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第11章 山奥の村ハトハラー
第208話 山奥の村ハトハラーと地雷

「お前の義理の……では実の両親は?」


 聞きにくいことを素直に聞いてくるロレーヌ。

 しかし別に気遣いがないわけではない。

 というのも、ロレーヌの口調は実にあっさりとしているからだ。

 ここで俺が、話したくない、と言っても、そうか、と言って別の話題を始めるだろう。

 つまり、聞くには聞くが、話すかどうかは自由にしてくれと態度で示しているという訳だ。

 俺としては、別に絶対話したくないという訳ではないので、普通に言う。


「……死んだよ。だいぶ昔にな。俺が五つのときだ」


 単純な事実で、口にしてももうそれほど心は痛まない。

 ただ、それでも悲しいものは悲しいな。

 顔も覚えているし、一緒に生活した記憶もしっかり残っている。

 いい人たちだった。

 出来れば今も生きていてほしかった。

 けれど、仕方がない。


「そうか……病か何かで?」


「魔物に襲われたんだ。良くある話だろ?」


 軽く言ったつもりだったが、思いのほか、声が震えていたような気がする。

 不死者アンデッドになって、涙腺なんてもう意味をなさない器官になっているんじゃないかと疑っていたが、そういうわけでもないようだ。

 まぁ、鏡で目を見ればいつも普通にうるんでるわけだし、意味がないわけもないか。

 しかし、このままだとやばそうだな……。


「お前が冒険者を目指す理由は……そういうことか」


「まぁ、そういうことかな。で、今の親父や母さんたちはそんなこと言い出す俺に随分協力してくれたんだよ……悪い、ロレーヌ。俺もちょっと出てくる。少しこの家で待っててくれないか? 他人の家で落ち着かないだろうけどさ」


「ん? あぁ、私は構わないが、いいのか。それこそ他人に留守など任せて」


「ロレーヌなら他の誰より信用できるよ。じゃあな」


 そう言って、俺は家を出た。

 よくないことだ、とは分かっているが……あれ以上あそこにいたら涙がこぼれそうでなぁ……。

 そんな風になったら、ロレーヌが気に病むだろう。

 この十年、ロレーヌの前で泣いたことなんて……いや、あったかもしれないけど、その辺りは男のちっぽけなプライドとかその辺りの問題なのだ。

 少し、村を歩き回って目の周りを乾かしてから、戻ろう。

 あまり長く待たせるのも悪いからな……。

 そう思って、俺は歩き出した。


 ◇◆◇◆◇


 ――全力で地雷を踏み抜いてしまった気がする。


 ロレーヌは一人残された村長宅で心の奥底からそう思い、椅子に深く体を沈めた。

 

 レントの両親に対する発言にしても、レントに対するそれにしても、踏み込み過ぎたなと思う。

 これが単純な里帰りなら何にも触れず、当たり障りのない会話をしておけばよかったかもしれないが、今回はそういうわけにはいかない。

 レントのことを、そのルーツから知りたい、という気持ちが心のどこかにあって、その意識が強く働きすぎたのかもしれない。

 ……いや、レントのルーツを知りたい、というのはそういう、研究者気分と言うよりかは、単純にロレーヌ自身の気持ちが大きい、と思う。

 十年、気楽な友人付き合いをしてきて、それこそ当たり障りのない、着かず離れずの関係をやって来た。

 それは心地いいもので、故郷レルムッドにいたころには味わえなかったものである。

 もちろん、故郷に一人の友人もいない、というわけではないが、それでも向こうではそれなりの立場があるロレーヌである。

 ここまで自然な友人関係を築くことはそうそう出来なかった。

 だからこそ、思い入れが強くて……どこか、依存してしまっているようなところがあるのだろう。

 寄りかかっているつもりはないが、その存在がなければ、どうしようもなく心細くなってしまうような……そんな相手が、レントなのだとロレーヌは自覚していた。

 そしてその感情に名前を付けるならなんというのかも、なんとなく分かっている。

 

 が、今はそれは置いておこう。

 考えすぎるとまずいということをロレーヌはよくわかっていた。

 

 それにしても、先ほど聞いた色々なことを思い出す。

 レントの両親が村長夫妻、というだけでも驚いたが、それに加えて義理の両親だったとは。

 村で孤児が発生した場合、村長が引き取ると言うのは他の村でも比較的行われている、それこそありがちなことで、それほど驚くことではないが、レントがそうだったと言われると……。

 納得する部分と、意外だという部分の両方がある。

 意外だと思うのは、レントの性格だろうか。

 良くも悪くもどこかちゃらんぽらんというか、色々気にしない性格だ。

 ああいうのは、物心ついた時からのびのび育たないと出来上がらない。

 両親がいなくなり、その上、他人の家に引き取られることになった子供は、もっと窮屈な性格になることが多いのだ。

 それなのに、あんな風になったということは、引き取った村長夫妻がいい親だったからだろう、と思う。

 納得する部分は、レントの田舎の村出身にしては妙に優秀すぎるところだろうか。

 字も書けるし調剤も出来、武術も身に付けていてその他も妙に器用だ。

 そういうのは、村長の義理の息子として、それなりに色々叩き込まれたからだ、と考えればある程度は納得がいく。

 ただ、それでも少し優秀すぎるところもあるが……その辺りは冒険者になる、という意識のもと色々と努力したからだろう。

 なぜ、冒険者になりたかったのか。

 親が魔物に殺されたため。

 だから、その復讐のため?

 いや、違うだろう。

 レントは……レントなら、復讐のためと言うよりは、そういうことを減らすために冒険者を目指したのではないか、と思う。

 そこまで聞けずに終わってしまったけれど、レントのマルトでの活動を見る限り、それが正しいように思う。

 新人たちの死亡率を下げるためにいろいろやったりしていたのも、その一環だと……。

 まぁ、その辺りはレントが戻ってきてから、あらためて聞けばいいか。

 問題は、どううまく聞くかだが……。


 なにせ、また地雷を踏むようなことにはなりたくない。

 そこであからさまに怒ったり何か罵ってくれればまだいい。

 本人がまったく気にしていない風を装うのが余計につらい。

 

「どうしたものか……」


 口からぽつり、とそんな言葉が出たその時、


 ――コンコン。


 と、家の扉がノックされた。

 誰か来客らしい。

 それはいいのだが、ロレーヌはこの村長宅の住人ではない。

 いきなり出て、大丈夫なのか。

 このまま居留守を使った方が良いのか……。


 いや、先ほど村の中を歩いてきたのだし、全員ではないがロレーヌがこの村に来たことは知られているだろう。

 そこまで警戒はされないはず……。

 そもそも、いるのにいないというのは基本的に避けなければならないだろう。


 そう思って、ロレーヌは立ち上がって扉の方に向かう。


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