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第11章 山奥の村ハトハラー
第206話 山奥の村ハトハラーと幼馴染

 木の柵の間に作られた、粗末な門に近づくと、そこには見張りをしている若者二人が立っていた。

 二人は俺を見ると、


「……止まれ。ハトハラーに何の用だ?」


 と片方が言って来た。

 何の用も何も……。


「……里帰りだよ。ジャルにドル。俺の顔に見覚えはないのか?」


 そう言って、笑いかけた。

 と言っても、仮面のせいで顔の下半分は隠れているので、目を細めたくらいだけど。

 

 すると、二人の若者――細身の方がジャル、背が小さい方がドルだ――は目を見開いて、


「え、レント!? レントなのか!?」


 と叫ぶ。

 

「そうだって。見れば分かるだろ?」

 

 そう言うと、ジャルが、


「……いや、前に帰って来た時はもっと普通の剣士っぽかったろ。なんだそのローブと仮面」


 と眉を顰めて尋ねてきたので、俺は、


「色々あったんだよ。ともかく、中に入れてくれ」


 と適当に流した。

 ドルは、


「……別にいいけど、ん? そういや、そっちの人は……」


 と、やっとロレーヌに気づいたようで、じろじろと見る。

 見られたロレーヌの方は堂々と立っており、ジャルとドルに、


「私はこいつと同じ冒険者で、ロレーヌだ。マルトで学者もしている。よろしく頼む」


 と言って握手をした。

 二人とも何とも言えない、面食らった顔でぶらぶら握手していたが、その直後、俺を端の方に引っ張っていって、耳元で囁く様な叫び声と言う器用な声色で、


「お、おい! なんだあの美人は! お前……まさか、あれは嫁か!? 嫁なのか!?」


 ジャルがまずそう言い、続けてドルが、


「婚約の報告なの? だから帰って来たのかな!? こりゃ、大変だ。村長様に、村長様に伝えないと!」


 と言って、村の中に走っていった。


「お、おい! 待て! 違うぞ!」


 そう叫んだが、時すでに遅しだ。

 田舎者らしく恐ろしいほどの健脚である。

 一瞬で姿が見えなくなってしまった。

 ジャルはまだ残っているが……。


「いやはや、村でも知られた朴念仁が、まさか嫁を連れて帰ってくるとは……リリやファーリが悲しむな。お陰で俺たちにはチャンスが生まれたが」


 とつぶやく。

 リリやファーリと言うのは村でも評判の美人の名前だ。

 幼馴染だな。

 といっても、七つほど下なので俺としては妹気分だが。

 都会ではそうでもないが、村だと流石にそろそろ嫁き遅れ扱いされ始める年齢なので、少し心配していた。

 美人だし気立てもいいので結婚しようと思えばすぐに出来そうだけど。

 それにしても。あいつらが一体……。


「チャンスって……なんだよ」


 俺がそう尋ねると、ジャルは呆れた顔で、


「お前……あの二人は昔からお前のことが好きだったんだぞ。幾度となくアプローチしてただろうが。それをお前は……」


「え……冗談だろ? いつそんなことされたんだよ」


「聖アルトの祝祭日には毎年ハチミツ菓子もらってたろ? 《名もなき祭り》の日はいつも湖に誘われてたろ?」

 

