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第11章 山奥の村ハトハラー
第248話 山奥の村ハトハラーと管理

 これだけのものを見せておいて《普通の村》などというのは酷い話だが、この秘密をなしにハトハラーという村を見るなら、ちょっとおかしいが確かに普通の村だった。

 少なくとも、俺はそう信じていたのだから。

 村人たちも、ここにいる二人、それに俺の義理の父親インゴを除けば、同様にハトハラーを普通の村だと認識しているはずだ。

 外に出れば違和感は感じるだろうが、ちょっと変わっていたな、で終わってしまうくらいの違和感だ。

 

 それにしても、だ。

 どうして《普通の村》だと主張しているのに、俺たちをわざわざここに連れてきてくれたのか。

 ずっと《普通の村》でありたいのなら、俺たちにもここは教えるべきではなかったように思う。

 少なくとも、昔からずっとそうしてきたはずだ。

 村の限られた古老や責任者だけが知り、秘密を守り続けていた。

 そういうことだろう。

 それなのに、と不思議に感じる。

 まぁ、俺に何か聞きたいことがあるから、その代わりに、という話はしていたが、教えてくれた秘密の規模が大きすぎる。

 そんなことを思っていると、ガルブは言う。


「……今、カピタンが言ったが、もうハトハラーは《普通の村》なんだ。ここを知っている者がもう今じゃ、三人しかいなかったのがその証拠さ。だからね……本当に普通の村にした方がいいと思ったんだ」


「どういう意味だ?」


 俺が首をかしげると、ガルブが続けた。


「以前、言ったろう? 昔、村はもっと殺伐としていたってね。それは、ここがあるからさ。昔話になるが、魔術師長、騎士団長、国王……昔ながらのそんな役割はもう、その三つしか残っていないが、私が若かった頃は他にも宰相、司法大臣、神官、なんてのもいたんだ」


 今はない、ということはなくなったということに他ならない。

 どうしてなくなったのか。

 殺伐としていた、という言葉からして、あまりいい話ではないのが分かる。

 ガルブは続ける。


「私が若かった頃のことだから……カピタンやインゴも生まれていなかったね。先代の村長の時代だ。そのころ、ここのことを知っていた六人は、意見が割れていた。つまり……ここを有効活用するか否かで、だ。宰相、司法大臣、神官の役を持っていた三人は、ここをうまく使えば、ハトハラーは人を呼べる、大規模な街になる、そうすれば生活はもっと豊かになって、村民たちは幸せになれる、としきりに主張していたよ。その意見を、他の三人も理解できないではなかったが、しかし、積極的に肯定する気持ちにもなれなかったと聞いている。なにせ、遥か昔からずっと守り続けた秘密だ。今、自分たちの代で外に出すのは……という保守的な理由がまず一つ、そしてもう一つが、ここの危険性だよ。こいつを見ればわかるだろう?」


 そう言って、ガルブは黒王虎シャホール・メレフナメルを撫でる。

 ごろごろ言って完全に猫だが、本来は戦えば化け物だ。

 こんなものを村が戦力として抱えていたら、確実に利用しようと言う者が現れるだろう。

 ……つまり、危険性とはそういうことか、と俺は推測する。


「どこかに利用されるってことを心配したのか?」


「そうさ。国や組織はいうに及ばず、個人だって強力な力を持つ者は村の外には沢山いる。確かにこいつや、この場所は強力な武器になりうるが、そもそも私らは田舎ものさ。最後には騙されて使われて、村は荒廃するんじゃないか、という気持ちが強かったんだ。だから……両者の主張は最後まで交わることなく終わった」


「……終わった?」


 何がどう終わったのか。

 俺がその続きを促すと、ガルブは頷いて、


「終わったのさ。私やカピタンを見りゃ分かるだろうが、ハトハラーの役職持ちは特殊な技能を色々と持っていてね。みんな魔術や気が使えた。それも普通のものじゃない。古くから伝えられてきた、強力なものをだ……。宰相たちの意見は変わらず、最後に彼らは武力でねじ伏せようとしてきた。それに当時の他の三人達も対抗して……勝ち残ったのが、当時の魔術師長、騎士団長、国王……つまり、薬師と狩人頭と村長だった、ってわけだね。まぁ、被害ゼロとはいかなかった。薬師は重傷、狩人頭も狩人としてはもう駄目になった。村長はなんとかなったが、それでも満身創痍だったのには変わりない。そして、宰相たち三人は全員死んだ、とこういう結末だ」


 血生臭いにもほどがある。

 殺伐としていた、というがここまでとは思わなかった。

 こんな村で、そこまで激しい闘争が繰り広げられたことがあったとは……。

 何とも言えないでいると、ガルブはふっと笑い、


「ま、昔の話さ。で、話を続けるけど、そんなことが起こったのは結局、ここを守ろうとしているからだからね。もうやめようって思ったのさ。あんたらに託して」


 と、かなりの問題発言を投げ込む。


「……ここを守るために頑張ったんじゃなかったのか?」


「ま、確かにそうなんだけどね。事情が変わったのさ。ほれ、そこのロレーヌがレルムッド帝国出身なんだろう? それでここを知っている……つまり、あの村での争いのあと、ここの存在はレルムッド帝国の知るところになったのさ。まぁ、ハトハラーと繋がっていることは未だに分かっていないようだが」


 この言葉に、ロレーヌは頷いて、


「ここをレルムッド帝国が把握したのは五十年近く前だと言われているが……さっきも言ったように大したことは分かっていない。ただ、それでもここは古代の遺跡だからな。有用な魔道具があるだろうということはずっと言われている。ただ、調査の難しさのために今まで放置されてきたが、最近、帝国は物騒だからな……。ここの価値も見直されて、調査隊を定期的に派遣する計画も提案され始めているとは聞いたことがある」


 ガルブもこれに頷き、


「ま、そういうことさ。そもそも、宰相連中が当時、ここを公開すべきだ、と言ったのは奴らのうち誰かがここに人が来たのを目撃したかららしいからね。誰かに手柄を奪われる前に自分たちがって心境もあったんだろうさ。とは言え、人が来たことなんて、歴史をさかのぼれば何度もあったと私たちの口伝には伝わっている。口実の一つに過ぎなかったんだろうと思うが……今はそうじゃない。帝国が国を挙げて調査に乗り出すんなら、今まで通り安心という話にもいかないだろう。誰かフットワークの軽い者に管理を任せたくてね。それでちょうど良さそうなのがいるじゃないか、と、そういうわけだ」


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