「……結局、お前は何なんだ?」
水を飲みほしたウルフは、しばらく黙り込んで考えた後、ぽつりとそう尋ねてきた。
今までの話を色々と考え、まとめ、そして絞り出した質問がそれだったのだろう。
確かに、それは今一番重要な問題である。
しかしだ。
その答えは俺も知らないのだ。
だから俺は言う。
「さぁ?」
「おい!」
ふざけてるのか、と言いたげな目つきだが、別にふざけていない。
本当に分からないのだから仕方がない。
言い方はちょっとふざけていたかもしれないけど、いいじゃないか。
ともかく、分からないものは分からない。
「……俺だって自分が何なのか、分かりたいけどさ……さっきも言ったけど、ニヴ・マリスは俺を
紛れもない本心である。
人と見わけのつかない形をしていて、栄養源として主に血を吸い、妙な再生能力があって、夜が得意で、かつ
けれど、その推測はニヴによって粉々に打ち砕かれた。
もしくは、ニヴにすら見抜くことが出来ない新種の
よくわからない
そんな気持ちで言った俺に、ウルフは、
「……ニヴ・マリスか。そうだったな……あいつは
「素材を売りにステノ商会に行ったら、ロベリア教の聖女と一緒にいたんだ。それで、なぜか
「それでよく、生きて帰ってこれたな。あいつは一度獲物に定めた
ニヴの悪名と言うか、評判は
しかし、俺はこれには首を振る。
「いや……
「……となると、この街には
俺からもたらされた情報に、ウルフは悩みだす。
そうなると、特殊な技能を持つ者たち以外には見抜くことは出来ない。
だからこそ、
今回は、俺から見ればあまり印象のよくない存在であるとはいえ、
これは
ただ、彼女はあまり周りの被害を考えないと言うか、
その辺りを考えて悩ましいのかもしれない。
しかしウルフはその悩みをとりあえず置いておき、俺に尋ねる。
「それで? そんなニヴ・マリスの追及をどうやって免れたんだ? そう簡単に出来ることじゃねぇはずだが……」
「俺としてはそんなに大したことはしてない。というのも、ニヴが聖気を使った《聖炎》という技術で、俺を判別する、と言って襲い掛かって来たのを避けきれなかっただけだからな。まずいと思ったが……結果、俺は無実だと、
「つまり、お前が先ほど言った通り、図らずもお前は
「そういうことになる。けど、あんたはどう思う? ウルフ
むしろ、それ以外の答えがあるくらいなら教えてほしいくらいである。
しかし、ウルフもそんな疑問の答えなど持っているはずがない。
彼は首を振って、
「……俺に分かるわけがねぇだろ。が、放置しておくにしても問題がありすぎるな……《水月の迷宮》には《龍》が、マルトには《吸血鬼》と《ニヴ・マリス》がいて、しかもそのどれもにお前が関わっている……お前、運が悪すぎないか?」
改めてそう言われると、頷かざるを得ない。
少なくとも、ついこの間まで、うだつの上がらない銅級冒険者だった人間にはあまりにも荷が重すぎる試練だらけだ。
しかし、成り行きというものは俺の意志でどうにかできるものでもない。
仕方ない、と言う他ない。
ただ、何も考えていないわけでもなく……。
俺はウルフに言う。
「俺も、ちょっと運が悪すぎるとは思ってるよ。だからこのままマルトにいたらもっと色々起きるんじゃないかと思ってな。具体的にはニヴ関係で。だからとりあえずしばらくこの街を離れようかと思ってる」
俺を中心に色々起こっているとも言えるが、見方を変えればマルトを中心に起こっているとも言える。
俺はたまたま巻き込まれただけだ……たぶん。
だとすれば、場所を変えればまた違ってくるだろうという安易な発想に基づくものだが、ニヴもここを離れるつもりはしばらくなさそうだったし、悪くない選択だと思っている。
「離れるって、お前。どこに行くつもりだ?」
とウルフが尋ねるので、俺は答える。
「ハトハラーの村だよ」
端的な答えだが、この辺りの地図は当然、ウルフの頭にしっかりと入っている。
彼はすぐにその場所が思い浮かんだようだ。
それも、俺の情報もしっかりと一緒に。
「あぁ……確か、お前の故郷だったか。しかし、あんなど田舎で育って、よく、冒険者になろうなんて思ったもんだな……」
ウルフがそう言う気持ちは分かる。
あそこは本当に田舎で、外部の情報なんてほとんど入ってこないからな。
魔物が襲って来ても村人が武装して倒しているくらいだ。
強力な魔物は流石に無理なので、
ある意味、かなり独立した村だ。
マルト周辺の多くの村は、魔物が出現すれば大体
今にして思うと、少し変わった村だったかもしれない。
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