考えてみればこの時点で俺も俺で大人を呼びに行けばよかったんだよな。
なにせ、子供が高い木の上に登ろうとしてるんだから、それを口実にすれば大人だって妖精妖精言っているときと比べて無碍にはしなかっただろう。
でも、今ならそんなことを考え付くが、当時はな……。
やっぱり子供だったんだ。
そんなことは思い付きやしなくて、ただ、危ない、早く降りて来させなきゃって、そればっかり考えて、木の下から叫んでいたよ。
ただ、ジンリンの頑固なことったらなくて、俺が叫んだくらいじゃ一度始めたことをやめようとしないんだから。
もしかしたら、木登りと
そんな風に俺は死ぬほど心配してたわけだけど、それにしてもジンリンの木登りの技術は際立っていたよ。
やっぱり運動神経がいいというか、幾度となく登って来たから慣れていたというか。
猿みたいにするする登って行って、あっという間に
そこからは、当然、枝を伝ってその先まで行くことになるよな。
正直、枝はそこまで細くはなかった。
子供一人ぐらいなら十分支えられそうに見える、それくらいの太さはあったよ。
でも、逆を言えば子供一人ぐらいしか支えられそうになかったとも言える。
つまり、伝うにはとても危険であることは間違いなかった。
それなのに、ジンリンはその枝に手をかけ、やっぱりするすると、慣れた様子で伝っていった。
ギシギシと枝のきしむ音が俺の耳に酷く嫌に響いたよ。
今にも折れるんじゃないか、折れるんじゃないかって、気が気じゃなかった。
木の枝が、ジンリンが先の方に近づくにつれて、徐々に
それなのに、彼女は戻ろうとしない。
それどころか、
「ほら、助けてあげるよ……」
なんて呟いている。
その表情には高いところにいる怯えなんて一切なくて、なんていうか、一種の興奮みたいなものがあったよ。
人助け……じゃないけど、そういうことをしている感覚が、彼女の気分を高揚させていたんだろう。
そんなジンリンの伸ばす手に、
たぶん、握りつぶされそうで怖く見えたんだろう。
ジンリンはそれにすぐ気づいたのか、作戦を変えて、もっと枝の先の方へと進んだ。
それから、
その瞬間のことだ。
――バキバキッ!
という音がして、枝が根元から折れたのは。
「ジンリン!」
俺はその瞬間、そう叫んで、ジンリンの落下位置に走り出したよ。
俺に何が出来るかなんて考える暇もなかったけど、危ないから離れようなんて一瞬も思わなかった。
ただ、ジンリンが危ないから、危険だから、どうにかしないとと思って……走った。
ジンリンの方は、落ちそうになったタイミングで、
たぶん、
飛ぶ気力もなさそうだったから、そうしたんだろう。
そんなジンリンが落ちていく。
俺は走る。
そして……。
俺はジンリンが落ちる直前、その真下に辿り着くことが出来た。
でも、その当時、俺は五才だ。
抱きかかえて華麗にキャッチ、とはいけるわけがなかった。
それでも、せめて衝撃を和らげようと、その下で構えていたよ。
地面より、人間の体の方が柔らかいはずだからな。
俺の手と、胸の辺りにどすん、と重い衝撃がやってきて、俺は支えきれずに地面に倒れた。
枝の落ちる音は意外と小さくて、音もならなかった。
まぁ、子供が乗ったくらいで折れる程度の太さの枝だし、そんなものだろう。
それで、ジンリンがどうなったかと言えば……。
「……いたたぁ……」
地面に倒れ込んだ俺の上で、そんな声が聞こえた。
「……ジン……リン、大……丈夫?」
俺もまた、体中に痛みが走る中、そう尋ねると、彼女は、
「うん……どこもそんなに痛くない……」
と返答した。
実際、彼女の体を見てみるに、特に大きな怪我はなさそうに見えた、
どうやら、自分の行動は正しかったらしい、とそれでわかった。
それから自分の体の方を見たけど、俺の方も特に大けがはなかったな。
まぁ、擦り傷やら青タンやらは出来ていたけど、それくらいの怪我なら、村で走り回ってるときにも出来る。
俺はほっとしたよ。
それから改めて、ジンリンに言った。
「あんな危ないこと、もうしないでよ」
どなればよかったのかもしれないけど、当時の俺にそんなこと出来るわけもなくて、こんな言い方になった。
大分悲しい顔で言ったかもしれないな。内心は大分呆れて怒っていたけど、それを外に出すようなタイプじゃなかったから。
でも、ジンリンは意外と素直に、
「……うん。分かった。ごめんなさい……」
と言って来た。
驚いた俺が、
「……ジンリン、素直だね?」
と尋ねると、ジンリンは、
「だって、レント、怒ってるでしょう?」
と言ってくる。
「それは、まぁ……」
「だから、ごめんなさい」
俺が怒ってるからごめんというのもどうかと思うけど、とりあえず自分の非を認めたならそれでいい。
今後しないと言っているし。
俺はそう思って、もうこのことで責めるのはやめることにした。
「わかった。いいよ」
「本当に? もう怒ってない?」
「ああ。でも、また同じことをしたら怒るかもしれない。だからやめてと言ったら、次はやめてね」
「うん……」
ジンリンが頷いたので、説教は本当にそこで終わりにすることにする。
それから俺は少し微笑んで、ジンリンに尋ねた。
「それで、ジンリンが助けた
するとジンリンは、
「あ、そうだった……」
と、胸に引き寄せていた手を開いた。
するとそこには確かに先ほど枝に引っかかっていた小さな
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