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第9章 下級吸血鬼
第191話 下級吸血鬼と報告会

 冒険者組合(ギルド)を後にする前に、シェイラに夕食を一緒に食べないか誘っておく。

 別に本当に夕食が目的という訳ではなく、色々と事情を知る者に今日のことを話しておいた方がいいと思ったからだ。

 本当はウルフにあそこまで洗いざらい喋る予定ではなかったのだが、話してしまったものは仕方がない。

 こうなると、冒険者組合(ギルド)職員であるシェイラがいてくれたのは尚の事良かったなと思う。

 ウルフとの連絡役にもなってくれるだろうし、俺もさほどの義務は求められてはいないとはいえ、これから冒険者組合(ギルド)の職員になるわけだからな。

 先輩にもなるわけで、色々と規則なんかも聞いておきたいところだ。

 俺は冒険者組合(ギルド)の規則については冒険者に求められているものについては冒険者組合(ギルド)受付横に置いてある冊子を呼んで熟知しているが、冒険者組合(ギルド)職員としてのそれについては全然知らないからな。

 おそらくは職員用にあの冊子のようなものがあると思われ、あとで読むように言われるのだろうが、その前に基本的なことは分かっておきたかった。

 

 そう言った諸々の必要性のゆえの誘いであることをシェイラは察し、仕事を終えた後、ロレーヌの家に集まることを了承してくれたのだった。


 ◇◆◇◆◇


 ……今日もご飯がうまい。

 今、俺の前にはテーブルに並べられた沢山の料理が置いてある。

 いずれもロレーヌとシェイラの合作だ。

 血も入っているようであったが、いつもとは少し味わいが異なる。

 間違いなく今日の方がうまいが……どうしたのだろう。

 そう思って、


「……なんか、今日は味付け変えたのか?」


 と聞いてみた。

 まぁ、いつもはロレーヌ一人で作っているので、シェイラと二人で作っている以上少しは変わるだろうが……そういう感じではないのだ。 

 なんだろう、うまく言えないが……。

 すると、俺の疑問にロレーヌが答える。


「あぁ、今日の奴には私のだけではなく、シェイラの血も入っているんだ。私は無理しなくてもいいと言ったのだが、どうしてもと言うのでな……」


 なるほど、確かに深みのある味わい……。

 二人の血を混ぜたから美味いのか、それとも二人ともの血がうまいからこうなったのか。

 しかし、シェイラはいいのかな。

 血とか提供してくれて。

 気になって尋ねる。


「シェイラ、良かったのか?」


 するとシェイラは、


「気が進まない部分が全くないのかと言われるとあれですけど……レントさんは吸血鬼ヴァンパイアですし、血を飲むのが必要なのは契約したときにしっかり飲み込みましたからね。ただそれをロレーヌさんは一人で賄うのは……一月一瓶程度でいいと言う話でしたけど、流石にずっとは厳しいんじゃないかと思って、私のでも良ければと試してもらったのです」


 と言った。

 それはウルフがしていた心配でもある。

 そろそろ前にもらった血も瓶からなくなりつつあるからな。

 供給源が増えるのはとてもありがたい。

 

 ちなみに、当然だが血入りの食べ物を食べているのは俺だけである。

 ロレーヌとシェイラは普通の食事だ。


「そういうことなら、ありがたく頂こう。それで、本題だが……」


 そして、俺は冒険者組合長(ギルドマスター)ウルフと話した内容を二人に告げた。

 大まかな話で、俺の事情の大半を話したこと、理解を示してくれたこと、二重登録については冒険者組合(ギルド)職員ということで落ち着いたことなどである。

 それを聞いて、ロレーヌは、


「うむ、概ね、問題なさそうだな? あの集めてた資料は結局役に立たなかったようだが……」


 エーデルや情報屋を駆使して集めた脅迫用の資料についてはロレーヌも編集を手伝ってくれた。

 彼女の考察や推測が入ったお陰で、その内容がぐっと分かりやすくなったのも事実である。

 それなのに結局使わずに終わったのは申し訳なく、俺は言う。


「渡しちゃって悪かったな……手伝ってもらったのに」


 するとロレーヌは首を振って、


「いや、信頼が築けそうなのに脅すのもな……隠し持っていざというときに、というのが一番だっただろうが、お前はそういうことを積極的にしたいタイプでもあるまい。それでよかろう」


 と言った。

 出来ないタイプだ、と言わないのはやろうと思えば出来ることをロレーヌは分かっているからだ。

 ただ、あんまりやりたくないだけで。


「それにしても、二重登録の抜け道なんて……確かにそう言った規則があったような気もしますけど、冒険者組合長(ギルドマスター)もよくぱっと出てきたものですね。少なくとも、マルトではここ何十年も使われていない制度だと思いますよ」


