「……じゃ、そろそろ集合場所に行くか」
俺がそう言うと、ロレーヌも頷いて答える。
「そうだな。まだ時間は過ぎていないが……ギリギリだろう。あの二人にはあまり怒られたくない」
ガルブとカピタンにか。
確かにそれは俺も同感だった。
だから、
「……急ごうか」
そう返答して、二人で集合場所へと急いだのだった。
その前に、服装を元に戻すのは忘れなかった。
さすがに派手派手しいかっこでガルブとカピタンに会う度胸はない。
確実にからかわれるからだ。
◇◆◇◆◇
「おや、時間ぴったりだね。そんなに王都見物が楽しかったのかい?」
つくと同時に、ガルブがそう尋ねて来た。
皮肉、というわけでもなく単純に疑問だったようだ。
俺は、
「悪かったよ。王都は……ロレーヌはともかく俺は初めてだからな。楽しいは楽しいさ。ただ、遅れた理由は……」
そして、オーグリーと出会い、その後色々あったことを話した。
もちろん、俺が
ホゼー神殿の件は、王都に来たことを話さないでほしかったので、そうしてもらった、という嘘でも真実でもない説明をする。
色々話している途中、ガルブとカピタンの目は大分細くなっていたので、嘘がバレバレなのかもしれないが、それでもとりあえずは突っ込まないで聞いてはくれた。
そしてすべて聞いてから、ため息を吐いて、
「……あんたはちょっと歩いただけいろんなトラブルに巻き込まれるねぇ。ロレーヌ、疲れないかい?」
と言って来た。
ロレーヌはそれに微笑みながら、
「いえ、退屈になることがありませんので、楽しいですよ」
とポジティブな答えを返す。
「これはまた……そうかいそうかい。しかし、その男に転移魔法陣のことは……?」
「いや、話してない。それについては師匠たちの許可がないとと思ってさ。話しても契約を結んだから別に良かったかもしれないが、そこはな」
俺自身の秘密については誰にどれだけ話そうが俺の自由だ。
その結果、俺がニヴみたいなやつから殺されたとしてもそれはあくまで俺の自己責任であるのだから、それはそれでいい。
けれど、転移魔法陣については……最終的にハトハラーの問題になるからな。
勝手に話すわけにはいかない、という判断だった。
これにガルブは、
「あんたたちに管理を任せるって話をしたじゃないか。それはあの存在をどう扱うかも含めての話だよ」
と意外なことを言う。
「つまり、他人に話すかどうかも好きに決めてもいいと言うことですか?」
ロレーヌがそう尋ねると、カピタンがそれに答える。
「あぁ。俺たちはそのつもりで言ってたんだが……うまく伝わってなかったようだな」
「ですが、もしその結果、あの転移魔法陣の存在が明らかになれば、ハトハラーは……」
ロレーヌが心配を告げると、カピタンは、
「それはあまり考えなくても大丈夫だ。いざというときは、ハトハラー側の転移魔法陣は消去することが出来る……んだよな? 婆さん」
と、ガルブに確認した。
ガルブは頷いて、
「ああ。その方法は伝わっている。やろうと思えば出来るよ。で、あとはハトハラーは知らぬ存ぜぬで通せばそれでいい。転移魔法陣がないんだから、問題にすらならないだろうさ」
そう答えた。
これに驚いたのはロレーヌで、
「……転移魔法陣を、人の手で破壊できるのですか……?」
ロレーヌが驚くのには理由がある。
迷宮内部で発見されるのが基本の転移魔法陣だが、それを人の手で破壊出来たことはないのだ。
迷宮が自らの内部構成を変えてしまうときに、勝手に消滅することはあるのだが、人が武器や魔術で削ろうとしても一旦は削れるのだが、すぐに復元してしまって、壊れることはなかった。
非常に存在が強固な魔法陣なのである。
しかしガルブは、
「ああ。やり方さえ知ってれば簡単だよ。あんたたちにも後で教える。あの滅びた都市の転移魔法陣の出口なんかも含めて、伝えなきゃいけない知識は結構あるからね……しっかり覚えてもらうよ」
そう言った。
俺は正直、かつての修行の日々を思い出してちょっとだけ及び腰になる。
結構無茶をやる婆さんだからな、師匠は……。
それでも当時は死ぬ気で色々覚えようと頑張っていたから、辛い、とか思う暇もなかったが、今になって思い出すと、あれは今やると絶対辛いな……と思ってしまうことがないではない。
俺は大分精神的にへたれたのだ。
それでも、必要とあらばやるんだけども。
対してロレーヌは、未知の、面白い知識を得られる機会だと考えたのか、目を輝かせて、
「ぜひ、よろしくお願いします!」
と楽しそうに言っていた。
まぁ、何事も楽しんでやれるのは大事だよね……。
しかし、転移魔法陣は壊せるのか。
それなら仮に転移魔法陣のことが露見しても、ハトハラーは無関係を装えるだろうな。
破壊される前にハトハラーに転移魔法陣があることを知られたらダメかもしれないが……そのときは知った奴を口封じするしかない。
出来ればその前に破壊できるようにしなければならない。
なんかこう、うまい仕組みを考えた方がいいかもしれないな。
それとも、すでにあるのか……。
分からないが、心配が少し軽くなったような気はした。
◇◆◇◆◇
「……ん?」
王都の正門に向かう途中、ロレーヌがそんな声を上げたので、俺は尋ねる。
「どうかしたか?」
するとロレーヌは、
「……あれは、オーグリーではないか?」
そう答えたので、ロレーヌの視線の先を見つめてみると、確かにそこにはオーグリーがいた。
小さな女の子と会話しているようで、何かを手渡そうとしている。
盗み聞きはよくないが、ここは王都の大通りだ。
聞かれてまずい会話はしていないだろう、と勝手に判断して、好奇心七割くらいの気持ちで
別に技じゃないぞ。
俺が勝手に名付けただけで。
「……ほら、これが
オーグリーが少女にそう言う。
少女は、
「でも、私お金……」
「何、気にするんじゃない。そいつは僕が僕の僕による僕のための服を染めるために採って来た余り物だからね。正直採れすぎて困ってたくらいさ……だから、気にしないで使ってくれ。お母さん、それが必要なんだろう?」
「うん……ありがとう。オーグリーおじさん! あの、あの……」
「お礼とかはいいさ。それよりも、早く持って行ってあげるといい。今度、君たちに僕の至高のファッションを披露しに行くからさ。そのとき、病人がいたんじゃ楽しくない。ほら」
そう言ってオーグリーは少女の背中を押し、少女は後ろ髪を引かれつつも、最後にはどこかに向かって走っていった。
オーグリーはそんな少女の後姿を微笑みつつ見ながら、踵を返し、雑踏の中に消えていく。
「……立派ではないか。服装とのギャップが激しすぎるぞ」
「まぁ……ああいう奴なんだよ。だからずっと付き合ってるんだ」
そう答えながら、しかし、料金はオーグリーのファッションショー強制観覧か……適正だな。
と思わないでもなかった俺だった。
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