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第12章 王都ヴィステルヤ
第260話 王都ヴィステルヤとにょろにょろ

 魔力も体力も削られた状況で、馬車を引き起こすのは大変だろうな、と思う。

 

「……どうする?」


 と、俺はロレーヌとオーグリーにひそひそ声で尋ねる。

 その主語は、詰まるところ手伝うかどうかである。

 ナウスは王女と一緒に残った騎士たちに馬車を引き起こさせるべく指示を出しているところだ。

 俺の質問にオーグリーは、


「……手伝っておいた方が色々あとで便宜を図ってくれるんじゃないかな? 僕はともかく、君たちは元々目立ちたくなかったんだろう? なら、最悪、後で僕だけが王宮に行くと言う手もあるし、そういっても許してくれそうなくらいに恩を売っておけばさ……」


 と言った。

 それはつまり、俺とロレーヌはどこかに行ってしまったから王宮に来れない、とオーグリーが一人で言いに行くということだが、流石にそこまでさせるわけにはいかない。

 そもそも、助けようとしたのは俺だしな。

 それによって背負ってしまった厄介ごとを、オーグリーに背負わせるわけにはいかない。

 まぁ、そもそもの話をするならオーグリーが余計な依頼をさせたから、という話になってしまうが、依頼を受けると決めたのは俺だ。

 そこをどうこういうのはよろしくないだろう。

 だから俺は言う。


「俺たちにとっては都合がいいかもしれないが、そんなことしたらお前の王都での立場が悪くなる。会ったばかりだが、流石にそこまでしてもらうわけにはいかないな」


 するとオーグリーは少し驚いたような顔で、


「……僕のせいで厄介ごとに巻き込まれたようなものなのに、優しいね。ま、そう言ってくれるとありがたいが……じゃあ、どうする?」


 と言った。

 これにロレーヌが、


「……まぁ、何にせよ、恩を売っておいた方がいいというのは正しいだろう。幸い、馬車を引き起こすくらいなら私が簡単にできる……やってきて、いいか?」


 と言った。

 魔術を使う気なのだろう。

 騎士たちの中にも魔術を使える者はいるだろうが、その技術の大半は攻撃魔術に寄っているはずだ。

 ロレーヌはそう言ったもの以外にも、便利かつマニアックな魔術を色々と身に着けている。

 

「構わないが……派手なものじゃないよな?」


 一応、目立ちすぎない、が王都における俺たちの目標だったはずだ。

 せいぜい服装が派手、くらいで終わっておきたかったところだ。

 これ以上目立つのは避けたい。

 そう思っての質問にロレーヌは、


「……そうだな。さほど派手ではない。が、少々にょろにょろしているかもしれんな……」


「にょろにょろ?」


 なんだその擬音は、と思ったが、派手でないなら別にいいか。

 世の中の魔術師は、大体一つか二つくらいは趣味に走ったおかしな魔術を身に着けているものだし、そういうものだと見てくれるだろう。

 そう思って、俺は言う。


「じゃあ、頼む」


 そう言うと、ロレーヌは少し離れた位置にいるナウスのもとに向かっていく。

 それから、


「ナウス近衛騎士団長閣下。馬車の引き起こし作業をお手伝いしようと思うのですが……構いませんか?」


 と尋ねた。

 するとナウスは、


「いや、いや。流石に命を助けてもらって、これ以上なにかしてもらうわけには……馬車も、時間はかかるでしょうが、日が落ちるまでには王都に辿り着けるでしょうし」


 と断る姿勢を見せた。

 けれどそれだと恩が売れない。

 ロレーヌは推しに推す。


「屈強な騎士であらせられるナウス近衛騎士団長閣下をはじめとした騎士の皆様方ならともかく、王女殿下にはこのような血生臭いところに長くいるのはお辛いと思うのです。出来る限り、早く馬車を引き起こすことが肝要かと思います。私でしたら、多少の魔術の心得があり、このようなときの重宝する魔術も身に着けております。お任せいただければ、ほんの数分で馬車を引き起こすことが可能です。どうぞ、お使いくださいませ」


 よくもそこまでペラペラと言葉が出てくるものだなと思うが、彼女も帝国だと色々と学者間の調整に苦労したような話は昔していた。

 その辺りで身につけた技術なのかもしれない。

 

 ナウスの方は、最初は断ろうと思っていたようだが、王女殿下、とロレーヌが言い始めた辺りから思案するような顔になり、さらにほんの数分で、と言ったあたりで驚いたような顔をして、少し苦悩するような表情を見せた後、


「……命を助けていただいた上、このようなことを申し上げるのは大変に心苦しいのですが、どうか、私たちにお力をお貸しくだされ。実のところ、我々はここに至る前に別の者に襲撃に遭って、魔力も体力も尽きかけておるのです。いつもならば楽に出来ることでも、今は……」


 と、正直に置かれた状況を述べて、頭を下げて来た。

 ロレーヌはそれに頷き、


「傷の具合や、魔力などから見てそうだろう、とは推測していました。深い事情はこれ以上尋ねるのはよろしくないでしょうから、そこは尋ねません。とりあえず、馬車を引き起こしてしまいますので、騎士の方々を馬車から距離をとらせていただけますかしら?」


 と言うと、ナウスが、


「おい! お前たち! 今から、この方が馬車を起こしてくださる! 馬車から距離をとれ!」


 と叫んだ。

 騎士たちは言われた通りに離れ、それを確認してからロレーヌは、呪文を唱えた。

 ロレーヌは色々な魔術を無詠唱で使ってしまえる技量を持つ魔術師であるが、基本的に人前ではしっかりと詠唱する。

 それは、実力を他人に見せないためであり、魔術師としての嗜みなのだそうだ。

 ロレーヌが呪文を唱え終わると、地面から緑色の太い蔦が何本も這い出てきて、縄のようにぐるぐるとお互いに巻き付け合い、さらに太く強くなる。

 そして、その蔦の縄は、馬車に巻き付き、そのまま持ち上げて、馬車を元通りの状態へと引き起こしてしまった。

 なるほど、にょろにょろしている。

 しかも早い。

 あれで人や魔物の体に巻き付き、絞めたら一瞬で落とされるだろうな、と思うほどに強力な植物魔術である。

 基本的にはエルフが得意とする系統の魔術だが、ロレーヌも使えることは知っていた。

 もっと小さな、鞭のように植物を使う所は見せてもらったからな、

 ちなみに、俺の使う聖気による植物の成長促進とは違う。

 魔術の場合、ずっと魔力を維持していないと、消えてしまうのだ。

 それに、これを使って果実なども取ることはできるのだが、味がしなかったり酷い味だったりするのが通常だ。栄養もないらしい。

 聖気を使った場合は、成長した状態を永続させられる。

 だから聖気の加護はありがたがられる。

 俺の出張肥料としての価値も下がらない……いや、下がってもいいんだけどな。


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新作 「 《背教者》と認定され、実家を追放された貴族の少年は辺境の地で、スキル《聖王》の使い方に気づき、成り上がる。 」 を投稿しました。 ブクマ・評価・感想などお待ちしておりますので、どうぞよろしくお願いします!
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