「さてさて、一体何が分かるのだろうな? 楽しみだ」
次の日、ガルブの家に向かう道すがら、ロレーヌが楽しそうにそう言った。
その気持ちはよくわかる。
かなりのど田舎にあり、一見普通の村のようでいながら、何か特殊な秘密を抱えた村なんて、昔から物語の題材によくなってきたようなものだ。
そんな冒険は、よほどの選ばれた冒険者たちのみが遭遇できるもので、俺たちみたいな一般的な冒険者はそういったものに出くわすことなく、冒険者人生を終えていくものだ。
それなのに、故郷に帰って来たらこれである。
楽しみに思えない理由はないというものだろう。
「確かにな……しかし、よくずっと隠してきたもんだよ。俺だけでなく、村のみんなにまで」
その《秘密》を知っているのはガルブ、カピタン、そしてインゴの三人だけだ、という話だから、他の村人たちは知らないということだ。
かなり重大そうな秘密なのに、よく隠し続けることが出来たなと感心してしまう。
まぁ、俺が分からないのはもう村を離れてしばらく経つから理解できるが、リリやファーリみたいにほとんどずっと近くにいるような相手に隠し通せるのは素直に凄い。
……それとも、大した秘密ではないから簡単に隠せたのかな。
そうだとすれば寂しい話だが……。
「うーむ。隠してきた、とはいっても、今の村人にとってはさほどのことでもないような口調だったからな。隠してきた、というよりも触れる必要がなかった、と言う感じではないのか。だから隠し通せたと……」
ロレーヌが推測を述べるが、それが合っているかどうかは今はまだ分からない。
「お、ついたか。おーい!」
俺が前に視線を向けると、そこにはガルブの家があった。
そしてその前で老婆と屈強な男が俺たちの方を見て待っていた。
ガルブは外套を身に着けており、カピタンは狩装束で、二人とも明らかにどこかに出かけるような格好である。
特にカピタンの方は腰に剣鉈を下げ、肩に弓矢をかけ、背中に矢筒を背負っているという完全に狩人の戦闘態勢だった。
まぁ、それを言うなら俺たちの方も、二人に言われて村の外に行ける格好をしているが。
村についてからはずっともっと楽な格好をしていたが、今はほぼ旅装である。
俺は片手剣を下げているし、ロレーヌも
「これで全員そろったね……馬子にも衣装とはよく言ったもんだ。レント、あんた随分と冒険者らしくなって来たじゃないか」
ガルブが俺の格好見てそう言う。
つまりは、ローブに仮面に片手剣、という例の怪しげなあれだ。
仮面については外れないという話をガルブにはしている。
他のみんなにはマルトでは流行ってるんだ、とか適当な話で濁したから都会って凄いね、で通っている。
……みんながマルトに観光にでも行くとき、仮面の集団にならないことを神に祈ろう。
ヴィロ様、よろしくお願いします。
「好きでこの格好ってわけでもないんだけどな……でも、意外と動きやすいし、便利だから重宝してるよ」
そう言うと、カピタンが、
「便利? どういうことだ」
と聞いてきたので、素直に答える。
師匠の質問には絶対服従だ。
正体を言え、と言われても答えられないけど。
「普通の金属製の鎧よりも強度が高いし、毒なんかも弾いてくれるんだ。汚れもつかないし」
言いながら、売りに出したら一体いくらで売れるんだろうなぁ、と邪なことを考える。
もうこれの無い生活は考えにくいので売りはしないが、気にはなる。
鑑定神のところに行ったら、ついでにこれも鑑定してもらえないかな……。
俺の言葉にカピタンは、
「へぇ……なぁ、ちょっと弓で射てみていいか?」
と面白そうに尋ねてきたので、俺は急いで首を振って拒否した。
「いやいやいや、ダメだから! カピタンが射たら貫通するかもしれないだろ!」
それはお世辞ではなく事実だ。この男が真面目に弓矢で射て、貫けなかったものを俺は知らない。
もちろん、弓自体が特別に強いわけではなく、彼の身に着けている《気》の力のお陰だ。
手に持って戦う武具……剣や槍などに気を込めるのは、多大なる修行が必要とは言え出来るものはそれなりにいる。
しかし、体から離れてしまう武器に《気》を込めるのは、とてつもなく難しい。
それなのに、カピタンはそれを可能としており、彼の撃った弓矢は岩すらも撃ち貫く。
俺のローブとて、無事でいられる保証はない。
……たぶん大丈夫だとは思うんだが、賭ける気にならない。
俺の答えにカピタンは残念そうな表情を浮かべるが、
「仕方ねぇな……ま、それはそれとして、あとで模擬戦してくれよ。お前の腕を味わいたい」
と、話を嫌な方向に変える。
正直勘弁してくれ、と思う。
なにせ、カピタンは俺の戦いの基礎を作ったうちの一人だ。
片手剣のまともな剣術は村に来た冒険者に学んだが、身のこなしとか、その深いところには常にカピタンの教えてくれた技術が活きている。
今の身体能力で力押しすればたぶん、負けないんじゃないかと思うが……いや、必ずしもそうは言えないか。
カピタンの本気を俺は見たことがないのだから。
しかし、だとしても断ることは出来ない。
弟子は師匠に絶対服従なのだから。
ため息を吐きつつ、俺は言う。
「……はぁ。わかったよ。後でな……それで、今日はこれからどこに行くんだ?」
俺の質問に、ガルブが答える。
「北の森だよ。その一番奥を目指す」
ガルブの言葉に、俺は少し驚く。
なにせ、北の森、と言ったらハトハラーにおいては入るべきではないとされている森の一区画を指すからだ。
強力な魔物が跋扈し、ハトハラーの狩人たちですら歩き回るのは厳しいからである。
「だから二人とも完全武装しているわけか……」
ある意味、納得ではあった。
ガルブが戦ったところは見たことないが、おそらく魔術師としては一流であろうとはロレーヌが言っていた。
カピタンも戦士として一流だと俺は思っている。
その二人なら、通常、ハトハラーの村人たちが入り込む森ならばもっとふらっと入ることも出来るが、今日は二人とも少しだが緊張感があるように感じられる。
それだけ危険なところに向かうつもりだ、ということなのだろう。
「ま、そういうことさね。あんたたちも油断するんじゃないよ。あの森は、他の森とは違うからね……じゃ、行くよ」
そう言って、ガルブが先頭に立って歩き出す。
俺たちはその後に続いて進み始めたのだった。
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