……説明が色々と錯綜して分かりにくい部分があったから、まとめてみると……。
まず、転移魔法陣の出口側が何かしらの障害物で塞がれている状態で入り口側の転移魔法陣を発動させても、障害物と融合したりぶつかったりすることはない。
ただし、転移魔法陣はその場合も発動し、出口側の障害物がない地点に出現する。そしてそれは縦移動なので、障害物の上に転移することになる。
さらに、その場合には出口側の転移魔法陣は塞がれているので、帰っては来れない。この部分が俺たちにとってはかなりつらいな……。
また、転移魔法陣が絨毯などの薄い布のようなもので塞がれている場合には、普通に転移できるし、戻ってくることも可能だ。
これはそれほど問題なさそうだな。出口が塞がれているにしても、せいぜいそんなものであってほしい、と願うばかりである。
ま、転移魔法陣の挙動についてはこんなところか。
まだいろいろあるかもしれないが、今は問題にならないのでとりあえずはいい。
「……で、どうする? 未知の転移魔法陣を一つぐらい試してみるか?」
ロレーヌが真剣な表情で尋ねて来た。
しかしだ。
「流石に一方通行の危険があるようなところにはな……」
そう答えるほかあるまい。
ロレーヌもこれには頷いて、
「そうだな……」
と残念そうに答えた。
しかし、ガルブが、
「……一応、一方通行かどうか、試す方法は伝わっているよ。やったことはないけれど」
そう言ったので、俺とロレーヌは飛びつく。
「教えてくれるのか?」
「ぜひ、教えてください。ガルブ殿」
そんな風に。
するとガルブは、
「簡単さ。その辺の石ころに血をつけて転移魔法陣の上に置けばいい。そうすれば、一方通行でなければ、数分で戻ってくる、ということだよ」
言われてみると、なるほど、分かりやすい話だ。
血がカギになっているわけだから、血のついた品を置いておけばそうなる、ということだ。
けれど、問題もありそうだ。
ロレーヌがすぐに気づいて言う。
「……その場合、それこそ出口側が玉座の間とかだったら、唐突に血の付いた物体が現れることになるな。転移魔法陣の存在がばれるわけだ。今までそこにはないと思っていたそれが、確かにあって、使えるものだと……。血は少量で、見つかりにくいようにしても、本気で詳細に調べれば分かってしまうかもしれんし……リスクはあるな」
ガルブもこれに頷いて、
「そうさ。だから私たちは試していない。けれど、あんたらにはそれがある。リスクが全くないように、というのは無理かもしれないが、かなり下げることは出来るんじゃないかい?」
《アカシアの地図》を指さしてそう言った。
なるほど、確かにな。
《アカシアの地図》には不完全ながらも転移先の情報が記載されている。
なんとか王国王都、とかなんとか共和国首都、とか書いてあったらそこそこ危険だが、そうでない記載である場合にはこの方法を試してみてもいいかもしれない。
あとは……そうだな。
エーデルの手下たちを活用してもいいな。
彼らに血を一滴付けて、転移魔法陣を発動させてもらうのだ。
可能なら戻ってきてもらい、それが無理そうな場合にはその体の小ささと素早さを活かして逃げてもらう。
出来る限りさっさと水場に移動してもらうといいかもしれない。
そうすれば、仮に捕まっても転移魔法陣は二度と使用できない。
血さえなければ研究のしようもない。
結果が出なければいずれ諦める。
たとえ宮廷魔術師や宮廷錬金術師でも、あまり長い間結果を出さないと首になるらしいからな。
その辺の事情は、たまに市井の者の噂話にも上る。
どこそこ王国の宮廷魔術師の方が解任されたんですって、お気の毒にってな感じでな。
世知辛い話だ。
ともあれ、おれは答える。
「確かにそうだな……エーデルたちに協力してもらえば隠密性も保てるかもしれないし」
するとガルブが、
「エーデル?」
「あぁ……俺の、従魔、みたいなやつだよ」
するとカピタンが、
「レント、お前、
と少し驚いたような声を出す。
ただ、そこまで驚きが大きくないのは、俺が村にいる間色々やっていたことを分かっているからだろう。
カピタンだって俺に技術を教え込んだうちの一人、というか筆頭なんだしな。
ただ、別に俺は
だから首を振る。
「いや、そういうわけじゃないんだ」
しかし、そう答えれば当然、
「……では、どうして従魔など得られたんだ……? あれは特殊技能では……」
そういう疑問が出てくる。
確かにそうなんだよな。
普通、従魔なんて
全くないわけでもないのだが、それこそもっと特殊な場合だ。
俺の場合もまぁ、その特殊な場合に入ると言えば入るが……どう説明したもんかな。
この二人には正直に言ってもいい気がするが……。
そう思って悩んでいると、ガルブが敏感に察したのか、
「……ふむ。そいつがあんたの抱えている《秘密》ってわけかい?」
と尋ねて来た。
これに対しては別に誤魔化す必要はないだろう。
というか、ガルブに誤魔化しても見抜かれるし、それなら初めから正直にしておいた方がいい。
「ああ。その一部、かな……秘密の内容については、二人に話すかどうか悩んでるんだが……」
「それはなぜだ?」
カピタンがそう尋ねてくる。
俺は言う。
「教えること自体は別にいいんだ。二人は俺の秘密をきっと守ってくれるだろう。そのことに疑いはない……だけど、村のことがあるからな。ハトハラーを普通の村にしたいって言ってただろ? 二人とも、この話を聞いたらまた妙なことに巻き込まれることになって、困るんじゃないかって……」
ガルブもカピタンも、ハトハラーをもう、大きな秘密を抱えた特殊な村から、普通の村にしたい、と言っていた。
それはつまり、二人ともこれ以上秘密なんて抱えるのに疲れたと言うことではないだろうか。
常人と比べて、相当に大きな度量をもっていることは知っているが、どんなに凄い人でも人間である。
疲れた、と思うことはあるだろう。
そして二人ともそれだけのものを背負ってきたのだ。
ここで更に荷物を背負わせるのはどうなんだろうな、と思ってしまう。
親のいなくなった俺の、親代わり、家族みたいな人たちでもあったわけで、どうしても躊躇がある。
オーグリー?
あいつは面白いことには首を突っ込みたがるタイプだからいいんだ。
なんて、言ってみたが、正直、良く知る友人の支えが欲しかったと言うのが真実だ。
ロレーヌもシェイラもいるし、信用しているが、オーグリーはまた彼女たち二人とは違った意味で深い友達なのだ。
辛い銅級を一緒に頑張っていたという、ある意味で戦友のような。
だから巻き込んでもいい、というわけではないだろうが、少しだけ、一緒に背負ってほしかったというか……。
ガルブとカピタンは、そう言う意味で、オーグリーとは少し異なる。
背負わせてしまいたくない、と俺は思う訳だ。
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