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第11章 山奥の村ハトハラー
第241話 山奥の村ハトハラーとその秘密

「どうしてカピタンがここに……?」

 

 俺は首を傾げてとりあえずそう尋ねる。

 ちなみに、ガルブの婆さんのことを、俺は《師匠》と呼ぶが、同じ立場にあるカピタンの方は単純に名前を呼び捨てだ。

 その理由は、昔、色々な技術を教わっているときに《師匠》と呼んだら、柄じゃないと言われて断られたからだ。

 普通に名前で呼べ、ということらしかった。

 実際、本当にそう思っていた部分もあるだろうが、照れ隠しの部分もあるようだ。

 たまに師匠、と呼ぶと機嫌が良くなるので怒ってどうしようもないときなんかはそうしていた記憶がある。

 まぁ、基本的に温厚な人なので滅多にそんなことはなかったけどな。

 しかし、そんな人がここにいる理由はなんだろうか。

 不思議だ。


 カピタンは俺の言葉に頷いて、


「そりゃ、お前がどのくらいになったかと思ってな。ガルブの婆さんと色々話してたんだ。ちょうど、そこの幻影魔術の姉ちゃん……ロレーヌにお前の戦い方も見せてもらったことだしな」


 と言う。

 ロレーヌの幻影魔術は色々と大げさな演出はあるが、身のこなしや戦い方それ自体については俺のそれを忠実に再現していたのは事実である。

 よくそんな細かいところまで見ているな、というレベルで再現していたので、ちょっと唸ってしまった。

 同時に、自分の弱点や、改善点も色々と見えたので俺も見た甲斐が結構あった。

 しかし、それを自分の師匠たちに見られるのは何とも言えない。

 

「カピタン、脅かしてやるんじゃないよ……。レント、私らは別に難癖つけようってわけじゃないから気にすることないよ。ただ、聞きたいことはそれなりにあるけれどね」


 ガルブがカピタンの言葉にそう言う。

 聞きたいこと、とは何か。

 色々と心当たりがありすぎて何とも言えないが……。

 ロレーヌとアイコンタクトしつつ、何を話していいかは判断していくことにしようかな……そもそも、この師匠たちに隠しごとが俺は果たして出来るのか、というのは問題だが。

 

「だが……その前にだ。お前にだけ色々話せってのも酷な話だろう。だから私らはあんたたちにこの村のことについて話すことを決めた。もちろん、インゴにも相談してある」


 ガルブが意味ありげな様子でそう言った。

 

「……この村のこと? ハトハラーなんて、言っちゃ悪いが、山奥にある田舎村じゃないのか? 確かに師匠やカピタンみたいな、ちょっとマルトでも見ないような技術を持った人は何人かいるけど……」


 言いながら、そんなのが何人もいる田舎村ってのもおかしいに決まっているよなぁ、と思わないでもなかった。

 が、絶対にありえないという訳でもない。

 白金プラチナ級まで至った冒険者がある日突然引退して、故郷の村で隠居生活を始めた、なんて話は昔から枚挙にいとまがないからだ。

 国の将軍とか、宮廷魔術師であっても似たような話は割とある。

 だから、物凄い寒村に行ってみたら、とてつもない人物がそこを歩いていた、なんていうことも普通に起こりうる。

 少なくとも、だからハトハラーは別におかしくはない、と俺は思って納得してきた。

 けれど、このガルブの口調からすると……やっぱり何か理由があるのだろうか?

 ロレーヌの顔を見ると、「ほら、やっぱり変な村じゃないか」と言いたげな表情をしているのが分かった。

 ロレーヌのハトハラーに対する印象はずっと、随分と変わった村だ、だからな。

 そんな顔をするのも分かる。

 

 俺の言葉にガルブは、


「確かに、基本的にその認識は間違ってはいないさ。むしろ、大半の村人にとっては、正しい話だ。あんたも今の今まで普通の村だと思ってたわけだろう? まぁ、ちょっと変わってるな、というくらいは思ってたかもしれないが、その程度だったろう?」


「そうだな……師匠とカピタンはこんな村にいるような人材じゃないよなぁ、とは良く思ってたけど、それくらいかな……」


 実際、この二人は確実にマルトに行っても重宝されるだけの技量を持っている。

 ガルブは薬師として、カピタンは戦士として。

 それなのに……というのは、マルトで冒険者をしながらも思っていたことではある。

 

「そういう話をするということは、実際は普通の村ではないと言うことですか?」


 ロレーヌがガルブとカピタンに訪ねると、今度はカピタンの方が答える。


「いや……今は、普通の村だろうな。ガルブの婆さんが言った通り、大半の村人にとってはそうだ。だが、俺とガルブの婆さん、それに村長のインゴにとっては、少し違うんだ」


 カピタンの挙げた三人、それは、この村における責任者の地位にいる三人である。

 小さな村だから、マルトのように参事会があって、きっちりと肩書が決まってる、というわけではないが、困ったことがあったら最終的に誰に相談し、誰が決定を下すか、ということになったら、この三人のうちの誰かがそれをする、ということなると村人たちはみんななんとなく認識している。

 インゴはもちろん村長であるために、ガルブはこの村においてもっとも知識豊富な人物として、そしてカピタンはこの村における最強の武力を持つ男たちの取りまとめ役として、である。

 そんな三人にとって、この村が普通の村ではない、というのはどういう意味か。

 当然、俺もロレーヌも興味を引かれる。

 俺が不死者アンデッドになった原因とは関係ないだろうが、あの祠がどうしてあんな扱いだったのか、ということには関係するかもしれないし、それ以上に、単純に今まで住んでいた村に秘密があるというのは好奇心が躍るのだ。

 俺もロレーヌも、かなり知りたがりの性分である。

 そうでなければ冒険者などやっていない。

 冒険者は、世界の秘密についてどうしても知りたいという人間がわざわざ自分の命を賭け金にしてなるものだ。

 そんな人間が、こんな面白そうな話を聞いて、聞かずに帰るという選択肢をとれるはずがなかった。


「それで? ハトハラーはカピタン達三人にとって、一体、どういう村なんだ?」


 俺がそう尋ねると、今度はガルブが、


「今ここで話してもいいが……それだと実感が薄いだろうからね。詳しい話は明日にしたい。本当はこの四人で行きたいところがあったんだ。だから祠を見たら来い、と言っていたんだが……流石に暗くなってしまったからね。今から向かうのは危険だ。今日のところは、私の料理でも食べて、終わりにしよう。そして明日の朝、ここに来るんだ。そしたら、話してやるよ」


 そう言って笑った。


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