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第9章 下級吸血鬼
第177話 下級吸血鬼と完成

 杖に魔力を注ぎ始めて十秒くらいしたころ、杖頭の方からバチバチとした雷のような光が出てきた。


「ロレーヌ、これでいいのか?」


 俺がそう尋ねると、ロレーヌは頷く。


「ああ、それでいい。ただ魔石の方も先ほど私が見せたようになるまで魔力を注がないとならないから、杖の方はそのまま維持だ。出来るか?」


「まぁ、これくらいなら問題ない」


 右手と左手で別の作業をしているわけで、これは出来ない人は出来ないだろうな、と感じる作業だった。

 その点、アリゼは割とうまくやっている。

 俺に少し遅れたが、杖から光が出てきて、その状態を維持したまま、魔石に魔力を注ぎ続けている。

 俺が言うのもなんだが、彼女は結構器用らしい。


「やってみてわかったと思うが、魔石の方に多めに魔力を注がないと今みたいな面倒な状態になる。次に作るときはその辺りを工夫してみるといい」


「なるほどな……」


 ロレーヌが言った言葉に俺は頷く。

 アリゼの方は、魔力を注ぐのに集中していて返事をする余裕まではないようだ。

 なんというか、分かりにくいかもしれないが右手でお手玉しながら左手で手紙書いているようなもんだもんな。

 そりゃあもう一つ作業をプラスするのは難しいだろう。

 

 そんなことを考えていると、


「お……魔石もよさそうだ」


 魔石の方からも光が出てきた。

 杖のように一方向に向かってではなく、全方向に出てきているが、ロレーヌの話によるとこれでいいようなので問題ないだろう。

 ロレーヌも、俺の魔石を見て、言う。


「レントの方はもう次の作業に移ってもいいな。魔石と杖を近づけて……」


 言われた通りにすると、魔石から出ていた光が、杖の方向に偏り始めた。

 

「……このままくっつければいいのか?」


 と俺が尋ねると、


「接着剤がついているわけじゃないんだぞ。杖頭の形状をいじって、魔石を固定するんだ。ラインを崩さないようにやらないといけない。そこそこ難しいから気を付けてやれ」


「どんな形で覆ってもいいのか?」


 気になってそう尋ねると、ロレーヌは頷く。


「あぁ。そこで工夫する奴も多い。ま、初めてなら普通にただ固定できればそれでいいが……」


 と言いかけたところで、


「師匠!」


 とアリゼが言う。

 どうやら彼女の方も魔石から光を出せたようである。

 ロレーヌは俺に、


「じゃあ、とりあえず頑張れ」


 と言って、アリゼの方の指導に取り掛かった。

 俺も自分の作業に集中する。

 

 それにしても、杖頭の形状は何でもいいのか……。

 確かに、店売りの杖なんかを見ると色々装飾されているもんな。

 出来ないんだったらあんな風にはなっていないだろう。

 

 しかし、どの程度いじれるのかが分からない。

 とりあえず、俺は杖頭の形状を最初はそうっと、そして徐々に大きく変える。

 その結果、かなりいじくっても問題ないことが分かる。

 ただ、限界はあるようで、これ以上動かすとラインが切れるな、というのは感覚的に分かった。

 木の棒を曲げるだけ曲げて、あと少し力を入れればばきっと行くなという感覚に近い。

 まぁ、それでもこれだけいじれるのなら、色々作れそうだな……。

 そう思った俺は、杖頭作りに没頭した。


 ◇◆◇◆◇


「よし、これで完成だ。アリゼ、頑張ったな」


 そんな声が横から聞こえてきたので見てみると、アリゼの手には完成した杖が握られていた。

 しっかりと魔石が固定され、先ほどまでは感じられなかった、魔道具としての安定した魔力が感じられる。

 

「これが、私の杖……」


 と、アリゼは嬉しそうな顔で杖を見つめていた。

 そんな彼女にロレーヌは、


「あとでそれを使って魔術を使ってみることとしよう。レントも一緒にな。さて、レントは出来たか……?」


 と言いながら、俺の方を見て、目を見開き、それから呆れたような表情で、


「……お前は、またか」


 と言った。

 

「何がだよ?」


 と尋ねると、俺の作った杖を指さして、


「それだそれ、その杖頭。よくそんなもの作ったな……」


 と呟く。

 俺の杖も、今しがた出来上がったところで、アリゼの杖と完成はほぼ同時だったと言うことになる。

 俺の方が先に最後の工程に辿り着いていたのに、完成したのがほぼ同じだったのは、俺が杖頭に凝ってしまったからだ。

 アリゼも気になったのか、ロレーヌのうしろからひょこりと顔を出して、俺の杖を覗く。

 そして、


「わっ、何それ、すごい細かい……」


 と言って驚いた表情をした。

 ロレーヌが俺の杖を手に取って、矯めつ眇めつし、言う。


「……魔石が竜の口に咥えられているな。竜の彫刻をよくこれだけ細かく作ったものだ。普通は杖頭の装飾は魔力操作だけで作れるものじゃないぞ」


 確かに、俺の作った杖の杖頭は、竜が魔石を口に加えた形をしている。

 そこを一生懸命拘ったので、時間がかかった。

 ちなみに、正確にいうと竜ではなく、《龍》だ。

 俺を食ったあの《龍》。

 人生終わった、と思った瞬間だったからか、その形状は酷く細かく頭の中に残っていて、あれを作ろう、となんとなく思ってしまったのだ。

 正直、趣味は悪い気がするけどな。

 その点はロレーヌも思っているようで、食われたのにその相手を選ぶなんて、変わった感性をしているな、とでも言いたげな目をしている。

 けれど、それについてはアリゼのいるこの場でする話じゃないので、俺は別の気になることを尋ねた。


「杖頭は魔力操作だけで作れるものじゃないってどういうことだ?」


「あぁ……杖頭の装飾は、杖の素材を杖の形に形成する段階で、杖頭部分だけ太めと言うか大きめにしておいて、あとで削ったりしながら作ることが多いんだ」


「またなんで、そんな面倒なことを?」


 魔力操作の方が自由に形状がいじれて楽なのに。

 そう思っていると、ロレーヌは頭を抱えて、


「ある程度までなら魔力操作で何とかできるだろうがな、ここまで細かくは普通は出来ないんだよ。よほど魔力の扱いに習熟していない限りは、手で削った方が綺麗に作れる。ラインも崩さないで済むからな。しかしお前は……」


 とあきれ顔だ。


「レントは凄いってことですか?」


 とアリゼが尋ねると、ロレーヌは、


「まぁ……そうだな。一言で言えば、そうなる。もちろん、一流の職人になれば同じことは可能だ。だが、レントは今日初めてやって、これを作った。昔から器用な男だとは思って来たが、私の専門分野で改めて見せられると……本当に器用なんだと改めて再認識させられるな」


「……なんか、悪かった」


 と、俺が謝ると、ロレーヌは、


「別に謝ることじゃないだろう。むしろ、素晴らしいことだ……うむ、そうだな。今度杖を作るときは、杖頭の加工はレントに任せることにしよう。そうすれば……」


 と顔を伏せて怪しげなことを呟き始めた。

 それから、ぱっと顔を上げて、


「ま、ともかく、二人とも杖は完成した。どちらも問題ない出来だ。あとは、実際に使ってみて、本当に杖として使えるのか、試してみることにしようか」


 そう言い、アリゼがそれに、


「はいっ!」


 と元気よく返事をしたので、ロレーヌの怪しげなつぶやきの意味は聞けずに終わった。


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