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第11章 山奥の村ハトハラー
第216話 山奥の村ハトハラーとレント神話

「そういえば、リリちゃん。ロレーヌさんに聞くことがあるんじゃなかったの?」


 ファーリがふと、思い出したようにそう言った。

 リリははっとしてロレーヌと俺の顔を見つめ、何か言いかけるように口を開くも、


「……レントと都会の話に夢中になりすぎてたわ……。これから夜の準備しないといけないし……ロレーヌさん、また夜、お話してくれる?」


 とロレーヌに言う。

 ロレーヌはそんなリリの様子に首を傾げつつも、別に断る理由はなかったのだろう。

 普通に頷いて、


「ああ、別に構わんが……夜とは、あれか、村長夫妻が言っていた宴のことか?」


 と尋ねた。

 リリもそれに頷き、


「ええ。それよ。私もファーリも料理作りとか手伝わなきゃならないから実は結構時間がないの」


「そうなのか。すまんな、時間をとらせて」


「違うわ、私たちの方がいきなり押しかけたのよ。色々と話を聞けて楽しかったわ。また。レントもね」


 と言ってリリは手を振り、ファーリも、


「あの幻影、夜にも見せてくれたらうれしいです。みんなきっと見たいと思いますから。じゃあ、また。ロレーヌさん、レン兄」


 と同様に手を振って去っていた。

 残された俺とロレーヌはそんな二人を見ながら、


「……あいつら、何しに来たんだ?」


 俺がロレーヌに尋ねると、ロレーヌは、


「さぁな。よくわからん。お前に用があったみたいだが……」


 とよく分からない顔をしていた。

 しかし、二人きりになってそう言えば、と俺は思って言う。


「……お前、幻影魔術使って色々見せたんだろ? あの二人に」


 するとロレーヌは、ぎくり、という顔をして、しかし少し誇らしげに、


「ああ、見せたぞ。お前の秘密をばらさないように、かつお前の村での威厳を損なわないように調整するのが大変だった。しかし、あの二人の様子を見てみろ。概ね成功したと言っていいのではないか?」


 と言って来た。

 それを聞いて、俺はロレーヌなりにいろいろ考えた結果、幻影魔術を見せたらしいと言うことを理解する。

 まぁ、あの二人にマルトでの俺の様子を教えてくれ、とか言われたらロレーヌとしても断りにくいだろうしな。

 説明するよりは魔術で見せよう、となるのも分かる。

 ロレーヌはこれで意外とサービス精神旺盛な奴だし、魔術を出し惜しみしないから……。

 魔術師にしては珍しいタイプだ。

 ふつう、魔術師というやつは自分の持つ魔術を出し惜しみして価値を上げようとするものだからな。

 そもそも、一般的な魔術師と言うのは魔力量がさほど多くないと言うか、そうそう乱発できるものでもなく、そんなことをしているとすぐに魔力切れになってしまうので必要なときにしか使わないという理由もある。

 ロレーヌはそう言った心配がほとんどない位に魔力量が多いからそういうことが出来るともいえる。

 

「……まぁ、お前が苦心してくれたことは今ので少しわかったが、リリもファーリも何か英雄でも見ているような夢見る瞳をしていたぞ。俺のことを持ち上げてくれるにしても、少しやりすぎだったんじゃないか?」


 俺がそう尋ねると、ロレーヌは悩んだような顔つきで、


「……そうかな? 実際、お前がやったことは中々にすごいことだから、普通に説明されてもああいう感じになるのはそれほどおかしくはないと思うが。骨巨人ジャイアントスケルトンにしても、タラスクにしても、一般的な冒険者では中々遭遇しないし、ましてやソロで討伐など実力者でなければ出来ん」


 まぁ、それは間違いではないかもしれないが、タラスクはその住んでいる場所や毒と言う特殊な特性を加味しても金級程度、骨巨人ジャイアントスケルトンは銀級下位クラス程度の実力があれば十分に相対できる相手だ。

