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第9章 下級吸血鬼
第178話 下級吸血鬼と杖の試し

 魔術を杖で実際に使ってみよう、ということだったので、てっきりその場でやるのかと思っていたら、ロレーヌが、


「家でやるのは危険だから、外でやるぞ」


 と言ったので場所を移した。

 と言っても、ただ街の郊外にある空き地に来ただけだ。

 

「ここならたとえ爆発しようとも誰も文句は言わん」


 と、ロレーヌは言うが、流石に爆発したらこの土地の持ち主は怒るのではないだろうか?

 結構広い土地で、遠くに家が一軒建っているのが見える、そのくらいの広さで、もしかしたら爆発しようともばれない、という意味かも知れないが……。

 ただ、一応聞いてみる。


「爆発したら流石に持ち主が切れるんじゃないか?」


「私は別に切れないぞ。私の土地だからな」


「え」


 と、つい言いたくなるほど予想外の答えが返ってくる。

 けれど先ほどからのロレーヌの何の心配もいらないという態度の意味が理解できた。

 彼女の土地だと言うのなら、確かに何が起ころうと問題はない。

 まぁ、魔界への扉を開いて悪魔が大量に出現し街を襲う、なんてことがあったら流石に大問題だろうが、そんなことする予定はないしな。

 そもそもやり方が分からない。

 伝説でそんなことをやった魔術師がいるとか言われるくらいだ。

 

「……私もあんまり家でやる気にならない実験もあるのでな。そのために大分前に買ったんだ。この辺りは中心街から遠いし、不便だから広さ程は高くなかったぞ」


 ロレーヌはそんな説明をするが、これだけだだっ広い土地である。

 安くもなかっただろう。

 こいつ、金持ちか……まぁ、分かってるけどな。

 昔から謎の財力があるから。

 家もぽんと買っていたわけだし、それほどの驚きはない。


 ともかく、そういうことなら何の心配もいらなそうだ。

 しかし、こんなところでやらなければならないほど危険なことなのか?

 初めて作った杖を試すのって。


 気になって俺は尋ねる。


「なぁ、初めて作った杖って危ないのか?」


 するとロレーヌは、


「普通はさして危険ではない。家でやっても問題ないだろう。ただ、お前の場合少し、不安がな……魔力操作もこなれているし、おそらくは問題ないだろうと思うが、一応だ。アリゼの方も、結構魔力量は多いし、加減が難しいかもしれないからな。心置きなく魔術を使ってもらうためにここでやるのがいいだろうと思った」


 と説明してくれた。

 魔力量が多いと加減が難しい、ということは、杖を使って魔術を使う感覚と、なしで使う感覚はかなり異なるのかもしれない。

 そもそも杖と言うのは魔力を安定、増幅させるものだからな。

 安定の方はともかく、増幅、というのがネックなのかもしれない。

 加減を間違えると、というのはその辺りについて心配しているのだろうと思われた。

 

「まぁ、何はともあれ、二人ともやってみようか。まだ魔術は初歩魔術しか教えていないから、とりあえずそれでやってみるといい。杖の力がどんなものか、一番理解しやすいだろうしな」


 と言ったので、俺とアリゼは頷く。

 

「とりあえずは……アリゼからいってみるか。詠唱は覚えているか?」

 

