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第11章 山奥の村ハトハラー
第215話 山奥の村ハトハラーと幼馴染たちの誤解

 色々と気持ちを落ち着けるために村をうろうろして実家に戻ると、幼馴染二人が俺を見てなんだかものすごく尊敬するような目を向けていた。


 ……なぜだ?

 俺は何かしたか?

 いや、何もしていないはずだが……。

 大体、今回帰ってきて今、初めて顔を合わせたと言うのに、そんな尊敬など生まれる時間はなかった。

 それなのに……。


「レントって強かったのね! 見直したわ!」


「レン兄ってあんなに凄いの倒したんだねぇ。やっぱり冒険者ってすごいんだ」


 幼馴染。

 リリとファーリがそう言って、俺を笑顔で見つめる。

 少し火照っているように見えるのは何かに興奮しているからだろうが……いったい何に?

 俺を見て、と解釈するとなんだかやばい幼馴染になってしまうのでそうではないとしてだ。

 何か心当たりなど俺にはないぞ。

 そう思っていると、後ろの丸太に座るロレーヌの姿が目に入った。

 若干、自慢げと言うか、やりきった顔をしている気がするのは気のせいだろうか?

 ……いや、ロレーヌの表情はこの十年色々見てきた。

 その俺の感覚からして、間違いではない、と言うことはほぼ確実だ。

 しかし、その理由が分からない。

 状況から見て、幼馴染たちが留守番をしていたロレーヌのもとを訪ね、ある程度会話したのだろうということは分かる。

 そこで一体何をやり切ると言うのか。

 俺に対する尊敬が幼馴染二人に生まれていることから、おそらくロレーヌが俺のマルトでの活躍なりなんなりを、幾分か盛って話してくれたのだろうということは想像がつく。

 凄いのを倒した、とか言っているからタラスクとか骨巨人ジャイアントスケルトンとかとの戦いの話でもしたのだろうか?

 しかし、こんな山奥の村で生活している村人の二人に、それらの魔物の強さや恐ろしさを正確に伝えられるほど、話し上手だっただろうか?

 いや、ロレーヌがまともに説明したら、とても説明的な感じになるだろう。

 分かりやすくはあるだろうが、こう、感情的な部分は排された、まるで授業のような解説になるはずだ。

 それで幼馴染二人がこんな風になるはずはないが……。


 と、そこまで考えたところではっとした。

 そういえば、ロレーヌにはあれがあったな、と。

 幻影魔術だ。

 一般的には、地図や構造物などを中空に幻影として投影する魔術であり、構成が非常に難しいのと維持に多くの魔力を使うことで知られる魔術だ。

 使い手は各国の劇場などに多く、ただ、魔力量を補うために大量の魔石を必要とするため、かなりコストがかかる。

 しかし、その効果はそれを一度見ると単純な書き割り程度では満足できなくなってしまうので、高級劇場で使われることが多い。

 けれど、ロレーヌの場合は一人で大規模な幻影を維持できる。

 魔力量についても自前で魔法陣や構成を研究し、かなり抑えることが出来るらしい。

 らしい、というのは前にどうやっているのか聞いた時、全く理解の及ばない説明をされたので諦めたからだ。

 劇場付きの幻影魔術師たちからすれば万金に値する情報だっただろうが、当時の俺には魔力量的にも制御力的にも全く使えるはずもなかったし、そもそも理論が複雑すぎて理解できなかった。

 今ならもしかしたら頑張ればなんとか出来るかもしれないが……まずは基本からだろうな。


 ともかく、そんな幻影魔術を使って、俺と魔物との戦いを、ここを即席劇場にして投影したのだ、と考えるとロレーヌの満足げな表情と、幼馴染たちの興奮と尊敬の表情も理解が出来る。

 

