「お前……いいのか?」
クロープが出てきて、まず言ったのがその一言である。
顔を出していることを指して言っているのだろう。
俺は答える。
「
そう言って、仮面をにゅるにゅる動かし、顔全体を覆う形にした。
しっかり骨骨ペイントで。
するとクロープは、
「……その仮面、そんな面白いもんだったのか。おい、ちょっと外して見せてみろ」
と言ってきた。
そう言えばクロープにはしっかり仮面のことを説明したことも見せたこともなかったかな?
クロープは有能な鍛冶師で、武具以外も目利きできるが、この仮面は流石に特殊過ぎるのだろう。
見てもなんらかの魔法の品だと言うことは分かっても、どんな効果があるのかは分からなかったに違いない。
ま、調べてもロレーヌに聞いても分からない代物だからな。
そりゃ、誰も分からないだろう。
俺はそんなクロープに笑って、
「外せるものなら外してみろ。そしたら見せてやる」
と言った。
顔は見えておらずとも、瞳で笑ったことは分かったようだ。
クロープは挑発されたと感じたのか、腕をまくって、
「何……? よし、そこまで言うのなら……」
とこちらに近づいてきて、仮面の横に手をかけた。
それから思い切り引っ張るが、当然のごとく全く外れない。
ただ、俺の顔の皮が引っ張られて痛いだけである。
クロープは鍛冶師であるから、腕力も中々あるのだ。
冒険者のそれに耐える武具を作るには、鍛冶師にも単純な腕力はある程度要求されるからな。
クロープはあまり太くはなく、細身ではあるが、それでも筋肉質だし、タフな男だ。
そんな男が思い切り俺の皮膚にくっついた物体を引っ張っているのだから、その痛みは想像できることだろう。
ただ、俺はこれで
皮膚がちぎれないで済んでいるのはそれが理由だ。
魔物になってて良かった……とちょっとだけ思うが、そもそも魔物になってなかったらこれつけなかったしな、と冷静に反論も浮かんだ。
「……そろそろいいだろう」
俺が流石に耐えきれなくなってそう言うと、クロープは、
「え? あぁ……」
と残念そうな顔で仮面から手を離す。
それから、
「しかし、本当に外れないな。その仮面は何だ?」
とつづけたので、俺は言う。
「分からん。露店で買ったらしいが、つけたら一切外れなくなった。ちょうど良かったし、今見たように色々形は変えられるから不便はないんだが……流石に一生このままはな、とは思ってる」
いくら冒険者に仮面が珍しくないとはいえ、俺には本来必要がないのだ。
それに、冒険者をやっているときは身に付けているのはいいとしても、寝るときや体を拭いたり洗ったりしているときまで外れないのは困る。
今更な部分はあるが、それでも外せる方法があるなら外したいものだとはずっと思っている。
クロープはそんな俺に言う。
「……外そうとしても外れんと言うことは呪いの品か。それほど強くない呪いなら、軽い聖気の浄化で外れるもんだが……お前はな」
俺が聖気を使えることをクロープは知っている。
俺は頷いて、
「やってみたが駄目だったんだ。思いもかけず、他の人間にもかけられたが……結局ダメだった」
聖女ミュリアスが俺の体全体に聖気の祝福、という名の浄化をかけていた。
しかし、結果として外れていない。
ニヴの《聖炎》もあったが、あれは浄化とは性質が違っていたから、また別だろう。
まぁ、なんにしろ外れていないし、考えても仕方がないが。
「普通に浄化しただけでは外れん、と言うことだな」
「そういうことだ」
「うーむ……ロレーヌ、お前は何か方法は知らんのか?」
そう言ってクロープがロレーヌに水を向けると、ロレーヌは首を振る。
「私だって外せるものなら外してやりたいからな。色々調べてはみたが、あまり……」
ロレーヌも冒険者であり、依頼をこなすときはほとんどローブ姿だが、その下には軽鎧くらいは着るし、解体用や近接専用の短剣くらいは持っているため、ここにはたまに来る。
そのため、クロープとは顔見知りだ。
クロープはロレーヌの言葉に難しそうな顔で、
「そうか……お前でもダメか。俺の方でも少し、調べてみることにする」
そう言い、さらに俺とロレーヌの後ろに隠れているアリゼの方を見て、
「それで? 今日はそいつのってことでいいか?」
と尋ねた。
アリゼが隠れているのは、クロープが若干強面だからであろう。
細身だが迫力があるし、視線は一度見たら外さない男だからな。
この年頃の少女にはかなり怖く映ってそうである。
「……アリゼ、大丈夫だ。この男は見かけより優しいぞ。それに、レントの姿に怯えなかったお前が、今更普通の格好の人間に怯えるのは滑稽ではないか?」
ロレーヌがそんなことを言いながら、アリゼの背中を押して、前に出す。
骸骨仮面の暗黒ローブ男と、声のデカい強面の親父と、どちらが怖いのかと聞かれると……。
微妙じゃないか?
怖さの性質が違うよな。
まぁ、いいか。
「アリゼ、この人は俺が冒険者になってからずっと世話になってる鍛冶師のクロープだ。ロレーヌが言ったように見かけより怖くない。お前の武具を作ってくれる人だ」
俺がアリゼにそう言うと、アリゼも覚悟が決まったのか、しっかりと前に出て、
「……アリゼです。マルト第二孤児院の子供で、レントとロレーヌ師匠の弟子です。よろしくお願いします」
とちゃんと挨拶した。
そもそも、孤児院でしっかりと初めて来た俺の応対をしていたわけだし、出来ないはずはないか。
あのときと違って、今は頼るべき人間がいたからちょっと引っ込み思案なところが出た、というところだろうか。
ということは、俺が孤児院に行ったときは相当頑張ってたと言うことだろうな。
どれだけ怖がらせていたかを考えると、申し訳ない気分になる。今更の話かも知れないが。
クロープはアリゼの言葉に、
「ほう、ガキが俺に怯えないのは珍しいな。よし、よろしくお願いされたぞ。お前の武具を作ればいいんだよな?」
と、ぽんとアリゼの頭に手を乗せていう。
これでクロープは女子供にはかなり優しい。
だからこそ、ルカなどと言う美人を妻に出来たのだろう。
まぁ、よく見ると強面とはいっても、顔立ちも渋くて中々格好いいしな……。
俺?
俺は童顔と言われがちだったな。
今はどうだろう。
ロレーヌは……。
どう見ても大人の女性だな。
年相応かと言われると……うーん、難しいところだ。
強いて言うなら年齢不詳の知的美人と言う感じか。
何年たっても年食わなそうな見た目でうらやましい限りだ。
そんなこと言うと、俺も永遠に年をとらなそうではあるが。
アリゼは、クロープの言葉に頷いて、
「はい! よろしくお願いします」
と言う。
俺はそれに加えて、
「あぁ、武具の素材なんだが、迷宮で採ってきたんだ。まずはそれを見てくれないか」
と言った。
クロープはその言葉に片方の眉を上げて、
「ほう? お前もそのくらいのところに行けるようになったんだな……感慨深いな。よし、じゃあ全員こっちに来てくれ。鍛冶場に案内する」
そう言って歩き出したので、俺たちはその後ろについていった。
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