 どちらも恋人のためのイベントとして有名だ。

 前者は世界的に、後者はこの村限定のものだが、流石に俺も常識として知っている。

 聖アルトの祝祭日はあれだな。好きな相手にハチミツ菓子を渡す、というもので、一年のうち珍しく女性の方から告白してもはしたないとはされない日である。

 後者の祭りの方は、ハトハラーで昔から行われてきた祭りで、その名前すら分からなくなってしまっているというものだが、伝わっている物語がある。

 その物語に沿って、好きな相手と湖に行くと恋愛成就が……という分かりやすい話があるのだ。

 確かに両方とももらったり誘われたりしていた。

 しかしなぁ。

 俺は十五になる少し前に村を出ているわけで、アプローチと言われても七、八歳の子供にどうこう言われてどう受け取れと言うのだ。

 まぁ、たまに帰って来た時に美人になってて驚いたり、そのときも似たようなことをされた覚えがあるが、それでも俺にとってはかわいい妹感覚なんだぞ。

 それに加えて、だ。


「……二人とも相手がいないからとりあえず雰囲気だけ味わうために妥協しておくって言ってたぞ」


 つまり、そういうことだからジャルの想像は間違っていると思う。

 そもそもいくらなんでも年が下過ぎてな。

 そこのあたりに偏見はないつもりだが、赤ん坊の頃から見てればもう、異性としてどうこうという感じにはならない。

 しかしジャルは、


「……お前、額面通り受け取る奴がどの世界にいるんだよ……まぁ、いい。何にせよ、お前が嫁を連れてやってきた。話はそこで終了だ。俺たち村の男にもリリとファーリを狙えるってわけだ」


 ……まぁ、本当にしろ冗談にしろ、好きにすればいいと言う感じではある。

 そもそも嫁じゃねぇってのと言っても伝わりそうもない。


「なんだか面白い話をしているのか?」


「うわっ」


 後ろからにゅっとロレーヌが現れて、俺たちにそう言った。

 彼女の言葉に驚いたのはジャルである。

 俺は近づいてきた時点で気配でわかる。

 気配を消してこられたらあれだが、そうじゃない限りは問題なく分かる。

 俺はロレーヌに言う。


「別にそんなでもないぞ……ともかく、村の中に入ろう。挨拶したい人たちがいるからな」


 すると、ロレーヌは、


「ああ、そうだな……ジャル殿、と言ったか」


「あ、ああ、なんだ?」


「レントはともかく、私も村に入ってもよろしいか?」


 別に確認せずとも俺がついている時点で問題ないのだが、しっかり尋ねるのがロレーヌだろう。

 彼女の言葉にジャルは頷いて、


「あぁ、問題ないぜ。レントの……だしな」


「……? まぁ、問題ないなら良かった。レント、行くぞ」


 ロレーヌがそう言ったので、俺は頷き、


「じゃあ、ジャル。俺たちは行くぞ。また後でな」


 ジャルにそう言って手を振り、二人で村の中に進んでいく。


「さっそく尻に敷かれているのか……都会の女はおっかねぇな……」


 後ろからそんなつぶやきが聞こえた気がするが、気のせいだろう。


 あまり村の外から人間が来ることのない村であるハトハラーだ。

 ロレーヌにどんな反応があるのかと思って少し心配だったが、村の中を歩いている中で出遭った村人たちは概ね、好意的な感情を向けてくれたので良かった。

 ……ほぼ全員がジャルとドルと似たような反応……つまりは「嫁か、嫁なのか」状態だったが、それはご愛嬌という奴だろう。

 幸い、ジャル達と違って他の村人たちは比較的分別があり、違うと言うと分かってくれた。

 妙ににまにました表情だったのは、別に何か意図があるわけではないだろう……と信じたいところだ。

 

「村の産業は……農耕と狩猟か?」


 ロレーヌが村を歩きながら尋ねる。

 俺はそれに頷いて答える。


「ああ。概ねそうだな。ただ、農耕の方は麦や野菜だけじゃなくて、薬草園もやってるからそれが少し変わっているかもしれない」


「薬草園か……そのまま出荷を?」


「いや、薬師の婆さんがいるって話したろ? 加工して行商人に売ってるんだ。効果が高いからそれなりの値段で売れるみたいでな。お陰でこんなど田舎でも暮らしは決してまずしくないのさ。魔物もたまに狩るから、魔石なんかも売れるし」


「……お前が冒険者の仕事に初めから妙にこなれていたのはこの村の生活がまさに冒険者っぽいから、というわけか」


「まぁ、そうだな。魔物の解体とかは、良く手伝うし、森の歩き方とかも自然に身に付いた……おっと、あれが村長の家だぞ」


 顔をあげると、そこには村の他の家々よりも一回り大きな家屋が立っていた。

 そこを、俺たちは目指していたのだ。

 こういう村に来たら、まずは村長に挨拶、というのが基本だからな。

 まぁ、それだけが理由じゃないというか、それは建前のようなものだが……。

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