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第9章 下級吸血鬼
第175話 下級吸血鬼と人形

「あとは、杖の柄の部分の成型と、魔石と柄の結合だな。まぁ、正直今のままでもほとんど完成していると言えるんだが、これだと格好つかないからな……」


 ロレーヌがそう言ったのでアリゼが首を傾げて尋ねる。


「どういう意味ですか?」


「あぁ、魔力触媒としては、魔石だけでも十分に使えると言うことだ。ただ、柄を付けた方が魔力を制御しやすいし、魔力増幅率も上がるから、格好だけでもないんだけどな」


 ロレーヌが答える。

 柄が必要ないなら、魔石だけで触媒として使うだろう。

 なぜ必要かと言うと……。

 ロレーヌが続けた。


「今回作るくらいの杖だと、魔石だけの場合と、杖にした場合とではそれほどの差はないんだが、高度なものになっていけばなっていくほど、柄の部分にも色々と加工を施していくことになる。たとえば芯に何か素材を入れたり、魔石を複数配置して反応させたりとか、色々な。杖の柄は、なんというかな……魔力触媒の土台みたいなものなんだ」


 しかしそうなると、疑問も出てくる。

 アリゼは即座に尋ねた。


「じゃあ、指輪型の魔術触媒より、杖型の方が性能がいいのですか?」


 指輪に複数の魔石を乗せるのは難しいだろう。

 単純にそんな考えでもって尋ねたに違いない。

 そしてそれはある意味で正しい。

 ロレーヌはしかし、首を縦には振らずに説明する。


「いや、必ずしもそうとは言えない。まぁ、作りやすさで言えば杖型なんだけどな。指輪型にも魔石は複数載せられる。今、使っている鉱山ミナゴブリンとか地亜竜(テラ・ドレイク)なんかの魔石だと、そこそこ大きいから厳しいだろうが、魔物の魔石には色々な種類がある。小さくて、指輪に複数載せられるような大きさの魔石を持つ魔物もいるのさ。そういうのを使えば、問題ないという訳だ」


「でも、小さな魔石なら杖には一杯載せられるのでは?」


「それもまた、間違いではないが……問題は、魔術触媒に使える魔石の数に限界があるということだな。いくらでもスペースの許す限り載せられるわけじゃない。基本的には一つ、うまくやって二つ、名品と呼ばれる品で三つ、とてつもなく高性能なもので四つ、というところだ。迷宮産のものならもっと多いものもあるし、それこそ伝説クラスの名工の品であればその限りではないが、一般的な錬金術師だと、どんなに頑張っても三つだな。四つ使って安定した魔術触媒を作れるのなら、それだけで食べていけるぞ。目指すか?」


 無理に決まってるだろ、とは、他人から見れば無謀とも思える目標に邁進してる俺に言えたことではないが、アリゼは大体そんな感想を抱いたらしい。

 けれど、ふと気になったのか、ロレーヌに言う。


「ロレーヌ師匠はいくつ載せられるのですか?」


「私か? 私は……秘密だ。ただ、三つは間違いなく載せられる、と言っておこう」


 その答えだと四つもいけると言っているようなもののような気もするが、断言はしていない。

 ……うーん。

 ロレーヌの性格から考えると微妙なところだろう。

 いけてもいけなくてもこういう気がする。

 

 アリゼはさらに聞こうとしたが、ロレーヌが、


「ほらほら、杖づくりを続けるぞ。柄の部分の加工は簡単じゃないから、集中しないと出来ないからな」


 と言ったので聞けずじまいに終わる。

 しかし、アリゼもそこまで不満という訳でもなく、まぁいっか、という顔で灌木霊(シュラブス・エント)の木材に取り掛かる。

 アリゼからすれば、ロレーヌは凄い人、なので三つだろうが四つだろうが別に見る目に変わりはないのだろう。

 まぁ、俺から見てもそうだ。


 灌木霊(シュラブス・エント)の木材はもう、採取してきたそのまま、丸太感あふれる存在であるが、ロレーヌは、


「それの表面に魔力を注ぐのだ。そして、注いだ部分だけを剥がすようなイメージで魔力を操ると、その通りの大きさで剥がれる。今回は結構な量だからな。何度失敗してもいいからとりあえずやってみろ」