 しかし問題は、《どの程度》演出してくれたのかだ。

 正直言って、俺と骨巨人ジャイアントスケルトンやタラスクとの戦いはかなり不格好なものだった。

 骨巨人ジャイアントスケルトンははじめて一人で戦った巨大魔物であるし、なんとか弱点を突けて倒せたが、一歩間違えれば俺の方がやばかった。

 タラスクも、エーデルの助けを得てやっと勝てた、というのが実際のところだ。

 やはり、亜竜とは言え、竜に連なる魔物の力はそうそう簡単に倒せるようなものではなかった。

 その辺りを正確に描写してくれていれば、苦戦したけど勝ったんだね、くらいで済むように思えるが……。


 ……キラキラと輝く幼馴染二人の視線を見る限り、そんな感じではなかったんだろうな、と分かってしまう。

 ともかく、とりあえず俺の予想が正しいかどうかを二人に聞いてみる。


「……久しぶりだな、リリ、ファーリ。それで、ロレーヌに幻影でも見せてもらったのか?」


 すると、リリが、


「そうよ。都会の人って凄いのね。あんなに臨場感のある幻影を、こんな風に見せられる魔術が使えるなんて! レントの戦ってる姿もかっこよかったし、魔物の恐ろしさも分かったわ!」


 と言い、それに続けてファーリが、


「魔術を極めるとあそこまでのことができるようになるんだねぇ。レン兄も、都会に行って、ものすごく強くなったみたいだし……私もそのうち、都会に修行に行こうかなって思ったよ」


 と言った。

 やはり、予想は正しかったらしい。

 それにしても……なんだか二人の都会に対する期待が膨らみ過ぎている気がする。

 俺は都会に行っても十年強くなれなかったし、今ある程度の実力になれたのはただ幸運だったからだ。

 いや……あれを幸運と呼ぶかどうかはとりあえず置いておこう。

 ともかく、何かの巡り合わせのお陰だ。

 ロレーヌの幻影魔術にしても……あれは単純にあいつが規格外なだけだ。

 都会に行ったってあいつほどの魔術師など滅多にいない。

 銀級というランクで落ち着いているのは、あいつがそれほど依頼を受けないからで、本来だったら金級でもおかしくはない。

 それに、戦闘に限らない魔術の実力で言えば、もっと上だろう。

 ロレーヌは冒険者であり、戦いに身を置く魔術師であるが、その本質は研究者・学者なのだ。

 理論構築に関してはその辺の魔術師の追随を許さないレベルで高い水準にあると言っていい。

 そんなものを都会なら当たり前にいるように理解されると、色々とよろしくはないだろう。

 そう思った俺は、二人に言う。


「ロレーヌは都会でも色々と規格外な方だからな。あいつを基準にして都会に行くんじゃないぞ」


 そんな風に。

 するとリリが、


「レントも規格外なの? 毒とか効いてなかったよね?」


 と、予想もしなかったことを聞いてくる。

 これに俺は詰まりつつ、


「いや、あの、俺は……大したことないよ」


 と言ったところ、


「毒の効かない人とか、もっと強い人がいっぱいいるんだ……やっぱり都会ってすごいところなんだね」


 とファーリが目を輝かせて言った。

 ……違う。

 少なくとも毒はみんな都会でも普通に効くから。

 俺の場合はちょっとあれなだけだから。

 そう叫びたかったが、どうあれなのかを説明するのが難しく、咄嗟に言葉が出なかった。


 ……この誤解は、俺たちがここにいるうちに少しずつ解いていかなければ……。

 都市マルトを、とてつもない化け物ばかりが住む都市と理解しつつある幼馴染二人の認識を、どうにかすることを、村に滞在する間の目的の一つに決めた俺だった。


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新作 「 《背教者》と認定され、実家を追放された貴族の少年は辺境の地で、スキル《聖王》の使い方に気づき、成り上がる。 」 を投稿しました。 ブクマ・評価・感想などお待ちしておりますので、どうぞよろしくお願いします!
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