「ここからが問題なんだが……」
俺は少しためらう。
いや、もうウルフに話すことは決めている。
しかし、それでも、これを果たして責任ある人間が信じてくれるのか、という不安があった。
……今更かもしれないが。
今更だな。
「……《龍》に遭った、それだけで大分問題な気がするが……まだ、何かあるのか……」
ウルフがそう言いたくなる気持ちも分かる。
が、ここからが俺がこんな体になるまでの経緯の最も重要な部分だろう。
俺は言う。
「まぁ、色々と言っても仕方がないからな。すごく簡単に言うが、俺は、そこで出会った《龍》に食われたんだ」
「はぁ? 何言ってやがる。お前、食われたらここにいねぇだろ?」
即座にそう返される。
しかし、事実として、俺は食われてもここにいるのだ。
俺は続ける。
「……確かに普通ならそうなんだろうけどな。どういう理由かは分からないが、俺は《龍》に食われて……気づいたら、
「ちょ、ちょっと待て! 流石に俺でも処理が追いつかねぇ! 少し水を飲ませてくれ!」
この際だから最後まで一気に言ってしまおう、と思ったのに、途中で遮られてしまった。
ウルフは執務机のわきにある水差しから一杯の水を注ぎ、一息に呑み切って、深呼吸をしてから、
「……よし、人心地着いた。それで……
ロレーヌもこのマルト
そう尋ねてきた。
たまに
俺は彼に言う。
「俺も聞いてはみたんだが、よくわからないということだった。人が魔物になることは……それこそ
もしかしたら、俺よりも遥かに経験豊かな冒険者であるウルフなら知っているかもしれない。
そんな期待を込めての質問でもあったが、やはりウルフは首を振って、
「いねぇな……。一言二言、言葉を発する奴は見たことはあるが……その程度だ。お前は……だが、今はどう見ても人間だぞ? いや、
と、色々と混乱しているようだ。
それでも、その言葉の一つ一つが核心に触れているのは経験のなせる業か。
俺は言う。
「今こんな見た目なのは、当然、もう
「あぁ、スライムが
俺の場合は元々字が読め、ロレーヌの家に大量の魔物に関する本があったし、俺も書物を読むのは好きだったからな。
そうじゃない限りは、新人は
マルトだとそこまででもないが、他の街だと酷いというのは俺も聞いたことがある。
王都はもっとダメだと言うことかな……。
いつか行ってみたいものだ。
それよりともかく、続きか。
俺はウルフの言葉に頷いて答える。
「そう、それだな。もうなんとなく察しはつくと思うが、俺は
「また随分と突拍子もないことを……あぁ、でもそうか。
ウルフは察しの良さを発揮して、そう尋ねてくる。
俺は頷く。
「ああ。とりあえず
「結果として、今それってわけか……しかし、さっきも思ったが、
話しながら徐々に深刻そうになっていったウルフがそう言った。
俺は慌てて、
「いや待ってくれ。噛んでないって!」
と叫ぶも、ウルフはすぐに、
「……だろうな。お前は他人を犠牲にして生きようってタイプじゃねぇ。仮にそんなものが必要になったら、素直に朽ちるだろ」
と言ってくれた。
なんだか妙に評価が高くてむずむずするが、こういうときすんなりこう言ってくれるというのはありがたい。
ウルフは続ける。
「だが、そうなるとやっぱりどうやって血を確保してるって話になるな。一体……」
考え込んだウルフに、俺は正直に言う。
「……ロレーヌにもらってるんだよ。あいつは、事情を知ってるからな」
ロレーヌとの関係は言うかどうか悩ましいところだったが、ウルフはすでに俺がロレーヌと住んでいることも掴んでいるし、元々仲良かったことも知っている。
そもそも、こんなおかしな状態の俺と一緒に暮らしていて、その奇妙なところに気づかないという言い訳が通用もしないだろ。
だからいっそ言うことにした。
案の定、というべきか、ウルフは別にロレーヌもまた、俺と同様に
むしろ納得、という顔つきで、しかし、
「それは……今までの話からすると別に驚くようなことじゃねぇが……おい、あいつ大丈夫なのか?
ウルフが心配げにそう尋ねる。
「そこも問題なんだよな……俺はそんなに血が必要ない。一日数滴あればそれで喉の渇きは癒える。食い物も普通に食えるし……それに色々あって、
「そりゃ、どういう意味だ……?」
「ニヴ・マリスを知ってるだろ? あいつが、俺を
俺の説明に、ウルフは再度頭を抱え、それから水差しをとって、もう一度、水を一杯飲みほした。
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