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第11章 山奥の村ハトハラー
第230話 山奥の村ハトハラーと式

「……ん、おう。来た来た。来たぞ、レント」


 男が額に手を当てて、焚き火の向こう側を見ながらそう言った。

 日は落ちていて、もしかしたら今日は来ないかもしれない、そう言っていた矢先のことだったから、男の顔色は明るかった。

 俺も俺で、一人で黙っていたらそのまま森の中に行って、魔物にでも殺されに行きたいような気分だったけど、男と話しているとそうじゃない気分になったよ。

 男は話もうまかった……子供が好きそうな話を色々と選んで、してくれた。

 遥か遠くにある、木と土の国の話、空を飛ぶ船の話、太陽に成り代わろうとした愚か者の話、そして、人の魂がどこからきて、どこに行くのか……。

 

 色々と知っている男に何者なのかと聞けば、少し悩んでから、


「俺は、冒険者だ。神銀(ミスリル)級冒険者の、ヴィルフリート・リュッカー」


 それを聞いても、当時の俺は驚きはしなかった。

 冒険者の存在は知っていても、その細かいクラス分けなんて知らなかったからな。

 ただ、この人が、ジンリンがなりたいと言っていた、冒険者なんだなって思っただけで。

 ここにいれば、喜んだだろうなって。

 それだけだった。

 

 ただ、よくよく考えれば、そのときから少し、心の中にあったのかもしれない。

 ジンリンがなろうとしてなれなかったもの。

 もう目指せないもの。

 生きている俺が、代わりに叶えなければならないんじゃないかって。

 

「……ヴィルフリート。いきなり馬車から飛び出すから何事かと思ってたけど……これは」


 俺たちの直前で止まった馬車から御者が降りてきて、ヴィルフリートにそう尋ねた。

 その人物は優男風の青年で、長い髪の変わった雰囲気の男性だったよ。

 男なのに、なんか綺麗で、田舎に向かう馬車の御者、って感じじゃなかったな。

 なんていうか、貴族とか、神官とか、そっちの方の雰囲気をしてた。

 彼の言葉に、ヴィルフリートは首を振って、


「……ま、詳しい話は後だ。とりあえず、亡骸を故郷に運んでやりたい。いいか?」


 と言った。

 それだけじゃ、普通の御者なら大体嫌がるものだけど、青年は頷いて、


「そうだね……。棺はないが、包んであげられる布は余るほどある。運ぼうか」


 と即座に馬車に戻って、たくさんの布をもって来た。

 どれも高価そうな布で、反物としてみれば一財産になりそうだったけど、青年は惜しげもなく使ってジンリンたちを包んでくれた。

 しかも優しい手つきで。

 そんな彼らに会えたことは、俺にとって間違いなく幸運だっただろうな。

 

 全員を布に包み、馬車に運び終えたところで、ヴィルフリートが青年を俺に紹介してくれた。


「こいつはアゼルだ。アゼル・ゴート。本業は行商人だが、決まったルートを持たない道楽者でな。たまに暇な時に雇って馬車で運んでもらってるんだ。冒険者もついでにやってるから、パーティ組むのにもちょうどよくてな」


「アゼルだよ。よろしくね。君は……」


「レント」


 俺が一言そう答えると、アゼルは頷いて、


「なるほど、レントくんね。了解。ところで、今日は日も暮れてしまったから、君の村には明日向かおうと思う。それでいいかな?」


 そう言った。

 俺としては文句などあるわけがない。

 俺だけならまだしも、みんなの亡骸を載せていってくれるというのだから、それ以上の条件などあるわけがないさ。

 だから頷いて、


「よろしくお願いします」


 と言ったら、アゼルは笑って、


「別に気にする必要はないよ。それよりも、君は今日はもう、休んだ方がいい。見張りは私とヴィルフリートがしっかりとしておくからね」


 そう言って俺の頭を撫でてくれた。

 その声は優しく慈愛に満ちていて、聞いているだけで眠気が襲ってくるようなものだった。

 それからしばらくして、俺の瞼は重くなり、そしてその日は眠った。


 ◇◆◇◆◇


 次の日の朝、村に出発して、それから夕方くらいに村に着いたよ。

 村のみんなは、見知らぬ馬車が村に来たことに驚いていたけど、それ以上にその馬車から俺が降りてきたことにびっくりしてた。

 当然だよな。

 もともと乗っていた馬車はどうなったんだって話になるから。

 でも、その状況で大人たちの大半は察していたように思う。

 ヴィルフリートとアゼルはすぐに村長夫妻……インゴたちのところに行って、事情を説明していたから。

 俺は、村の同年代の子供に色々聞かれたけど……答える気になれなかった。

 ちゃんと説明しなきゃならなかったんだろうけど、無理だった。

 しっかりと飲み込めていない事実を、口にするのは……。


 それからのことはあっという間だったな。

 俺の両親と、プラヴダ、そしてジンリンの死が告げられ、葬式を行って。

 俺の扱いについては村長預かりになって、養子にしてもらって。

 三日くらいの間に行われたことだけど、驚いたことにヴィルフリートとアゼルはその間、村にいてくれた。

 あとで父さん……インゴに聞いてみたら、どうも俺のことを心配していてくれたらしい。

 ああいうことにあって、俺がそうとう危うく見えたって。

 何をするかわからないし、そうなると誰かが見ていなければならないだろうけど、葬式が終わるまでは村人にそんな余裕はないだろうからと。

 確かに、誰もいなければふっと死にたくなっただろうから、その感覚は正しかっただろうな。

 彼らに助けてもらっておきながら、酷い話だけど、それくらい俺はショックだったから。

 それと、死者の弔いについて、人手は沢山あった方がいいからというのもあったみたいだ。

 実際かなり役に立ってくれたみたいで、式のための供物とかは森に入って集めないとならないものもあるんだけど、すぐにとってきてくれたりしたんだとさ。

 いい人たちだったよ。

 

 それから、葬式も、色々と事務的なことも全て終わって、俺はそこで初めてまともに現実に向き合った。

 辛かった。

 これからどうすればいいのかわからなかった。

 村長の子になったのだから、村長を目指すのか?

 いや……。


 ジンリンは冒険者になりたいと言っていた。

 いつか、世界を見て回るのだと。

 彼女の夢は、もう彼女自身には見れない。

 生き残った俺が、見なければならないんじゃないか……。

 

 それはあんまりよくない考え方だったかもしれない。

 でも、そんなことを思った俺は、身近にいた冒険者に尋ねた。


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