「はい。大丈夫です!」


「いい返事だ。じゃあ、私とレントは少し距離をとる。いいと言ったら使ってみろ」


「はい!」


 そして、ロレーヌと俺が少し距離をとると、ロレーヌが「いいぞ!」とアリゼに向かって叫ぶ。

 アリゼは頷いて、杖を持ち、


「火よ、我が魔力を糧にして、ここに顕現せよ……《点火アリュマージュ》!」


 と唱えた。

 すると、アリゼの体内に満ちていた魔力が収束し、杖に向かって流れる。

 それが膨らむように大きくなり、そして、杖の先から、ぼうっ、と火が上がった。

 ……いや、火と言うよりあれはもう、炎という感じだな。

 本当に初歩魔術か、と尋ねたくなるくらいに大きい。

 以前のそれは指先に点る程度の火でしかなかったのに、今は松明くらいの大きさの炎になってしまっている。


「こ、これっ、これっ……」


 と、アリゼが炎の大きさに若干怯えているので、ロレーヌが近づいて、何かを唱え、その炎を消してやった。

 すると、アリゼがほっとした顔になる

 俺も近づいて、アリゼに、


「すごいじゃないか。初歩魔術であんな大きな炎を作れるものなんだな……」


 と言うと、アリゼは、


「びっくりしたよ……」


 と未だに少し緊張しているようだった。

 ロレーヌはそんな俺たちのやりとりを聞いて、


「勘違いしているようだが、普通はあんなに大きくはならないからな。前にも言ったが、アリゼはもともと魔力量が大きい。だからあれだけ大きくなったのだ。杖無しだと大きな魔力量があっても、初心者の内はその大半は使えないものだが、杖があると違うからな。制御も安定するし、かなり効率的に魔術が使えるようになる。まぁ、必ずしもいいことばかりではないのだが……」


 と言った。

 どういう意味か気になったのか、アリゼが、


「何か悪いことがあるんですか?」


 と尋ねる。

 するとロレーヌは、


「あぁ。杖に頼っているといずれ魔力の制御が杖無なしでは出来なくなる。それに、魔力も杖無しでは大して動かせなくなったりもする」


「それは……大問題じゃ?」


「その通りだ。致命的と言ってもいい。なにせ、常に杖に触れてないとまともに魔術師として戦えないということだからな。だが、最近の若いのはそれでも杖頼りで魔術を使う方を選ぶ。その方が楽だからだ。最初から杖を持ち、魔術の練習を始め、そしてそのまま一人前……といっていいか微妙な腕前になって、冒険者なりなんなりになっていくのさ。まったく、嘆かわしいことだな」


 自分も決して若くないわけではあるまいに、若いのとは。

 と突っ込みたくなったが、真面目な話をしているようなのでやめておいた。

 まぁ、結婚適齢期は過ぎてしまっているから、若くないと言えば若くないのかもしれない。

 そんなこと言ったら大して変わらない年齢の俺もそうだけどな。俺の方が一応上なのだし。下に見られがちだが。

 

「でもマルトの魔術師の人たちは、街中で杖無しで魔術を使われてたりするのをよく見ますよ?」


 アリゼがそう言う。

 これにはロレーヌも頷いた。


「ああ、買い物とかで買った品を浮かべて持って帰ったりしているのがたまに見れるな。私もあの光景を初めて見たときは意外に思った。帝国ではああいう光景が見られなくなって久しい……」


 帝国、とはロレーヌの故郷であるレルムッド帝国のことだろう。

 かなりの文化大国のはずで、魔術についても先進的であるはずなのだが、杖無しの魔術については微妙なのか。


「なんで帝国ではそんなことになってるんだ?」


 俺が尋ねると、ロレーヌは、


「さっき、杖のデメリットを言ったが、当然メリットもある。細かい作業は遥かに杖を使った方がやりやすい。また、大規模なものもな。帝国では魔導兵器や魔道具の研究が盛んで、そのために魔術師は杖を常に手放せないのだ。ずっと使っているとそれに頼りたくなる。それに、将来ずっと手放さないのならば、最初から杖の使い方にだけ習熟していれば効率的だ、と考える者も増える。結果としてそんな感じになった、というところだ。もちろん、杖無しの魔術を扱える者もいるが……帝国魔術師の主流派にはなれないのだな。私も、その口だ、というわけだ」


 便利になりすぎた宿命なのかもしれないな、という感じである。

 しかし、主流派にはなれないとは……ロレーヌもそんなところで色々あって帝国を出たということなのかもしれない。

 ふと、そう思った。

 それから、ロレーヌは声色を変えて、


「ま、その辺りについてはいいだろう。今はお前たちの杖の方だ。色々と悪いことも言ったが、基本的に便利なものなのは間違いないからな。さぁ、レント、次はお前の番だ。例によって、私とアリゼは下がっておくからな」


 そう言ったので、俺は頷く。


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