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第11章 山奥の村ハトハラー
第243話 山奥の村ハトハラーと図形

 カピタンの振るう剣鉈がゴブリンの首筋を切り落とす。

 剣鉈を振り切ったところを狙って、他のゴブリンが三体ほど、さびた短剣を持ってカピタンに殺到するも、すべてを軽々といなして次々に攻撃を加え、倒していった。

 少し離れたところでは、ガルブが風刃を放って巨大な蜘蛛の形をした魔物、大蜘蛛ガドール・アカヴィッシュの足を器用に切断していく。

 その間も巨大蜘蛛はガルブに攻撃を加えようと残った足を伸ばすも、年齢に見合わない機敏な動きですべて回避していく。

 魔術師であるから、身体強化の技法は身に着けているだろうし、そこまでおかしいというわけではないのだが、やはり老婆がましらのごとく縦横無尽に動き回っているのを見ると、若干怖い。

 しかも、魔術を放ち続けながらだ。

 魔術師、というものはどちらかというと固定砲台的な戦い方をする者が多いのだが、ガルブのそれはその基本から大幅にずれている。

 魔剣士とか、戦闘魔導士(コンバット・メイジ)の戦い方に近い。

 ……素手で殴った方が実は早いんじゃないか?

 ありそうで怖い。


「……本職の冒険者である私たちの出番がまるでないな」


 しばらくして、戦闘が終わってから、ロレーヌがそうぽつりとつぶやいた。

 周囲は魔物たちの死体でいっぱいである。

 流石、小さいころからあれほど入るなと言われて来た《北の森》は危険度が段違いだ。

 こんなに魔物に出くわすことは、通常の森だとあまりない。

 《大波》とか《氾濫》とかの類が起こらない限りは……。

 まぁ、世の中には危険とされている地帯がそれなりにあって、そういうところに足を踏み入れればまた違うのだが、小さいころから育ってきた村の近くにこんな場所があったとは知らなかった。


「……こんなに魔物がたくさんいて、ハトハラーは大丈夫なのか?」


 つい、そう呟いてしまうも、耳ざとくガルブが、


「問題ない。ここの魔物はハトハラーまでは来ないのさ」


 と答えた。

 言っている内容が真実なら安心できる台詞だが……そう言い切れる根拠が分からないな。

 強力な魔物であれば、その多くが縄張りを持ち、そこからまず、出てくることがない、というのは分かっている。

 ただ、ここにはそれだけではなく、ゴブリンやスライムなどの、良くいる低級魔物もいるようである。

 そう言った魔物にとって、縄張り、というのはあまり意味をなさない。

 強さよりも繁殖力をとった生存戦略の故なのか、彼らは積極的に色々な場所に行こうとする。

 まず縄張りなんてものは持っていない。

 ゴブリンなどは集落を形成している場合もあるが、人間に対して敵対的な場合、彼らは村が一定規模に達するとそこを拠点に近くの村を攻略し始めるのだ。

 スライムの場合、もっと単純で、ただひたすら増え、そしてどこへでも行く。

 したがって、ここに彼らがいるということは、十分にハトハラーにやってくる可能性があるということに他ならないと思うのだが……。

 しかし、そんな疑問を俺やロレーヌが持っているのを理解しているだろうに、ガルブもカピタンもずんずん森を進んでいく。

 その背中からは「目的地についたら教えてやるよ、色々とね」と言う無言の主張が見えて、俺とロレーヌは顔を見合わせ、仕方なく首を振って二人のあとについて進んだのだった。


 ◇◆◇◆◇


「ついたよ、ここだ」


 そして、森を歩き回ってどれくらいの時間が過ぎたことだろう。

 そろそろうんざりし始めたそのときに、ガルブがそう口を開いた。

 そこにあったのは……。


「……砦、か? 相当古いな……」


 ロレーヌがそれを見て、そう呟く。

 俺たちの目の前にあったもの、それはまさに《砦》であった。

 石造りの小規模な城で、ただ、年月に耐え切れず、かなり崩れている部分が見受けられる。

 また、周囲の植物の浸食もかなり激しく、大体が緑で覆われていた。

 ハトハラーからここを見ても、森の一部としか思われないだろう。

 ただ、それでも確かにこれは《砦》だ。


 ハトハラーの近くにこんなものがあるとは思わなかった。

 少し驚いたが……。


「ハトハラーの秘密って、これのことか?」


「おそらくは……そうなのだろうな。いつの時代のものか気になるが……あまり目新しいところはないようにも思える……」


 俺とロレーヌは二人して、正直、肩透かしを食らったような気がした。

 村の近くにおそらくはかなり古い年代のそれと思しき遺跡がある。

 まぁ、歴史的に見ればそれなりに重大な秘密なのだろうが、それくらいなら探せば色々なところにある。

 古代の遺跡を観光資源にしているようなところだってあるくらいだからな。

 それを考えると大した秘密ではないように思えるが……。


 それとも、そう言ったものとは何か違うというのだろうか?


 そんな疑問を俺たちが抱き始めているのを理解してか、ガルブとカピタンはさらに歩く。

 

「……こっちだ。慌てるんじゃないよ」


 ……やはり、何かまだ、あるようだ。

 そう思ってついていく。

 砦の中に入ると、やはりかなり古いようで、崩れているところが多く目に入った。

 

 ただ、多少片づけられているようで、人が歩けるくらいには足の踏み場があって、それが少し不自然だった。

 ガルブかカピタンが通って片づけたのだろうか。

 分からないが……。


 そして、しばらく歩くと、開けた場所に出る。

 

「ここは……」


「おそらくは、王や領主など、身分の高い人間のための謁見の間だろうな……ふむ、古代、この辺りの地域には力のある豪族でもいたのかな? そんな感じだ」


 ロレーヌが説明した通り、そんな雰囲気の部屋であった。

 奥の方が一段高くなっており、そこに石造りの椅子が置かれている。

 昔は布でも敷かれていたのだろうが……今は石がむき出しの状態だ。

 年月というものはあらゆるものを風化させる。

 昔、ここにあっただろう権力も、そしていただろう豪族も、今はもう記録すら残っていないのだから。

 それを受け継いでいるのがガルブとカピタン、それにインゴたち村の責任者たち、ということなのだろうか?

 しかし、前を進む二人にこの空間に対する感慨は感じられない。

 ただ、


「こっちだ。この部屋だよ」


 そう言って、謁見の間、玉座のような椅子の横にある通路を進んでいく。

 どうやらこの部屋はどうでもいいらしく、俺たちはそれについていった。

 そして、たどり着いたその場所にあったものに、俺たちは驚く。


「……これは……まさか。なぜこんなところに……?」


 ロレーヌがそう呟いて見つめる先、そこには部屋の床全体に描かれた、図形があった。

 それは、ぼんやりとした青白い光を放つ、巨大な魔法陣である。

 そしてその形状に、俺は覚えがあった。

 ロレーヌも魔術師として、見れば何なのか分かるらしい。

 ロレーヌは呻くように呟いた。


「……転移魔法陣」


 そんな風に。


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新作 「 《背教者》と認定され、実家を追放された貴族の少年は辺境の地で、スキル《聖王》の使い方に気づき、成り上がる。 」 を投稿しました。 ブクマ・評価・感想などお待ちしておりますので、どうぞよろしくお願いします!
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