 と言った。

 俺とアリゼは頷いて作業に移る。

 そして実際にやってみるとどうなったかと言うと、俺は案の定、簡単に杖に必要なだけの素材を剥がすことに成功した。

 アリゼは小さな木片だったり、湾曲した状態だったり、樹皮だけ剥がれたり、と苦戦していた。

 それでも最後にはしっかりと必要なだけの素材を剥がすことが出来た辺り、やはり優秀であった。


「よし、次は、成型だ。杖の形に変えていく。これも同じだな。魔力を使って圧縮したり、丸めたりするんだ。これはいきなりやると失敗するだろうから、アリゼは今、剥がすのに失敗した素材を使って、試しながらやるといい。慣れたら本番だ。いいな?」


 とロレーヌが言ったので、アリゼは頷く。

 俺は……と思ってロレーヌを見ると、お前は自分で適当にやれ、と顔に書いてあった。

 さっきからさくさく出来ているので、俺に手取足取り教えるのはやめて、アリゼ優先でやることにしたらしい。

 正しい判断だろう。

 俺はそもそも自分で色々やってみるのが好きだしな。

 やり方は聞いたので、あとは試行錯誤するだけだ。

 ただ、それでもさきほど剥がした素材をいきなり使うのは問題なので、俺は余った木材から同じような大きさの素材をいくつか剥がし、それを使って成型作業の練習を行う。

 色々と作ってみる。

 なんだか、粘土をいじくっているような感覚に似ているな。

 

 ……別に練習なのだから、杖を作らなくてもいいか。

 唐突にそう思った俺は、木材を魔力で成型し、形を変えていく。

 そして出来上がったのは……。


「おい、二人とも見てくれ。これ、中々じゃないか?」


 アリゼとロレーヌにそう言うと、二人は驚いた顔で俺の作ったものを見てくれた。

 それから、


「レント、よくそんなもの作れるね。私、杖の形にするのも精一杯なのに……」


 そう言っているアリゼの手には、しっかりと杖の形にされた木材があった。

 どうやら出来たらしい。

 ロレーヌの方は、


「……それは流石に私にも無理だ。モデルを変えたら、売れそうだな?」


 と呆れと感心がないまぜになった様な表情で呟いた。

 アリゼとロレーヌの視線の先、そこには、二人の姿をそのまま映し取った木の人形が置かれていた。

 しっかりとポーズも取らせている。

 ロレーヌは杖を持って、魔術を放つ瞬間である。かっこいい。

 アリゼは礼拝堂で東天教の神に跪き、祈りを捧げている様子である。実に清廉かつ荘厳だ。

 うむ、いい出来だ……。

 と満足していると、


「真面目に課題に取り組め。これは没収な」


 とロレーヌが二体とも持っていき、


「アリゼ、これはもらっておけ」


 とアリゼの形を象った方を手渡していた。 

 ひどい!

 と一瞬思うが、講義中、やるべき課題を置いておいて勝手に他人をモデルにして人形を作ってなにを言うのかと言う感じもある。

 まぁ、これも練習の一環で課題に取り組んでいたとも言えるのだが、ロレーヌ的には遊んでいるようにしか見えなかったのだろう。

 そもそも、これだけ出来るなら杖くらいすぐに作れるだろうと言いたげな視線である。

 そしてそれは極めて正しかった。

 ちょっと遊んでた。

 申し訳なかった。


 俺は急いで杖を形作ると、


「さぁ、次は?」

 

 と明るく言った。

 ロレーヌはそんな俺を見て、呆れた表情になったが、すぐに、


「……まぁ、いいだろう。次は最後の、魔石と杖の結合だ。頑張れ、もう少しだぞ、二人とも」


 そう言ったのだった。


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