 シェイラがふとそう言ったので、俺は、


「……そうなのか?」


 と首を傾げる。

 すんなり思いついたようなので、俺たち冒険者側には知らされていないだけで結構使われてるものかと思っていたのだが……。

 シェイラは言う。


「ええ。基本的に冒険者たちの意識調査や情報収集は普通に職員がやりますからね。わざわざ冒険者として働きながらそう言った情報収集を行うことは基本的にないんですよ。そんなことせずとも問題はさほど起きないですから」


 どうやらあるにはあるが、死に制度のようなものだったらしいな。

 しかし、そんなものをあんなに即座に思い浮かんだのは……。


「……最初からそこを落としどころにしようと考えてたのだろうな、あの冒険者組合長(ギルドマスター)は」


 とロレーヌが言う。


「だよなぁ……でも、そこまでする理由は……」


 俺は首を傾げるが、ロレーヌは、


「お前にずっと目をつけてたんだ。どうにか冒険者組合(ギルド)に入れる方法もまた、ずっと考えていたんだろうさ。お前を冒険者のまま、職員として雇える方策も色々と調べていたのだろう。本当に買われていたのだな、お前は……」


 と言う。

 つまり、俺が銅級冒険者だったときからそんなことも選択肢の一つとして考えていたのではないか、ということだ。

 流石にそこまでではないだろう、と思う俺だが、シェイラは、


「確かにそれくらいはやりそうな人ですね……あれで結構色々考えている人ですから。見た目で勘違いされやすいですけど、どちらかと言えば頭を使う方が得意だと聞きますよ。悪意のある人ではないんですけどね」


 と、ロレーヌの推測を補強する事実を言う。

 そうだとすると、かなりの傑物と言うか、手のひらで踊らされた感がないではないが……。

 ま、俺程度の人間を踊らせるのは簡単か。


 そう思って気にしないことにした。

 実際、悪いことは何もないからな……何かあったときは、そのとき考えればいいさ。

 油断しすぎると痛い目に遭うことは、最近深く感じているけどな……。


 ◇◆◇◆◇


 食事と説明を終えて、シェイラを自宅に送ったあと、ロレーヌ宅のリビングで寛ぐ。


「これで、二重登録は解決できたようだが、これからはどう名乗るつもりなんだ?」


「あぁ、しばらくはレント・ヴィヴィエでいいだろう。ニヴがいるうちはいきなり改名すると危険そうだからなぁ……」


 そう言った。

 ロレーヌもそれには納得のようで、


「ま、それがいいだろうな」


 と頷く。

 それから、


「しかし、二重登録にそんな解決方法があるとは意外だったな。普通に抹消とかで対応するものだと思っていた」


「あぁ、最初はそんなことも言ってたな。あとはロレーヌと結婚すれば解決だぞ、とかも言ってたが……流石にな」


 と、俺が言ったところで、ロレーヌが呑んでいたワインを吹きだした。


「……なんだそれは」


 と眉を顰めながら言うロレーヌに、俺は、


「結婚して、だからレント・ヴィヴィエになった、以前の登録は事務方のミスで抹消してなかった、で通せばすんなりだ、とか言うんだぞ? 驚くよな……ま、ともかく全部解決だ。今日のところはそろそろ休むことにしよう。明日は旅のための買い物で忙しいだろ? おやすみ」


 そろそろ、旅に必要なものを集めなければならなくなってきているので、明日、ロレーヌと一緒に買い物に行く予定なのだ。

 俺は平気だが、ロレーヌはその身が人間だからな。

 眠っておかなければ体に障るだろうと思っての言葉だった。

 

「あ、ああ……おやすみ、レント」


 ロレーヌがそう言ったのを確認し、手を上げて俺は自室に行く。

 明日は何か面白い魔道具とかあったら見たいな、と思いながら。

 ……必要なものを買いに行くだけだから、ダメか。


 ◇◆◇◆◇


「……結婚、か……」


 一人になって、ロレーヌはぽつりとつぶやく。

 また妙な響きの単語を聞いたものだと思った。

 もう結婚適齢期からはかなり時が経ってしまっているが、昔からの知り合いでこれくらいの年齢で結婚したものはいなくもない。

 レント・ヴィヴィエで結婚、ということは、婿入りと言うことだ。

 うーむ……。


「結婚、か……」


 再度呟いて、ロレーヌは目をつぶる。

 色々想像してみたが、むずがゆかった。


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