「ま、そのうち探すことにするさ。今度はこの体が人間に戻ってから……とか言ってると永遠に探せなさそうだし、人に戻る方法を考えつつ、並行して探していこうと思うよ」
俺がそう言うと、ロレーヌはため息を吐いて、
「なんだかやることが次々増えていっている気がするが……大丈夫か?」
と心配げに言ったが、
「少なくとも、俺はほとんど眠る必要がないからな。まだまだ大丈夫だろう」
俺は首を振ってそう言った。
それに対してロレーヌは、
「そうは言っても……いや、お前に言っても聞かないか。ま、好きにするといい。ただ厳しい時は言うようにな」
と最後にはあきらめた。
それから、そろそろ篝火のところに戻ろうかと立ち上がろうとすると、
「……おや、こんなとこにいたのかい。レントと……確か、ロレーヌだったかい?」
そんな声が俺たちの後ろからかけられた。
振り返ってみてみると、そこにいたのは、いかにも意地の悪そうな笑みを浮かべた曲者感満載の婆さんだった。
誰なのかは明らかである。
この村の薬師のガルブだ。
俺の義理の祖母の妹だから、大叔母、ということになるかな。
それに加えて、俺の薬師としての師匠でもある。
「……師匠。どうしてここに?」
「そんなの決まってるじゃないか。せっかくの宴なのに、主役がいないんじゃ盛り上がらないってさ。私は宴は体に響くからって家にいたのに、インゴが呼びに来てさ。まったく……」
そう言っているガルブはどう見ても健康そうで、体に響くとか確実に嘘だろ、と言いたくなるような元気さだ。
それに、魔力が増加した今、彼女に近づいて分かったこともある。
この婆さん、魔術師だ、と。
俺の弟子入りを許しておいて、よく隠し通したものだと驚きだ。
……まぁ、村にいたら魔術なんて使うタイミングもないし、そんなに隠すのは難しくないか。
魔力が大してなければ他人の魔力なんて感じ取れもしないからな。
そんな俺の視線にガルブは、
「……お、気づいたのかい。あんた、村を出るときは魔力なんて一滴くらいしかなかったくせに、今はかなりのものだ。そこのロレーヌのお蔭かね?」
と言ってくる。
こっちから見て分かるということは、向こうから見ても分かると言うことだ。
それにしても魔力量まである程度、見ただけで推察できると言うのは魔術師としてかなり高いレベルにあることを示している。
ロレーヌも同じことを思ったようで、少し驚いた表情をしながら言う。
「とりあえずは……初めまして。ロレーヌ・ヴィヴィエです。ご推察の通り、レントに魔術を教えています」
「ひゃっひゃ。私はガルブ・ファイナ。そこのレントの大叔母にして、薬師の師匠。そして魔術師でもある……村だと、インゴくらいしか知らないけどね」
「ファーリも知っているでしょう? お弟子だと聞きました」
ロレーヌの言葉に、ガルブは呆れた顔で、
「あの娘、秘密だとあれほど言ったのに……まぁ、口が軽いのは知ってたけど。となると、リリにも知られているね?」
「ええ。しかし、いいのですか? 秘密と言う割に、あまり隠す意思が感じられませんが」
「いいのさ。今の時代はもう、構わんだろう。私が若いころはこの村ももっと殺伐としていてね、どうしても隠さなければならなかったんだが、事情が変わっているからね。ファーリに教えると決めた時点で、もうばれるものだと思ってたのさ」
そんな時代がこの村にあったのか?
まぁ、ガルブが若いころって言うくらいだから、五十年は昔なんだろうが……。
なんでそんなに殺伐としていたのか聞こうと口を開きかけたら、ガルブが、
「ま、それはいいさ。ともかく、早く戻りなよ。ロレーヌもだ。幻影魔術とやらをもう一度見たいってさ。私も見てなかったから見せてくれるなら見たいね」
と言う。
ロレーヌはその言葉に、
「別に構いませんが……ガルブ殿なら使えそうですが?」
そう言った。
それはガルブの魔術師としての実力を図ってのものだったのか、単純にそう思って言ったのか。
ガルブはその言葉に首を振って、
「無理無理。あんたが使ってた時、魔力を感じたが、あんなに複雑な構成と多量の魔力を使う魔術は老体には堪えるよ」
そう言って来た方向に戻っていく。
その後姿を見ながら、そう言えば、と思って俺が、
「ああ、師匠。聞きたいことが」
と止めると、ガルブが振り返って、
「なんだい?」
と尋ねた。
俺は言う。
「村に祠があったろ? あれってまだ残ってるかな?」
そもそも目的はそれだった。
挨拶など終わって、明日辺りに見に行こうかな、と思っていたわけだが、どういう由来のものなのかをこの村の生き字引であるガルブに尋ねようとも思っていたのだ。
ここで会ったのもちょうどいいと思い、とりあえず尋ねてみたのだ。
するとガルブは、
「祠というと、インゴの家の近くにある奴かい?」
「違う。そっちじゃなくて、西の方に廃屋があるだろう? あの裏の方のだよ」
そう言った途端、ガルブの表情が若干曇った。
しかし、それは一瞬のことで、注意して見なければ分からない程度だっただろう。
ガルブはそれからすぐに、俺に、
「……あんなところに祠なんてあったかね」
と言って来た。
おそらく、知っている様子だったのに、しらばっくれている?
しかしそんなことする意味があるのか……。
こういっては何だが、打ち捨てられた小さな祠だったのだ。
俺が修理したとはいえ、それでも目立たたない存在であるのに間違いない。
場所も場所だし、誰も気づいてなかったかもしれないくらいだ。
「あるさ。俺が昔、修理したからな」
「……あんたの聖気の源はそれってわけか。なるほどね……」
ガルブはすぐに察してそう言った。
聖気を手に入れて、あまり日を置かず村を出たから、その辺りの説明はガルブにもしたことなかったんだよな。
ただ、聖気持ちでない限り、聖気の存在は基本的に判別できない。
俺が聖気を持っていることを察していたと言うことは、ガルブも聖気を持っているのか?
俺がそう思ったことを、表情から理解したのだろう。
ガルブは、
「私は聖気なんて持っちゃいないさ。ただ、あんたがたまに村に帰ってきたとき、保存食になんかしてるのをたまに見てたからね。ありゃあ、たぶん聖気だろうって思ってたのさ」
と言う。
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