 それほど褒められたものでもない。 

 俺がそう言うと、


「お前、少し自己評価が低すぎるのではないか? それだけの実力をすでに身に付けていると言うことだぞ。こういった村から冒険者になりたいと言ってマルトのようなところにやってきた若者のうち、どれくらいが今のお前ほどの実力になれると思っている? お前のなしたことは、間違いなく村で英雄として見られてもおかしくないものだ」


 とロレーヌから返って来た。

 まぁ、そう言われるとそうかな、とは思う。

 そもそも俺は銅級に過ぎなかったわけで。村出身の冒険者としては、大体がその辺の実力で頭打ちになり、そして冒険者を引退して村に戻り、狩人やら村の防人やらになって余生を過ごすものだ。

 俺も行く先はいつかそうなっていた可能性が高い。

 そうならなかったのは、あの幸運だか不運だか分からない巡り合わせのお陰でしかない。

 そして、そんな俺がいまやタラスクとまで戦えるほどになっていることは、そういう大多数の夢破れた冒険者たちからすれば、十分な結果だと言うことになるだろう。

 ……そうだな。

 なんだか最近、色々ありすぎて自信が失われつつあったような気がする。

 ラウラとかニヴとか、見るからにただものではないけどよくわからない人々に良く会うようになって、俺って凡人だよな、と最近強く感じるのだ。

 あの生まれつき備わっているかのような、ただものじゃないオーラはどうやって身に着けるのだろうか?

 ……いや、ラウラはともかく、ニヴみたいにはなりたくないが……。

 あいつはただものじゃないというか、そもそも人間離れしすぎだ。考えとか行動とか人の社会でまともに生きていけるタイプには思えない。

 その割に、色々と伝手があったり宗教の権力のいいとこどりをしたりと立ち回りが妙にうまくて手におえないが。

 まぁ……ああいうのは特殊だろうから、真似することもない。俺は俺だ。

 そう思えば、少しくらい、自信をもってもいいかもしれない。

 

 とは言え、それはそれとして、ロレーヌが幼馴染たちに何を見せたのかは確認しておきたいなと思い、俺はロレーヌに言う。


「そんな大したものでもない気がするけど、少しは自信を持っておくことにするよ。それとロレーヌ、あいつらに見せた幻影、俺にも見せてくれ。確認しておきたい。色々後で聞かれて襤褸が出るのもまずいしな」


 するとロレーヌは、


「それもそうだな。口で説明してもいいが、見た方が分かりやすいし早いだろう。こっちに来い」


 そう言ってロレーヌは魔術を使いだす。

 いつみても複雑な構成の魔術だが、ロレーヌはそれこそ鼻歌でも歌いだしそうなくらいに簡単にやる。

 そして、幻影魔術が完成し、ロレーヌはそれをコントロールし始めた……。


 ◇◆◇◆◇


 結論として言いたいのは、一体これは誰だ、ということだ。

 美化が酷い。

 エーデルもいないし……。

 俺がほぼ無傷なのもな。

 確かに大きなけがはしなかったが、タラスクの前にたどり着くまでに結構色々あってぼろぼろに近い汚れ方をしていたはずなのに、これではタラスク退治を簡単にこなした英雄のようである。

 あの二人の視線の意味も、これでよく理解できた。


「……いくらなんでも、演出過剰だろ……」


 そう文句を言うと、ロレーヌは、


「建国神話の国王ほどではないぞ。なに、気にするな」


 と明後日の方向の返答をする。

 建国神話の国王なんてどんな国でもそれこそ神話じみた嘘やら装飾やらが施されているものだ。

 そんなものと同列に並べられても困る。

 が、半ば本気で言っていることはロレーヌの顔を見ればわかった。

 

「なぁ、ロレーヌ」


「なんだ?」


「これ、夜の宴でも上映するつもりか?」


「もちろんだ。頼まれたしな」


 楽しみそうにそう言ったロレーヌに、俺はげんなりとしつつ、一体どうやったら俺の真実の姿を村の人たちに理解してもらえるのかを、俺は夜まで考えることにしたのだった。


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