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第12章 王都ヴィステルヤ
第257話 王都ヴィステルヤと助太刀

「大体この辺のはずだよ……」


 オーグリーが王都ヴィステルヤの壁外にある森の中でそう呟いた。

 冒険者組合ギルドで依頼を受けることになって、オーグリーが手続きを終えた後、すぐに出発し、それから一時間と少し。

 確かに事前にオーグリーが申告した通り、行きと帰りで考えると数時間で仕事を終えられそうだった。

 銀級らしく、しっかりと薬草の群生地の事前調査もしていたようで、その足取りには全く迷いがなかった。

 幸いなことに、王都にほど近い森の中だからか、魔物も今のところ出遭っていない。

 まぁ、こういうところの魔物は王都に勤める新兵なんかのちょうどいい訓練相手にされるため、常に駆除されているような状況にある。

 そのため、比較的安心して出歩けるのだ。

 俺たち冒険者たちからしてみれば食い扶持が次々に潰されているようなものだが、その代わりに王都の冒険者組合ギルドには地方の冒険者組合ギルドとは異なる歯ごたえのある、高価な報酬の約束された依頼が掲示されている。

 そのせいで新人冒険者は王都では活動しにくいが、一長一短と言う所だろうか。

 

「……確かに色々生えているな。依頼の薬草は火精茜かせいあかねだったよな」


 俺がそうオーグリーに尋ねると、彼は頷いて、


「ああ。ただ、どれがどれやら……。僕にはここに生えているものすべて一緒に見える……」


 頭を抱えながらそう答える。

 じっくりとそこに生える草木を凝視するも、違いがまるで分からないらしい。

 黄緑色の花を咲かせた小さな植物がたくさん生えているが、ぱっと見だと確かにすべて一緒に感じる。

 が、俺の目からするとみんな違う植物だ。


火精茜かせいあかねは花と葉の形、葉の枚数、茎の形、そして香りと、最後に根を見れば分かるんだよ。ついでに覚えておくといい」


 俺はそう言って、オーグリーにその特徴を説明した。

 似ている植物が三、四あり、しかも好んで生える場所がほとんど同じなため、こうやって一緒くたになって生えていることが大半で、だからこそ採取が難しいとされているが、その特徴さえ覚えておけば何のことはない。

 何度も説明し、オーグリー本人にも選別をさせること数回、彼にも違いが分かったようで、


「なるほど、そうやって見分けるのか。これは勉強になったよ」


 と言うようになった。

 王都にもこれが見分けられる人間が増えれば、放置される依頼も減るだろう。

 オーグリーはソロ冒険者だが、比較的面倒見はいい方なので、彼から後進たちにもこの知識は伝えられるはずだ。

 

 それにしても、火精茜かせいあかねを染色に使うと言うことは、服の色を赤く染めると言うことだ。

 乾燥させた根から染料が採れ、それを使って染めると結構鮮烈な赤色になる。

 火の精霊の力が特に強い日の真っ赤な夕日のような……だから火精茜かせいあかねというわけだが。

 

 今は虹色の格好をしているオーグリーだが、こいつが茜色に染まるわけか。

 ……なんだかな、と思わないでもないが、服の好みは個人の自由だ。

 好きにすればいいと思うことにした。


「では、そろそろ戻りましょうか。それだけとれば充分でしょう?」


 ロレーヌがそう言ったので俺とオーグリーはそれに頷いた。

 草木染に使うにしても十分な量を確保できている。

 もうこれ以上ここにいる理由はなかった。

 

 ◇◆◇◆◇


「……ん?」


 王都までとことこ三人で歩いていると、ふと鼻に血の匂いが香って来たのを感じた。

 反応した俺に、首を傾げるロレーヌとオーグリー。

 オーグリーが、


「どうかしたのかい?」


 そう尋ねてきたので、俺は答える。


「ああ、あっちの方から人の血の匂いがする気がしてな……」


 俺の台詞に、オーグリーはすん、と匂いを嗅ぐが、


「……ぜんぜんわからないな。君の鼻は犬並なのかい?」


 と肩をすくめて尋ねてくる。

 実際、俺は吸血鬼ヴァンパイアで、人間の血の匂いには恐ろしいほどに敏感な嗅覚を持っている。

 他の生き物の血の匂いも分かるは分かるのだが、人の血の匂いは特によく匂う。

 その感覚からして、間違いなくこれは人のものだ、と分かる。

 ロレーヌはそれを理解しているからか、


「気になるなら見に行きましょうか? 思ったより時間もかかりませんでしたし、それくらいの暇はありますでしょう?」


 そう言ってきたので、俺はオーグリーを見て、


「いいか?」


 と尋ねた。

 オーグリーも特に反対するつもりはないようで、


「構わないよ。むしろ、誰かが何かに襲われているようであれば、助けてあげたいしね。はやく行こうか」


 そう言った。

 意見がまとまると、流石に三人そろって冒険者である。

 行動は素早く、皆で目的の場所に向かって走り出す。

 先頭はもちろん、位置がしっかりと分かっている俺で、そのあとにオーグリーとロレーヌが続く形だ。

 そして、どれくらい走っただろう。

 十五分はかかっていないくらいか。

 辿り着いたその場所にあったのは……。


「馬車が横転しているね。周りにいるのは……森魔狼(フォレスト・ウルフ)と……おっと、岩狼(ロック・ウルフ)まで」


 森魔狼(フォレスト・ウルフ)の数は二十匹近くに及び、さらに岩狼(ロック・ウルフ)の数も十匹近い。

 森魔狼(フォレスト・ウルフ)は通常の狼より一回り大きな、《新月の迷宮》の第三階層に出現する程度の、個体ではそれほど強力ではない魔物だが、群れになると銀級とも争える強敵となる。

 岩狼(ロック・ウルフ)は更に危険で、森魔狼(フォレスト・ウルフ)より二回りは大きく、かつ体中が岩のような外皮に覆われていて、鎧のようになっている魔物だ。

 しかも、そんな体でいながら素早く、また連携攻撃も狼系らしく得意とする魔物で、街道を進んでいるときには出来れば遭遇したくない魔物である。

 そんな魔物たちが群れとなって馬車に襲い掛かっているのだ。

 見れば、鎧をまとった数人の男たちが馬車を守る様に戦っているが、多勢に無勢のようでかなり押されているのが見える。

 馬車の周りには、すでに息絶えている者の姿も見える。

 このままでは、おそらく全滅だろう。


「で、どうする? 帰る? それとも……」


 オーグリーがそう尋ねてきたので、俺は、


「悪いが、助けに入っていいか? 嫌なら隠れてくれててもいい」


 そう答えると、オーグリーは、


「僕も助太刀するさ。正直、ここまで戦ってなくて体がなまっていたところだ」


 と肩をすくめていう。

 ロレーヌはと言えば、


「では、参りましょうか。とりあえず魔術で散らして、道を開きますね」


 そう言って、呪文を唱えだす。

 直後、ロレーヌの短杖ワンドから風の刃がいくつも飛び出し、狼たちに襲い掛かった。


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新作 「 《背教者》と認定され、実家を追放された貴族の少年は辺境の地で、スキル《聖王》の使い方に気づき、成り上がる。 」 を投稿しました。 ブクマ・評価・感想などお待ちしておりますので、どうぞよろしくお願いします!
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