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第11章 山奥の村ハトハラー
第212話 山奥の村ハトハラーと採取

「本当に? でも、冒険者は大変だって聞くわ」


 ロレーヌの言葉に、リリが少し身を乗り出して言う。

 冒険者に興味があるらしい、とそれでわかる。

 先達として、あんまり適当な回答は出来ないなと考え、ロレーヌは真面目に言う。


「確かに大変だ。それは魔物のことだけじゃない。幅広い知識と、経験、それに強い精神力が求められる仕事だからだ」


 そこで言葉を一旦止め、リリとファーリの顔を見てみるも、少し内容が抽象的すぎたのかピンと来ていない表情をしていたので、ロレーヌはさらに続ける。


「……たとえば、薬草の素材などの植物採取の依頼があったとする。若い冒険者はなぜかこれを非常に簡単な依頼だと考える傾向がある。けれど現実は違う」


「どうしてですか? 生えている場所さえわかれば、魔物と戦わないで済むように思えるのですが」


 ファーリがそう言ったので、ロレーヌはその返答に一定の理を認めつつも首を振った。


「それはその通りだ。しかし、それが難しい理由だ。まず、生えている場所、それはその植物の性質について良く知らなければ分からない。そうでなければ森の中を一日探して一株も見つけられない、なんてことも普通に起こりうる。何も知らない新人は、大概そういう事態に陥りやすい。そもそも依頼を受けた時点で間違っている場合すらある。植物は季節によって生えているかどうか変わってくるからな。本来とれるはずのない季節にそういう依頼が掲示されることもある。知らずに受けると、あとで違約金をとられることもある」


 どうしてそういう依頼が掲示されることがあるかと言うと、色々と理由はある。

 まず、悪辣なものとして、あえてそういう依頼を出して、何も知らない新人から違約金をせしめようとしている場合がある。

 マルトの冒険者組合ギルドはそのあたりしっかりしているというか、良心的なので、そう言った依頼が来た時点で弾いてくれるが、一般的な冒険者組合ギルドは依頼内容の吟味などあまりしないで、冒険者の方で判断しろ、というやり方が多いから、その辺の目を鍛えないととんでもない目にあうわけだ。

 ただ、そんなマルトでも季節外れの植物採集依頼が掲示されることもないわけではない。

 それは、何らかの理由で、季節外れであってもどうにかその植物が欲しい、というときに、通常の場合と比べてかなり割り増しされた報酬を提示した上で、持ってきてくれ、というタイプの依頼だ。

 これについてはマルトでも特に弾かれることなく掲示されることがあり、依頼票をよく読んだり、職員にしっかりと話を聞けばそういう依頼だと分かる仕組みになっている。

 けれど、新人はこういう依頼を、単純に何だか簡単な植物採集なのに妙に報酬が高いラッキー依頼だ、とか考えて受けてしまうことがある。

 その結末は、やはり違約金だ。

 こういうことをなくすために、冒険者には知識が必要なのだった。


 ロレーヌは続ける。


「それに、そういう懸念がすべて払拭されたとして、運よく植物を見つけられても、それだけではダメだ」


「見つけたなら、掘り返して持って来るだけじゃないの?」


 ロレーヌの言葉に至極当たり前の返答をするリリ。

 しかしロレーヌは首を振った。


「必ずしもそうとは言えない。植物は良くも悪くも生き物だ。処理を間違えると持って帰ったところで引き取れない、と言われてしまうことが少なくない。そうなると、せっかく一日頑張ったのに銅貨一枚にもならなかった、なんて事態にもなりかねない」


「あぁ、どんな用途に使うかによって、採取の方法が変わって来るからですね」


 ロレーヌの言葉に、リリの方はよくわからなそうだったが、ファーリの方は流石に薬師に学んでるらしく、ピンと来たようだ。

 ロレーヌは頷く。


「その通りだ。たとえば、株ごと持ってきてほしい、という場合には根からしっかりと採取しなければならない。周りの土ごと掘り返し、布で包んで……と言った作業が必要になる。そうではなく、葉だけを新鮮な状態で何枚、といった場合には、全体を掘り返して持っていくとその最中に萎れてしまうものもある。正しいやり方で、葉だけをとらないと意味がない場合がな。他にも枝の切り方とか、実の取り方、花の咲く時間帯などなど、植物採集一つとっても覚えることがたくさんあるのだ」


 こういったことは、ロレーヌもレントに学んだ。

 ロレーヌは本でそういう知識は多く持っていたが、実践に欠ける部分が少なくなく、レントと森を歩いて教えてもらったのだ。

 それが今でも生きていて、学者の仕事にも相当に役立っている。

 そして、レントもまた、おそらくファーリの学ぶ薬師に教わっているからそういうことを分かっていたわけで、そうなるとファーリの師である薬師は、さかのぼればロレーヌの師でもあると言うことになる。

 ……あとで挨拶しなければ。

 ふとそう思った。


「ま、そんなわけでだ。魔物以外にも冒険者には大変なことが色々ある。そして、一番の危険が、こいつのようなのなわけだ」


 ロレーヌはそう言って、うしろにぼんやりと控える骨巨人ジャイアントスケルトンを指さした。

 がらんどうの瞳には何も映ってはいないが、そこにあるだけで恐ろしいほどの威圧感を与えてくる。

 これの本物が目の前に本当に存在したら、そして力の赴くままに暴れ出したらどれだけ危険なのか。

 そう思ってしまうほど、恐ろしげな存在だった。


「……こんなものと、レントは毎日戦っているのよね……」


 リリが、尊敬と畏怖のこもった様な声色で、そう呟いた。

 ロレーヌはそんなリリの言葉に、いや、毎日は戦ってないぞ、と言いかけたが、ここはレントの名誉のために違う返答をすべきだろうと思い直し、言う。


「ああ。そうだ。そしてすべてに勝って来た。あいつは凄い奴だ」


 ここにレントがいれば、間違いなく、いやいやいや、嘘つくなって、毎日なんて無理に決まってるだろ、と絶叫しただろうが、幸いここにレントはいない。

 好き放題言って構わない……というわけでもないだろうが、これくらいのことは言っても許される。

 そもそも、今のレントならたぶん、やろうと思えば骨巨人ジャイアントスケルトンくらい、毎日戦ってもなんとか出来るだろう。

 タラスクを普通に狩って来れるような実力になっているわけだし。

 ロレーヌはそう思って、次の魔物の幻影を呼び出すことにした。


「他にも、レントはこんな魔物と戦っている……」


 そして、ふっと骨巨人ジャイアントスケルトンの威容が消え、代わりにタラスクの巨体がその場に出現する。


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