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第12章 王都ヴィステルヤ
第253話 王都ヴィステルヤと変化

「……とりあえずはこんなものかな。悪くはないと思うが……」


 ロレーヌがそう言ったので、俺は自分のローブを見た。

 幸い、魔法耐性の高い俺のローブは、表面だけ魔術を走らせることも可能だったようで、色合いは全面的に変更されている。

 星さえも飲み込みそうな漆黒だった俺のローブは、今や紫の地に複雑な文様が描かれた洒落たデザインに変わってしまった。

 

「ロレーヌにはデザインの才能もあったのか?」


 見た目を変える、とはいってもせいぜい色を真っ赤に、とか黄色に、とかその程度かと思っていたら、考えていた以上に本格的なデザインがされていたのでつい、そう尋ねたくなったのだ。

 するとロレーヌは首を振って、


「いや、帝都で最近流行ってるんだよ、そんなのが。私は着ないが……ちょうどよさそうなので拝借したまでだ」


 そう答えた。

 なるほど、これは天下の大都会、帝都で流行っている模様なのか……。

 ということはつまり、世界でも先進的なスタイルである。

 まだど田舎ヤーランでは見かけないわけだ。

 超絶おしゃれさんとして胸を張って歩こうかな……。


 そんなことを思う。

 ……いや、流石にそれは俺らしくないかな……でもたまには……。

 妙な思考がせめぎ合うが、そんな俺を我に返らせたのはロレーヌの言葉だった。


「それより、冒険者組合ギルド本部に行くのではなかったか?」


「……そうだった。そういえばロレーヌはどうするんだ? 俺と違って何度か来たことはあるんだろう?」


 ロレーヌはこれで銀級だから、普通にマルトから王都への護衛依頼とかもソロで受けられる。

 それに、錬金術のために必要な素材がマルトでは手に入らない、ということで王都にちょっと行ってくる、なんていうこともたまにあった。

 その際は当然、冒険者組合ギルド本部にも行っているだろうし、そのままだと流石にまずいのではないか、と思ったのだ。


「私は私で……ほれ、これでどうだ」


 そう言って何かの魔術を自らにかける。

 すると、そこには先ほどまでのロレーヌとはまるで印象の違う存在が立っていた。

 ウェーブのかかった派手な髪に、各パーツをかなり強調した化粧が顔に施されている。

 メガネを身に着けているが、それが全体から感じる蠱惑的な空気をさらに強めているような感じだ。

 服もいつもの野暮ったいローブではなく、きらびやかに着飾られたもので、都会的な印象が強い。

 これもまた、帝都で流行っている服、ということなのだろう。

 ヤーランで見たことはないからな……しかし洗練されていると俺でも分かる。

 全体として見て思うのは、金持ちで、かつ実力のある、一癖も二癖もありそうな年齢の分からない女魔術師、という感じだ。

 近づくと火傷では済まなそうな気がする。

 ……俺みたいに骨になったりな。

 流石にそれはないか。


「随分とまた……変わったな。幻惑魔術で出来ることの幅広さが分かる……」


 基本的に人の容姿や服装を変えてしまう魔術は、幻惑魔術、とか変化魔術とか呼ばれる。

 あまり習熟していないと、出来ることはほとんどないが、熟練度が上がっていくつれ、出来ることは増えていき、最終的には身長も含め、完全な別人に見せることも可能になる凄い魔術だ。

 例によって、幻影魔術と並んで劇場付魔術師の必須の技能であるが、人相まで変えてずっと維持することは中々に難しく、基本的には服装をいじるのにつかわれるのがせいぜいだ。

 それなのに、ロレーヌのこの完成度である。

 学者や冒険者よりも、劇場で引っ張りだこになりそうな才能だな……。

 そう思って言った俺だったが、ロレーヌは首を振って、


「……何を言ってるんだ。幻惑魔術なんて使ってないぞ。服と髪型を変えて、化粧をしただけだ」


 と言った。

 ……?

 え、だってどう見ても……と思って、まじまじとロレーヌの顔に近づいてそのパーツやら何やらを凝視する。


「……本当だ。パーツとか一切変わってないな……」


 つまり、純粋な化粧技術と服装の変化でしかなかった、というわけだ。

 髪型も、色は変わっておらず、ただ豪華に見えるようにウェーブがかかっているだけだ。

 本来の意味で《化けた》わけで、凄い。

 だからつい言ってしまう。


「……化けたもんだな。凄いぞ」


「……お前、失礼な。私だって女の端くれだぞ。これくらいはやろうと思えば出来るのだ」


「別に出来ないとは思ってなかったよ。顔立ちだって元々美人だろう。ただそういうの面倒くさがりそうなのに、よくやったもんだと思っただけで……どうした?」


 ただただ感心した、ということをロレーヌに言っていると、なぜか途中で後ろを向いてしまった。

 何かまずいことを言ったのか?

 と思ったが、そんなに問題あることは言っていない……と思う。

 まぁ、《化けた》発言がよくなかったのかもしれないが……。

 女性が化粧をして変わったからってそういうことは言ってはならないと、マルトの恋人がいたり結婚している冒険者連中には何度となく言われたことを思い出した。 

 

「……いや。何でもない。特に問題はない。ほら、冒険者組合ギルドに行くぞ」


 ロレーヌはそう言って歩き出した。

 ……?

 確かに、その声色には特に気分を害したところはない。

 むしろどこか弾んでいるような感じすら受けるが……何だったのか。

 まぁ、本人が何でもないと言っているのだからこれ以上聞いても仕方ないのだが。

 俺はそう思ってロレーヌの横に並ぶ。

 

 路地裏から出ると、先ほどまでとは異なり、待ちゆく人の視線がかなりこちらに向けられていることに気づく。

 ロレーヌの派手な美人感に目が向いているのか、と思えば、魔術師たちが俺の方を見ているのも感じた。

 うーん、これはたぶん、かなり先進的なファッションをしている俺たち二人が街のおしゃれさんと認識されたと言うことだろう。

 ……目立ち過ぎじゃないか?

 という気がするが、まぁ、変わった服を着ている、くらいならまだセーフだろう。

 これで何か問題を起こしたらまずいが、そんな気はないしな……。


 そして、俺たちは冒険者組合ギルドに辿り着く。

 マルトのそれとは異なる大きな建物で、その前に立つだけで何か震えるものを感じた。

 ずっと目指して、十年辿り着けなかった場所だ。

 妙なきっかけでも、訪れられたことが嬉しかった。


「じゃあ、入るぞ」


 ロレーヌが先達としてそう言って先に進んだので、俺もそれに続いた。


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