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第9章 下級吸血鬼
第158話 下級吸血鬼と提案

「おぉ、帰ったか。どうだった?」


 ステノ商会でのニヴたちとの話し合いを終え、ロレーヌの家の扉を開くと、そんな声がかけられた。

 ロレーヌのもので、これを聞くとやっと帰ってこられたか、という気分が心から噴き出てくる。

 今回ばかりは相当に危ない橋を渡ってしまった、という認識がある。

 少し不用意過ぎたかもしれないが、流石に素材を売りに行ってあんなのが現れるなんて想像もつかない。

 隕石が降ってくる並に珍しい出来事だ。

 まぁ、それでもニヴは、吸血鬼ヴァンパイアに対するあの嗅覚である。

 いずれ会ってしまってはいたのだろう、とは思う。

 

「色々と予想外のことが起こったよ……大丈夫だったけど」


「なに……? また何かおかしなことに巻き込まれたのか?」


 うんざりしたような顔でそう言うロレーヌ。

 しかし、話を聞いてくれるつもりはあるようで、


「とにかくこっちに来て、話を聞かせてくれ」


 そう言ったのだった。


 ◇◆◇◆◇


「……ニヴ・マリスと、ロベリア教の聖女とは……。考えうる限り、今のお前が一番会いたくない相手だな」


 大体のことを話し終えて、ため息を吐きながらロレーヌがそう言った。

 俺は彼女の言葉に頷いて、


「まったくだよ……ただ、ニヴは特殊な吸血鬼ヴァンパイア判別技術を持っていたが、俺には効かなかったわけだからな。今回は却ってツイていたのかもしれない」


「あぁ、《聖炎》か。故郷で使っている者を見たことがあるぞ。そのときは、滅多に使われない教会の秘奥義である、と言われてその詳しい内容は説明されなかったが……調べてみると面白そうだな。聞いても教えてくれなさそうだが。そもそも、基本的には聖気の素養がなければ見えないと言うことは、私が見たものは見えるようにしてくれていた、ということのようだし、見せてくれといっても協力は得られなさそうだ。しかし……なぜ、お前にはその判別方法が効かなかったのだろうな? お前は現実に……吸血鬼ヴァンパイアだろう?」


 そこのところは俺にとっても謎である。

 なにせ、ニヴは間違いなく判別できる、という自信を見せていたのだから。

 その事実を素直に受け取って考えるなら……。


「……もしかして、俺は、吸血鬼(ヴァンパイア)ではない、のかな?」


 ぼそり、と独り言のように呟いたその言葉に、ロレーヌは少し考え込んでから言う。


「……ないではない、話だな。そもそも、お前が吸血鬼ヴァンパイアだ、などと確定出来ているわけでもないのだから。骨人スケルトン屍食鬼グール屍鬼しき吸血鬼ヴァンパイア、と、不死者(アンデッド)系統の魔物として進化しているように見えるから、おそらくは吸血鬼ヴァンパイアなのではないか、と推測しているだけだ。そもそも、お前は骨人スケルトンの時点で骨人スケルトンですらなかった、というのも考えられなくもない」


 そう言われてしまうと、痛いと言うか、難しい。

 そもそも、俺の存在自体、何なのかよくわからない、というのが正直なところだからだ。

 魔物なのか、魔物でないのか、その辺りすら曖昧でよくわからないのが本当の話だ。

 けれど、それだと何も考察しようがないから、とりあえずは、魔物である可能性が高い、とか魔物であるとこうなるだろう、という理屈で俺の状態を考えているに過ぎない。

 したがって、もし仮に、今ロレーヌが話したように俺がそもそも最初から骨人スケルトンの形をした、骨人スケルトンではないなにか、だったのだとしたら……。

 もうどんな説明にも当てはまらない、ということになってしまうだろう。 

 そうなると将来の予測を立てる材料は俺が今まで辿って来た経過のみになるな。

 それでも、進化はしているし、通常の魔物の存在進化と似てはいるのは間違いないから、参考にするのはいいだろうが。


 その辺りのことは、俺よりもロレーヌの方が良く考えているようで、


「初めから普通の魔物と違うことは分かっていたわけだし、今更な話という気もしなくもない。今言ったような話だと、お前に《聖炎》による判別が効かなかったのは、お前が特殊だからだ、という、当たり前だろうという結論になる。そんなのは分かっているから、これはいいだろう。他の可能性としてはすぐに思い浮かぶのは、お前が普通の不死者(アンデッド)と異なり、聖気を使えることだろうな。そこが作用したのではないか?」


「聖気か……」


 ニヴの話によると、吸血鬼ヴァンパイアは聖気に弱い、ということだった。

 つまり、聖気を使える吸血鬼ヴァンパイアなどというものは、基本的に存在しないと言うことになるだろう。

 しかし、俺は使えてしまう訳だ。

 吸血鬼ヴァンパイアっぽくなってもまだ使える理由は分からないが、単純に考えるなら生前から使えたものだからそのまま引き継いだだけだ。

 使っている聖気は、昔と何一つ使い心地が変わらないのだから、それで間違いないだろう。

 この力を持っているから、他人のものとはいえ、聖気は俺に害を及ぼさない、というところか。

 《聖炎》はニヴ曰く、吸血鬼ヴァンパイアには苦痛を与えるものだ、という話だったが、俺にとって聖気はそのようなものではない。

 だから、効かなかった……。


 俺は吸血鬼ヴァンパイアでもなんでもない特殊な存在、という話しよりは受け入れやすいな。

 ロレーヌは俺に言う。 


「毒でも魔術でもなんでもそうだが、耐性のある存在にそれが通用しないのはいたって普通の話だからな。分かりやすいだろう。レント、お前の聖気は、確か故郷の村の祠を修理したときに得たものだった、という話だったな」


 ロレーヌには、俺がなぜ聖気を持っているのかは話してある。

 そもそも大した力ではなかったから、隠すようなことでもなかったというのもあった。

 当時の知り合いの中には、俺が全部持ちであることを知っている者はそれなりにいるのだ。

 すごい、珍しい、というよりかは、宝の持ち腐れというか、器用貧乏扱いというか、そんなものだったけれども。

 実際、それは正しい評価だったしな……。


「あぁ。大分ぼろぼろだったからな……というか、ほとんど森の木に飲み込まれかけてて、そこにそれが存在していることすら村の人間の大半は気づいてなかったんじゃないか? あんまりだと思って……周囲の蔦やら何やらを払って、綺麗にして、壊れているところは修理したんだ。手間はかかったが、その頃は冒険者になる前だ。時間はあったんだ」


 そう言った俺に、ロレーヌは、


「祠を直した、と簡単に言うが、そういうのにはそれなりの技術がいるだろう? お前は……」


「村の木工職人に色々と教わってたんだよ。もともと、そういう細かい作業は得意だからな。基本は身に付いてたし……あとは試行錯誤だ。いい修行にもなった」


「……器用な奴だな……。それで、冒険者の才能だけがなかった、というのも神は残酷なことをするものだが」


「そうとも言えないぞ。今、俺はこうして上を目指せているわけだしな。意外と神様は甘いのかもしれない」


「前向きすぎる。しかし、それがお前のいいところだな。ところで、その祠なのだが、何の神を祭っていたのだ?」


 ロレーヌがそう尋ねてきた。

 けれど、この質問に対する答えを、俺は持っていない。


「いや、分からないな。誰も見向きもしなかったような祠だし……まぁ、村の古老たちなら知っているかもしれないが」


「そうか……なぁ、レント、一度、その村に行ってみないか?」


 ロレーヌが急にそう言った。


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