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第9章 下級吸血鬼
第183話 下級吸血鬼と冒険者組合長

 ――酷い先制パンチをかまされた気がする。


 冒険者組合長(ギルドマスター)ウルフ・ヘルマンの一言に、色々な意味を感じて俺はそう思った。

 なぜ、はじめまして、などという至極当たり前の言葉を強調するのか。

 その意味は明白だろう。


 ――はじめまして、じゃないよな?


 そう言いたいのだ。

 そうに決まってる。

 問題はどこまで分かって言っているのかだが……。

 かなりの部分まで分かっているのだろうな、と思わざるをえない。

 そもそも、俺がこの街で生活するうえで情報をどうしても色々漏らさざるを得ない相手だったからな。

 冒険者組合(ギルド)は。

 俺のレント・ファイナ、としての経歴、そしてレント・ヴィヴィエとしてやったこと、その両方の情報がここにはある。

 その上で、しっかり考えれば、レント・ファイナとレント・ヴィヴィエが同一人物であることは比較的容易に想像がつくことだ。

 それなのに、今まで、大してばれていなかったことがそもそも奇妙な点である。

 もちろん、俺自身に大した重要性がないから、誰も気にしなかったというのもあるだろう。

 気にしていたのは、俺の以前からの知り合いたちだけで、彼らにはすでにほとんど説明してある。

 残るは緩いつながりのあった友人とまでは言えない知り合いたちだが、彼らは大抵が冒険者稼業の暗い部分を分かっているからな。

 姿が見えない、となれば、死んだんだな、と割り切ってしまうドライな部分が非常に強い人々なわけだ。

 したがって、気にしない、というか、死んだ奴のことを語るのは辛いから語らない。

 それでも、どうしても漏れてしまう部分はあっただろう。

 けれど、少しでもそういう噂を聞くことはなかった。

 それはつまり、誰かが隠匿していてくれたのだ。

 そう想像していた。

 その誰か、はきっと……。


 と、そこまで考えてはみたものの、ただの想像だ。

 とりあえず知らないふりして話して、遠まわしに確認していくしかない。

 俺は言う。


「ええ、初めまして、冒険者組合長(ギルドマスター)。俺はレント・ヴィヴィエ。銅級冒険者です。突然尋ねたのに、わざわざこうして面会の時間をつくってくださって……」


 とそこまで言ったところで、冒険者組合長(ギルドマスター)ウルフは面倒くさそうに、


「いい、いい。そういうのはいい。俺はまどろっこしいのは嫌いなんだ、レント・ファイナ。来た理由も分かる。二重登録のことだろう? なんとかしてやるから全部話せよ」


 と色々な段取りをすべて飛び越した発言をしてきた。

 俺は息を呑み、とりあえず、


「……一体何を言っているのやら……」


「だから、そういうのはいいって。と言っても、お前は納得しないだろうな。分かってる。お前と顔を合わせたことなんて何度もないし、話した回数もそれほど多くない。が、俺はずっとお前に注目してきた。それは知っているな?」


「……」


 昔は知らなかったが、今は知っている。

 いや、昔も一応知ってはいた。たまに冗談交じりに、お前、冒険者組合(ギルド)に就職しないか?と尋ねてくるような男だったからだ。

 あれは冗談だと思っていたが、もうシェイラから聞いて真面目な話だったと知っているしな……。

 俺の何を見込んでそんな話をしてくれていたのか、よくわからないが、確かに俺に注目していたのは間違いない。

 それで、それがどうかしたのか?

 そう思った俺に、ウルフは続ける。


「お前がいなくなったと聞いた時、何を隠そう、一番ショックを受けたのは俺だ。なぜかって? そりゃ、そろそろ冒険者稼業も諦めて、冒険者組合(ギルド)に再就職してくれる頃だと踏んでたからな。その直前で、唐突にいなくなった……まぁ、いなくなり方から見て、死んだと思った。冒険者だからな。そういうことはありうることだが、俺は本当にショックだった。俺の業務を非常に楽に出来、マルトの冒険者の死亡率を下げられる、そんな有望な職員を得損ねたんだからな」


 いやいや、俺は絶対にあきらめなかったぞ。

 もう少しで、というのは十年間やり続けて大した成績を残せていないから、そろそろ諦めるだろう、と考えてたと言う意味だろう。

 しかし、俺の執念はそんなに軽くないのだ。

 そう思ったのが伝わったのか、ウルフは、


「ま、五体満足でいる限りは諦めなかっただろうが、年を取ると少しずつ体の動きは鈍ってくからな。いずれ大けがを負って、治しきれなくなる可能性は高かったと思うぞ。その場合は冒険者なんて続けられねぇ。そうなると、他に就職を……となって、お前なら少しでも冒険者の近くに、と考えただろうから、冒険者組合(ギルド)職員にと言われたら乗っただろう。どうだ?」


 それは……微妙なところだ。

 ただ、冒険者を続けられないほどの怪我を負ったら確かにそうせざるを得ないのは確かだ。

 そして、冒険者の近くに、というのも俺なら思いそうなことである。

 それだけ、俺は冒険者稼業を愛している。

 ウルフは続ける。


「なんでそう思うかっていうと、俺がその口だからだ。この目を見りゃ分かるだろう? もうまともに冒険者なんか出来ねぇよ。だが、次の冒険者を育てることは出来るからな。まさか組合の方で雇ってくれるとは思わなかったが、人生何が起こるか分からねぇ。冒険者も、エリートぶった奴が上に立つより、せめて気持ちの分かる元冒険者が上に立った方がいいだろうってことだった。確かにヤーラン王国総冒険者組合長(グランドギルドマスター)自身ももともと冒険者だしな。なるほどと思ったよ。で、俺は同じことをお前にしようと思ってたってわけだ」


 そこまでは分からなくはない。

 が、問題は、どうして俺を、俺だと思ったのかと言うことだ。

 正直言って、冒険者組合(ギルドマスター)は銅級冒険者一人ひとりの情報なんてそうそう見ない。

 何百人といる彼らのことに一々気を配っていたら、時間がいくらあっても足りない。

 冒険者組合長(ギルドマスター)の仕事はそこまで暇ではないのだ。

 しかし、ウルフは言う。


「俺は、お前を見てた。だから、ある日ふと上って来た、銅級昇格試験の報告書を読んで、これは、と思ってな。別に一発で受かる奴がいないわけじゃねぇ。それ自体はいいんだが、受かり方がな……あれだけ慎重かつ完璧に罠を抜けて合格する新人なんてそうそういるかよ。これは、経験者かよほどの実力者か、と思うじゃねぇか。それで、名前を見りゃ、レント・ヴィヴィエだ。気になってた冒険者、レント・ファイナのことを思い出さないはずがねぇだろ。なぁ?」


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