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第13章 数々の秘密
第273話 数々の秘密と地図の仕組み

「……この感じで全部の転移魔法陣の地図を作ったら、ここからすんなりどこでも行けそうだな。旅行業も始められそうだ」


 俺は楽しげにそう言ってみるが、三人はかなり考え込んでしまってそんな俺を無視して思索にふけっている。

 ……まぁ、気持ちは分かる。

 この《アカシアの地図》については色々考えるべきことがあるだろうからな。

 ただ、頑張って場の空気を明るくしようとしたのにこの仕打ちはないだろう。

 芸人殺しだ。

 芸人名乗れるほど話術は優れていないけども。 


「この転移魔法陣は、迷宮由来ではなく、ハトハラーの村人が付属させたものなのでしたね?」


 ロレーヌがガルブに尋ねる。


「ああ、そうだね。ハトハラーへと続く転移魔法陣については記録も残っていないが……おそらくはあそこに移り住んだ時代にこことの行き来をするために付属させられたものだ。王都の下水道へのものは、かなり昔になるが、村の昔の《宰相》が使った、ってこと話したね」


「ええ。となると……この《アカシアの地図》はその情報をどこから仕入れているのか問題になる。こういうタイプの魔道具は色々と方式があるが、基本は持ち主本人の五感や知識を利用し、それに基づいて情報を得るタイプだ。だが……」


 ロレーヌが説明して俺を見たので、俺は少し考えて首を振った。


「それはたぶんこれについては違うだろうな。なにせ、俺はあの砦が古王国のものだ、とは分かってても、王都の下水道が建国期のものだなんて知らないし。数百年単位の古さだとは師匠から聞いたが、それくらいで」


 仮に俺の知識や五感を使って情報を得ていると言うのなら、転移魔法陣の記載は《至なんだかよくわからないハトハラー周辺の砦》とか《至王都のすごい古いらしい下水道》とかになるはずだ。

 ……もう少しかっこよく記載されるかな?

 いやぁ……俺の五感や知識を使ったらそんなものだろう。

 ロレーヌも頷いて、


「そうだろうな。私もあの下水道が建国期のものだ、などとは推測できなかったし、専門家でもないレントにそれを判別しろと言うのも無理な話で……したがってレントの知識に基づいて地図が記載されたわけではない。しかしそうなると、一体どこから来た情報なのか?」


 ロレーヌの問いに、ガルブが答える。

 彼女もまた、魔術師であり、かつ錬金術師だ。

 こういった魔道具については詳しいのだろう。

 

「魔道具の作成者の知識に基づいている、という可能性がまず考えられるだろうね。つまり、これを作った存在はここのことを知っていた、というわけだ」


 確かに、それが一番すんなり納得いきそうな説明である。

 ロレーヌも頷きながら、しかし別の可能性も口にする。


「ええ。そしてもう一つは……こちらの方は、荒唐無稽と言うか、夢物語のようなものだが……《アーカーシャの記録》から情報を引き出している可能性だ」


 《アーカーシャの記録》?

 なんだそれは。

 そう思ったのは俺だけではなく、カピタンもである。

 この四人組の知識担当はロレーヌとガルブらしい。

 まぁ、分かってたけど。

 俺とカピタンはどちらかというと脳筋寄りだもんな……。

 それでもそこそこ考えているし、たまにいいことも言うんだぞ。たまに。


 しかし、今は二人そろって頭の上にハテナマークを浮かべているのは間違いない。

 そんな俺とカピタンに呆れたように、ガルブが説明してくれた。


「《アーカーシャの記録》ってのはね、概念さ。すべての現象の記録がある場所のこと。目に見える場所ではない、そういう次元、空間があるという……まぁ、ロレーヌの言う通り、夢物語だね。ただ、魔術師、錬金術師にとって、その場所は非常に重要だ。そこには魔術の理の全てがあり、僅かにでも接触を持てれば膨大な知識を手にすることが出来るとも言われている。とは言え、歴史上、そんなものに接触を持てた魔術師などいない。いないはずだが……」


 言いながら、ちらり、と俺の持つ《アカシアの地図》を見る。

 《アーカーシャの記録》……《アカシアの地図》。

 アーカーシャ、アカシア。

 なるほど、そういう意味か。

 と納得するが、それが名前の由来だと言うのなら、ロレーヌの推測が正しいと言うことになってしまう。

 

「……ま、あくまで可能性の話だ。名前だってそれくらい凄いんだぞ、という理由でつけた可能性も低くない。竜を殺したことのない剣に《竜殺し》なんて名前がついてることはざらだろう?」


 ロレーヌがふっと力を抜いてそう言った。

 とかく武器や魔道具の名称と言うのは大げさになりがちなのは事実だ。

 《竜殺し》以外にも《巨人殺し》とか《神殺し》とかついてることは少なくないのだ。

 街の武具屋にいけば、普通に店に並んでいる。

 当然、竜も巨人も神もそんな街の武具屋毎に殺されてやれるほど数もいないし暇でもない。

 つまり嘘だ。

 まぁ、実際に腕のいい戦士がそれらの武器をもって相対すれば殺せるのかもしれないがな。

 要は、《竜殺し》ではなく、《竜(を)殺(せるかも)し(れない)》というわけだ。他のもご同様で。

 この《アカシアの地図》もアーカーシャの記録に接触できたと勘違いするほどに物凄い地図、の可能性も低くないと言うことだな。

 そういうロレーヌに俺は頷いて、


「ま、確かにな……。しかし、そうなるとやっぱり作った奴がここを知っていたってことになる。それについては……」


「それは本人に会って聞くしかないだろう。お前の会った人物こそがこれを作った人物である可能性が高いが……簡単に会えそうな存在でもないな。それについては保留と言うすることにするほかなさそうだ」


「そうだな……行こうとしても行けないからな」


 《水月の迷宮》深部への道は閉ざされてしまった。

 壁を切っても突いてもどうにもならなかった以上、俺には行く術がない。

 他に手がかりを求めるしかないが……今は何もない。

 これ以上考えても分からないことだろう。


「ま、今はそいつがどれくらい使えるか知る方がいいんじゃないかい?」


 ガルブがそう言ったので、どういう意味かと首をかしげると、ガルブは呆れた顔で説明した。


「そいつを使って他の転移魔法陣のところにも行ってみるのさ。それでどうマッピングされるか、見てみようじゃないか」


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