりゃ、年の功ってやつじゃないかい?」


「あんたな……」


 冗談めかした口調のガルブにさらに口を尖らせたカピタンである。

 村一番の狩人も、この婆さんの前では子供のようなものだという証明だった。

 とは言え、ガルブも別に誤魔化すつもりで言ったわけではないようだ。

 少し考えてから、


「……まぁ、別にあんたなら素直に受け入れられるだろうが……あんたは理屈どうこうよりも体で理解した方が分かりやすいだろう。カピタン、あんた、レントと戦ってみるといい。それで感じるんだ。レントが、どう変わったかを」


「何を……言ってるんだ? レントが変わった……強くなったと言うのは分かっているが……」


「そうじゃないさ。ねぇ、レント。あんた、前とは根本的に違う・・だろ?」


 ガルブがそう言って俺に話を振る。

 ……確かに、それはそうだな。

 戦い方の基礎は銅級冒険者時代に身に着けたものではあるが、この体になって色々出来ることが増えた。

 例えば、肩の関節を気にしないで剣を振れる。

 どういうことかと言えば、肩を同じ半径でずっとぐるぐる回し続けられるのだ。

 可動域が三百六十度になったと言う訳だな。

 首もそうだし、足も。

 およそ関節と言う関節が人間だった時と比べるともう化け物のようになっている。

 まさに化け物なのだから当然と言えば当然なのだけど。

 ただ、滅多にそういう戦い方はしない。

 なにせ、身に着けた武術は全部人間用のそれだ。

 人間の関節の可動域を基礎に組み上げられているもので、そこから外れた行動をすることは、もう新たな武術の創造に近い。

 俺にはそこまでのことが出来るとは……。

 よっぽどの危機に陥ったらやるだろうけどな。

 たまに練習もしている。

 そういうのを見せてみればいいかな?

 気持ち悪い、とか言われたらやだなぁ。

 だって俺も鏡で見ると未だにまぁまぁ気持ち悪いからな。

 副産物かどうか、肩こりはなくなりました。


「確かに違うけど、カピタンにそれが引き出せるかどうかは分からないな。タラスクを相手にしても、そこまでのことはしなかったくらいだし」


 せいぜい、体が前より相当丈夫になっていることを見せられるくらいか。

 傷が出来ればすぐに治るのも見せられるな。

 それ以上は、カピタンの力次第だが……本当に俺の本気を引き出せないとか思っているわけではない。

 なんというか、試合をすることはもう約束しているのだし、ちょうどいいかなと思って煽ってるだけだ。

 カピタンは俺よりも脳筋寄りだからな。

 ガルブもそれが分かっていて言っている節がある。

 弟子とか部下の前では頑張ってある程度インテリぶってるけど、限界がある。

 カピタンは案の定、俺の言葉に乗り、


「……いいだろう。そこまで言うのなら、戦おうじゃないか。泣いて謝るなら今の内だぞ?」


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