それからしばらく森の方を見つめていると……。
「……人と言うより、人の成れの果てだったか」
とロレーヌが同情的な声色でつぶやく。
俺はそれに、
「数十年前と言っても、
「ああ」
――
そう言った。
◇◆◇◆◇
俺とロレーヌの視線の先には、ぼろぼろの服と竹槍やクワなどを持った、腐肉を臭わせるよろよろとした人型がある。
あれこそが
俺と異なるのは、俺は一応、
ただ、その代わりなのか、
もちろん、そうは言っても普通の人間にとってはかなりの脅威だが。
生きているときは体に過大な負荷をかけないように、構造的に人間の体は全力を出せないようになっているらしいが、彼ら
体の可動域も広がっていて、その気になれば首はぐるんぐるん回るし、腕も足も関節など存在しないとでも言いたげにおかしな方向に稼働したりする。
そのため、意外と冒険者にも嫌がられる面倒な相手でもある。
一番会いたくない理由は、その臭いと不潔さだが……。
彼らは病を媒介することも多いからな。
周囲を適当に歩き回っているくらいならともかく、こっちに近づけるわけにはいかない。
さっさと倒すべきだ。
俺もロレーヌもすぐにそう結論した。
問題はどう倒すかだが、これについては俺がロレーヌに、
「……魔術かな」
とぼそりと言えば、その意図を即座に汲んで、
「ま、そうだろうな。お前がやれば確実に汚れるだろう。ここは私の出番だ」
そう言って懐から
近付きながら無造作に
無詠唱魔術だ。
比較的低級の魔術であるが、それでもあそこまで何でもないように無詠唱魔術を行ってしまえることがロレーヌの実力を示している。
俺も使えはするけど、二、三の生活魔術を十年使い続けて身に着けたにすぎないわけだから、たいしたものじゃないんだよな。
なにせ、ほとんど制御が必要ないから。
ロレーヌの使った魔術はそうではないし、風を吹かせた意味を考えるとしばらく維持していなければならないから難しいはずである。
そして、
生者の光につられてこの野営地に来たようだが、それでもあまり視力は良くないようだった。
俺の方、つまりは馬車がある辺りにはほとんど関心を見せず、近づいてきたロレーヌの方ばかりを見ている。
それでも、どこかに伏兵がいる可能性もあるから俺はここで警戒しつつ周りを見ているが、今のところ近くにはその気配はない。
ま、
あまり心配しすぎることもないだろう。
ただ、若干遠くには目の前にいる
同士打ちか、それとも他に冒険者がいるのか……。
一応、警戒しておく。
そしてとりあえず今はそれよりもロレーヌだな。
囲まれたロレーヌは、
「……うむ。このくらいでいいだろう。他にはいないな……では。“風よ吹け、火よ燃えろ。竜巻となりて周囲を焼き尽くせ《
そう詠唱した。
するとその直後、ロレーヌの周囲にいくつもの炎が灯火のように出現し、また風が吹きすさび始める。
そして風は灯火を巻き込み、火炎竜巻を作り出した。
彼らは赤い炎を上げる火炎竜巻に燃やされ、徐々に灰へと姿を変えていく。
森の近くで火の魔術を使うのは色々な意味で自殺行為に思えるが、それは未熟な魔術に限られる。
ロレーヌくらいになると、森で火の魔術を使っても、完全に制御できるために延焼させることがないので問題がないのだ。
俺がやれば間違いなく森は山火事になって終わるけどな。
恐ろしすぎて使う気にならない。
しばらくすると、
とてつもない威力を持った魔術である。
しかし、これでロレーヌは加減しているはずだ。
詠唱が適当だったし、威力を抑える詠唱も加えていたくらいだしな。
火炎竜巻が縮小し、消えると、その中心だった場所に無傷のロレーヌが立っていた。
彼女は俺の方を向いて、言う。
「レント、こっちに来てくれ」
何だろうか、と思って近づくと、そこには積み上げられた灰と、魔石が転がっていた。
あの腐肉歩き(ゾンビ)たちのものであることは明白だが、すべて吹き飛ばしたのかと思っていたらしっかりと集めていたらしい。
本当に魔術の細かい制御がうまいな……。
しかし、これでなぜロレーヌが俺を呼んだか理解できた。
ロレーヌは続ける。
「灰まで焼き尽くせば問題ないかと思ったが、集めてみると意外とダメだった。聖水を使ってもいいんだが、ここには便利にもお前がいるからな……頼めるか?」
つまり、
俺の力で浄化を、というわけだ。
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