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第11章 山奥の村ハトハラー
第207話 山奥の村ハトハラーと親

 扉を叩くと、ゆっくりと開き、そこから一人の中年女性の顔が覗く。

 久々に見る顔だ。

 年齢は重ねているが、ほっそりとして美しい。

 その目が俺を見て、驚いたように見開かれ、そして少しずつ涙がたまっていき……。


「レント……良く帰って来たわね。心配したのよ。冒険者組合ギルドから行方不明だって聞いてたから」


 そう言った。

 冒険者組合ギルドは行方不明の冒険者についてその故郷に積極的に連絡してくれるような親切かつ気の利いた団体ではないが、おそらくは冒険者組合長ギルドマスターウルフの計らいだったのだろう。

 まぁ、俺が生きていることはすでに確認されているが、生存の連絡はまだだったということだ。

 飛行生物を使った連絡方法もあるが、こんなど田舎に送るようなものじゃないし、そうなると馬車で送るしかない。

 おそらく、今回俺たちが乗って来た馬車の中にそういう手紙もあったはずだ。

 物資の入った箱がいくつかあったし、あとで運び入れるのだろう。

 

「その辺りは色々と立て込んでるんだけど、こうしてピンピンしてる。父さんは?」


「あぁ、あの人も中にいるわ。入って……あら? そちらの方は?」


「ロレーヌだ。マルトで仲良くさせてもらってる学者だよ……」


 俺がそう言うと、ロレーヌは色々と言いたいことがありそうな顔つきだが、とりあえず触れずに、


「ロレーヌ・ヴィヴィエです。レントの言った通り、マルトで学者と冒険者、それに錬金術も趣味でしております。どうぞよろしくおねがいします……それで、貴女は……?」


 と俺を村長宅で出迎えた女性に尋ねた。

 女性は言う。


「ああ、ご挨拶が遅れました。私はジルダ・ファイナ。この村の村長、インゴ・ファイナの妻です。どうぞよろしくお願いします」


「……ファイナ? おい、まさかレントお前……」


 驚いた顔をしているロレーヌに、俺は、


「そうだよ。この人は俺の母親だ。村長はオヤジな。で、前に言ってた薬師の婆さんは……祖母の妹だ」


 そう言った。


 ◇◆◇◆◇


「まさか、レントが女性を連れて村に帰ってくるとは意外だったが……いや、これは嬉しいことだな」


 家の中に入ると、村長インゴがテーブルについていたので、俺とロレーヌ、それにジルダも共に座った。

 お互いに自己紹介をし、それからは雑談をしている。

 と言っても、基本的に俺がマルトでどんなことをしたのかを俺やロレーヌが話しているだけだ。

 あとは、インゴとジルダが村での出来事を色々話している、と言う感じである。

 それで、徐々に村人たちの結婚の話に移り、聞けば小さなころ、俺が面倒を見ていたような連中は、大半が結婚してしまったようで、すでに子供がいる者も少なくないようだ。

 確かに一年以上前にここに帰って来た時、なんだか仲良さげな奴らが増えてきているな、と思った覚えがある。

 なるほどあれは恋の季節だったわけだ。

 俺と同い年くらいの奴らは俺が村を出て、二、三年後にはすでに結婚してる奴ばかりだったからな。

 そんな奴らの子供がかつての俺のように村を走り回っている姿を見ると、俺がいかに人生の舵をおかしな方向に切ってしまっているかまざまざと見せつけられているようで少しだけ寂しい気持ちになった。

 それ以上に嬉しい気持ちが大きいけどな。

 村のみんなが元気に幸せにやっていてくれてさ。


 ただ、そんな話になった時点で、ロレーヌを見るインゴとジルダの目がちょっと変わってきて……。


「そうねぇ、レントと言ったら、誰に言い寄られても訓練ばかりしているのだもの。いつまで経っても結婚できないんじゃないかと心配だったの。でも、ねぇ。村の外にこんなに綺麗な知り合いがいるなら……ねぇ」


 ジルダがそう言った。

 何を言いたいのかは、いくら俺が朴念仁でも分かる。

 ロレーヌさんが貴方のお嫁さんなのね、と言いたいのだ。

 しかし、この辺りが女性の話術巧みなところで、決してはっきりとは言わない。

 匂わせるだけなので、否定も肯定もしがたい。

 否定とか肯定で答えられるような聞き方をしてこないのだ。

 ……まぁ、ある意味、気遣いなのかもしれないが、針の筵のような気分でもある。

 けれど、そんな俺とは異なり、ロレーヌの方は全く緊張しておらず、むしろ鷹揚として、


「マルトではレントは女性の知り合いが非常に多いですよ。リナに、シェイラ、私に、あとリリアン、アリゼに……」


 おい、ちょっと待て。

 言い方に悪意を感じる。

 名前だけ並べ立てるとみんな、妙齢の美女のような印象を与えるが、リナはほとんど妹のような年齢だし、リリアンは遥か年上の神官だ。それにアリゼなんて子供過ぎる。

 シェイラは……まぁ、そういう意味では適齢期にある女性だが、知り合いなのは仕事で付き合いがあるからだろう。

 色々事情も共有してはいるが、基本的にはそれだけ……のはずだ。

 ロレーヌについては、改めてそう言う意味で考えると一緒に住んでいるので色々言い訳がつかないが、それは村人目線で見るとの話だ。

 マルトで冒険者と言ったら男女でもパーティメンバーなら同じ家に住んだりすることはそんなに珍しくはないのだから、問題はないのだ。

 ……たぶん。


 しかし、そういうことを言おうにも、ロレーヌとインゴ、それにジルダの会話には俺が口をさしはさむ暇はなかった。


「あらあら、そんなに女性の知り合いが……だったら、私たちの心配は杞憂だったのね。だって、レントはもしかしたらずっと結婚しないんじゃないかと思ってたから」


「そうなのですか? しかしこいつがいくらそういう方面では朴念仁と言っても、向こうから寄ってくるということもあるでしょう。それを強硬に拒めるタイプにも思えないのですが……」


「よくわかっているのね? その通りよ。でも……レントにそこまでする人はこの村にはいなかったから」


「……それは……?」


 首を傾げたロレーヌだが、その質問を遮る様に、


「あぁ、そうだ。レントも帰ってきたことだし、今日は歓迎の宴を開こうと思う。準備しておいてくれるか、ジルダ」


「はい、分かりました。あなた。じゃあ、二人とも、今日は楽しんでね。今から私は村の皆に声をかけてくるから」


 ジルダはそう言って、そそくさと家を出る。

 インゴもまた、


「私も行って来よう。小さな村と言ってもそれなりに住人はいるからな。ジルダ一人だけとなると大変だ」


 同様に言って、家を出ていった。

 そんな二人の後姿を見て、ロレーヌが、


「……おい、レント」


 とつぶやく。

 俺は、


「なんだ?」


「私は何かまずいことを言ったのか?」


 ロレーヌがそう尋ねてきたので、俺は首を振って答えた。


「いや、全く。問題は俺さ。あの二人は気を遣ってくれてるんだよな……」


「どういう意味だ?」


「簡単な話さ。インゴもジルダも、俺の本当の親じゃない。義理の親だってことだ」


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