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第11章 山奥の村ハトハラー
第240話 山奥の村ハトハラーと師匠たち

 一応、村を出てマルトに戻ってから何をするのかは決まった。

 とりあえず鑑定神の神殿に向かう、というのを目標に動くことにする。

 問題は本神殿に行け、と言われたことだろうか。

 分神殿ならヤーラン王国にも一応あるが、それだとダメらしい。

 その理由はなんとなく予想はつく。

 神殿や祠というのは神々や精霊の世界と近く、降りやすいからだ。

 といっても、歴史的に見て、彼らが降臨した、なんていう話は滅多にないのだが、さっきの神霊……一応、ヴィロということにしておこう。

 ヴィロが気軽に降りてきたあたり、その辺の決まりは意外と緩いのかもしれない。

 まぁ、頑張って降りてきている、ということも言っていたから、ただ口調が軽かっただけで本当はかなり厳しい規則に基づいて降りてきているのかもしれないが……。

 その辺りの問題で、鑑定神は本神殿にしか降臨できない、ということではないかと想像がつく。

 ヴィロは精霊に近い、いわば小さな神様のようなものだが、鑑定神は昔から信仰されている大物の神だ。

 人間でもそうだが、身分が高くなるにつれて、会うためには色々な障壁が増えていくものだ。

 会う時間、人数、そして場所など……。

 神様も似たようなものだと思えば、本神殿に行かないとならないと言うのは理解できる。

 

 とは言え、鑑定神の本神殿は他国だ。

 必然、旅をする必要が出てくる。

 ラウラの《竜血花》採取や、アリゼの教育など色々とやらなければならないことがある以上、その辺りのすり合わせは問題になってくる。

 帰ったら相談かな……。


 そう思っているとロレーヌが、ふと言った。


「ま、とりあえずここですることは終わったか。あとは……お前の師匠殿のところに行く予定だったな。日も暮れてしまったが……大丈夫か?」


 ガルブの婆さんか。

 そういえば確かに呼ばれていたな。

 祠を見たら家に来いと言う話だった。

 何かを話してくれるつもりなのか、それとも単純に久しぶりに帰ってきたのだから積もる話でもしようくらいの話なのか。

 あの師匠はこの村において、最も心の内が読めない人だから、一体何を思ってそんなことを言ったのか推測が出来ない。

 もしかしたら全然違う理由かもしれないと考えると若干怖いが……それでもいかないという選択肢はない。

 なにせ、俺が冒険者として生きていく基礎を作ってくれた人間のうちの一人なのだから。

 弟子は師匠の言葉には服従なのである。


 ただ、確かに時間帯の問題があるな……。

 本来、ちょろっと見てきて昼過ぎくらいにやってくるだろう、と師匠の方は考えていたかもしれないから。

 日が暮れたあとというのは、マルトのような魔力灯ライトがそこら辺にあるわけでもないハトハラーにおいては、夜に他ならない時間帯だ。

 皆、家に戻って食卓を囲み、すぐに寝て、次の日の朝、日が昇ると同時に起きる。

 そう言う生活をしている。

 都会とは生活様式がまるで違う、というわけだ。

 つまりは、今から人の家を訪ねると言うのは、マルトで考えると、もう寝そうな時間帯に訪ねるようなもので、ちょっと非常識だなと思ってしまうような行為ということになる。

 だからちょっと躊躇するのだ。


 とは言え……。


「行くだけ行ってみることにしよう。明日にしろと言われたらそうすればいいさ」


 俺はロレーヌにそう答え、それから二人でガルブのところへと向かうことにしたのだった。


 ◇◆◇◆◇


「……おや、やっと来たね。待ちくたびれたよ」


 ガルブの家に辿り着き、その扉を叩くと、すぐにその扉が開かれて、意地悪ばあさん然とした表情をした老婆が顔を出す。

 何度見ても怖いと言うか、慣れないと言うか……本能的に怖いな、と思ってしまう顔であった。

 別に顔の作りそれ自体が化け物じみている、ということではないのだけどな。

 それで怖がるくらいなら、俺が屍食鬼グールだったときの方がよっぽど怖かったくらいだ。


「ほれ、そんなところで突っ立ってないで中にお入り。他に客もいるんだ」


 ガルブがそう続けたので、俺たちは急いでガルブの家の中に入った。

 しかし、他に客?

 一体誰だ……。

 ハトハラーの村は小規模な村落であるから、村人全員がほぼ親戚のような付き合いをしていると言っても過言ではなく、他人の家で食事をとることは頻繁にある。

 だから別におかしくはないのだが……ガルブの場合はな。

 それほど多いことではないから、何かあるのだろうかと思ってしまう。


 中に入ってしばらく進み、食卓のある部屋へとたどり着くと、


「おう、レント。来たか。それに……幻影魔術の姉ちゃんだな」


 一人の男が食卓にかけたまま、手を上げてそう言った。

 その男の顔にはもちろん見覚えがある。

 宴にもしっかり出ていたしな。

 この村の狩人頭を務める男、カピタンだ。

 そして、俺のもう一人の師匠でもある。

 剣鉈や弓の扱い、森での歩き方や生存サバイバル術などを教えてくれた男だ。

 十代半ばの子供が二人いる、いい年の男であるが、未だその技量は衰えていないようで、体に纏った鎧のような筋肉はマルトの剣士たちと十分に渡り合えそうなレベルだ。

 実際、本当に渡り合えるだろう。

 この男は《気》の扱いに長けている。

 冒険者だからと言って必ずしも身に付けているわけではないその技術。

 それを高度なレベルで。

 彼が率いる狩人たちも、皆、《気》を身に着けていて、彼ほどではないが中々の技量なのだ。

 今の俺なら、彼の率いる狩人たちなら勝てるだろうが、彼自身に勝てるかと言われると……正直分からない。

 カピタンが本気で戦っているところを、俺は見たことがないからだ。

 こんな山奥の村なんかでくすぶっていていいような男ではないはずなのだが、彼はそれで満足している。

 欲がないと言うか、飄々としてつかみどころがないというか。

 とにかく、変わった男、と言える人だ。


 ちなみに、ロレーヌとはすでに昨夜の宴の中で顔を合わせ、自己紹介も済ませているらしい。

 聞けば、幻影魔術の中の俺の戦いについて、色々と根掘り葉掘り聞いてきたようだ。

 ……聞いてるだけでなんだか居心地が悪くなってくる。

 というか、この場の居心地の悪さよ。

 俺の師匠が二人、いや、ロレーヌも魔術の師匠なのだから三人とも俺からすると師匠だ。

 

 肩身が狭い……。

 


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