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第11章 山奥の村ハトハラー
第209話 山奥の村ハトハラーと来客

「あっ、レントいますか……って、誰?」


「レン兄は……えっと、どちら様で……」


 扉を開けると同時に、二人の少女の声がそう言った。

 片方は意志の強そうなはっきりとした声で、もう片方は甘えるような柔らかな声だった。

 ……若い娘にしか出せない声だな、と思ったロレーヌ。

 そして、その二人の少女は、ロレーヌの顔を見ると同時に、言葉を止める。

 扉の向こうにいるのが、レントでもレントの家族でもない、と気づいたからだ。

 ロレーヌもロレーヌで一体誰なのかよくわからないため、何と言っていいのか分からず、口を開きかねた。


 一瞬の気まずい時間が流れるが、ロレーヌの方がはるかに大人で、体勢を立て直すのも早かった。


「……すまない。レントも村長ご夫妻も今は不在だ。私は留守を任されたロレーヌと言う者で、レントの……そう、友人だな」


 当たり障りなくそう答えた。

 言葉遣いはどうしたものか、と思ったが少女たちの方がフランクな様子なのでいつも通りにすることにする。

 二人の少女は、


「レントの友人? あぁ、確か都会に学者の友達がいるって前に聞いたような……え、女の人なの!?」


 二人の少女のうち、茶色の髪を二つに結んだ、少しきつい目つきをした少女の方が目を見開いてそう言う。

 その言葉に、もう一人の少女、青みがかった黒髪を耳にかかるくらいのショートカットにしている、垂れ目気味の少女の方が、


「……そう言えば、特に男か女かは言ってなかったね……。それにしても、うわぁ、リリちゃん。すごい美人さんだよ。都会にはこんな人がいっぱいいるんだねぇ」


 とおっとりした様子で言った。

 

「ファーリ! あんた、よくそんなのんびりしてられるわね! さっきおばさんにちらっと話を聞いたところによると、レントはこの人と一緒に住んでるってことよ! いくらあのレントでも、この魅力には……」


「抗えなさそうだねぇ。わたしもちょっといろいろ触りたい……」


 ファーリ、と言われた少女の方が、ふらふらとロレーヌに手を伸ばす。

 若干胸元に伸びている気がして、どうしたものか、と思うロレーヌ。

 なんだか気の抜ける二人組だった。

 しかしとりあえず名前をしっかり確認せねばと、ロレーヌは口を開く。


「……あー、お二人はレントの友人、ということで構わないかな?」


 その言葉に、目つきの鋭い方が、


「ええ、そうよ。私がリリ。で、こっちの眠たそうな方が……」


「ファーリです。よろしくお願いしますね」


 そう言った。

 ロレーヌはそれに、

 

「リリとファーリだな。こちらこそよろしく頼む……それで、とりあえず中に、と言いたいところだが、ここは私の家ではないのでな。留守を任されている以上、勝手に人を入れるわけにはいかないんだ。レントたちに用があるというのなら、そのうち帰ってくるだろうから、そのときにまた改めて尋ねてはもらえないだろうか」


 と、義務に基づいた台詞を言った。

 もちろん、レントの知り合いで、別に家に入れても十中八九問題ないのだろうが、しかし任された以上はそんなことは勝手には出来ない。

 それにリリは、


「……うーん、そうね。村だと別に誰が誰の家に入っても気にしないけど……都会だとそうじゃないのよね」


 と言う。

 ロレーヌはそれに、


「まぁ、そうだ。向こうには結構、泥棒がいるからな。街中を歩いているだけでも日に一度はスリにぶつかるくらいだ」


「えぇっ。危な過ぎよ。ファーリなら一日で無一文ね」


 リリが笑ってファーリを見ると、


「私だって注意すれば大丈夫だよ……たぶん」


 と全然大丈夫ではなさそうに、口をとがらせて言う。

 それから、リリは、


「都会かぁ……村から出たことないからなぁ。どんなところか気になる。ファーリは?」


 そうファーリに尋ねる。

 ファーリはそれに頷いて答えた。


「私も気になるよ。たまに村の外に出た人たちがお土産とか持ってきてくれるけど、それくらいだもん」


 そんなファーリの台詞にリリは深く頷き、それからロレーヌの方に向き直って、


「そうよね……ねぇ、ロレーヌさん」


 そう言ったので、ロレーヌは首を傾げて、


「……なんだ?」


 そう尋ねた。 

 するとリリは、


「レントたちが留守なのは分かったわ。そもそもおばさんたちがいないのは知ってて来たし。さっきおばさんと会って、少し話したらレントがいるって聞いたから来たの。だからそれはいいんだけど……少し、貴女ともお話ししたいの。私たち、村からほとんど出たことないから、都会のことが聞きたくて……」


 そう言ってくる。

 都会、というのはマルトの事か。

 ……都会か?

 と更に都会であるレルムッド帝国に住んでいたロレーヌは思うが、確かに村と比べるとそうであるのは間違いない。

 ロレーヌがレントからいくら田舎だと聞かされても、ここまで田舎だとは思っていなかったのと同様に、彼女たちも感覚的に掴めていないところは大きいのだろう。

 

「話すのは構わないが……家に入れるわけには行かんぞ? 頭が固いと思われるかもしれんが……性分でな」


 大体においてズボラな性格をしているロレーヌだが、拘るところには徹底的に拘るタイプの人間でもある。

 たとえば学問については几帳面としか言いようがないレベルであるし、今回のこういう基本的な常識は尊重したいと考える方だ。

 ただ、間違いなく他人からは融通が利かない、と言われそうな感じでもあるとも自覚しているのでこんな言い方になった。

 特に村だとな……鍵なんかほぼなく、誰が入ってもさほど気にしないという感覚だと、拘りすぎ、ということになりそうだ。

 しかし、リリは、


「それも分かってるわ。だから、ここで話してくれればいいわよ。ほら、ここに座るところもあるし」


 と言って、軒先辺りにある丸太で作られた椅子を指す。

 十個ほど並べてあり、なるほど、外で何か作業するときに座れるように置いてあるのかな、と思う。

 確かに、家の中に入れるならともかく、外で話すくらいなら問題ないだろう。

 あとはロレーヌ自身がリリたちと話したいかどうかだが、これについては答えは簡単に出る。


「うむ、いいだろう。私もこの村の生活なんかは聞いてみたいと思っていた。レントはあまり村での暮らしについて話さないのでな……」


「そうなんですか? レン兄は帰ってくると反対に都会でのこととか話してくれませんよ……」


 ファーリが目を見開いてそう言う。

 ロレーヌには、レントがなぜ、マルトでのことをここで話さないのかはすぐに理由が分かる。

 十年かけてずっと銅級だったからだ。

 ロレーヌはそれが悪いとは思わないし、十年間、命を失うこともなく、また大けがを負うこともなく冒険者としてやってこれたこと自体、素晴らしい功績だと思うが、レントからすると故郷で胸を張れるような成績ではないと言うことだろう。

 その気持ちも理解できる。

 リリたちと会話するにしても、その辺りについてはよくよく考えて話さなければな……。

 ロレーヌはそう思って、丸太の椅子に腰かけ、リリたちと向かい合った。


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