「……信じていますよ。だからこそ、私は今、
そう言ったニヴの瞳は、何かよくわからない感情に彩られていた。
憧れか、怒りか、執着か……。
俺が
それとも全く違うものなのか……。
「そうですか……なぜ、とお聞きしても? こう言っては失礼ですが、それこそ
俺がそう言うと、同意するようにミュリアスが、
「そうです。ロベリア教の聖者が、その心臓を貫き、討ち滅ぼしたのですよ」
と続ける。
それを聞いたシャールは、
「……まぁ、ロベリア教ではそのように言われておりますが、他宗においてもうちの聖者が、と言っているところはいくつもありますからな。
と何とも言えない顔で言う。
ミュリアスはちょっとだけむっとした顔をしたが、実際言っていることは正しいので文句も言えないようだ。
シャールはミュリアスの手前、ロベリア教を否定するわけにはいかないのだろうが、そうならないところで一般論を言ったわけだしな。
確かに墓所については書物でそうだったと読んだ覚えがある。
一番有名なものがロベリア教が喧伝している墓所のようで、そこが間違いなく
ニヴもそう思っているようで、
「シャール殿のおっしゃる通り、墓所についてはどれも甚だ怪しいでしょう。そもそも、討伐した人物すらはっきりとはしていないのです。むしろ、討伐などされていない、と考える方が自然なのでは?」
と言った。
ここまでで出てきた事実だけ積み上げると確かにニヴの言っていることに説得力があるのだ。
ただ、一つ問題があるとすれば……。
「……
伝説によれば国一つ飲み込んだことすらあると言われる存在である。
それが事実かどうかは今となってははっきりとは分からないにしても、かなりの規模の被害があったのは間違いないだろう。
伝説の邪悪なる
しかし、ここ数百年で、かの存在の仕業だ、と見られるような災害は特に起こってはいない。
生存しているのなら、起こらないはずがないのに、だ。
それが、
けれどニヴは、
「奴は別に獣ではないのですよ? 自分が死んだと見せかけて、姿を隠すくらいのことはむしろ考えて普通でしょう。
そこは知らなかったことだな。
上位の
ニヴはその
しかし……上位の吸血鬼だと、血があんまりいらない、のか。
俺は一日三滴くらいあれば足りてしまうのだが……多いのか少ないのか。
やっぱ少ない方だよな?
気になって、ニヴに尋ねてみる。
「ちなみに、
「そう、ですね……個体差もありますから、一概には言えませんが……月に人間二体分、と言ったところでしょうか。概ね……そこにある花瓶十杯分もあれば足りると思います。中級であればその半分、上級であればさらにその半分、というところでしょうか。それよりも上となると、少ないでしょうが、もう一般論では語れないでしょうね」
ニヴは、飾ってあった花瓶を指さしながらそう語った。
花瓶の大きさは、それほどでもない。
あれに液体を入れたら、大体、コップ五杯分くらいが限界という所だろうか。
それを十杯分必要ということは……。
凄い多いな。
いや、俺が少なすぎるのか?
もしかして俺って、高位の吸血鬼?
とか思ってしまうが、おそらくは気のせいだろう。
個体差もあるというし……高位、というよりは特殊な、という感じの方がしっくりくる。
聖気でも判別されないしなぁ。
いつかしっかり自分がどういう存在なのか、分かる日が来るのだろうか。
……難しそうだな。
まぁいいか。
話を戻そう。
「……なるほど、分かりました。それで……お願いは
最後に確認である。
結局、彼女が求めているのはそれだろう。
ニヴは頷いたが、
「ええ、それでいいのですが……ただ、レントさんは見ても分からないでしょう?」
「それは……まぁ、そうですね。そもそも
それが分からないと探しようがない。
けれどニヴは首を振って、
「さっぱり分かりません」
といっそ潔くはっきりと断言した。
おいこらそれで探せってか、と突っ込みを入れたくなったが、至って真面目な表情なのでそれは言えない。
ニヴは続ける。
「もちろん、結構な無茶を言っていることは自覚していますよ。だからこそ、レントさんが勝てそうもない
あれは、そういう意味だったのか。
しかし……。
「私では
そういう話になるだろう。
ニヴはそう思っていると。
……まぁ、勝てないか。無理だな。分かってる。
ただ一応聞いてみたかっただけだ。
ニヴは言う。
「気を悪くされたなら、謝ります。ただ……
出来ないでしょう?
と言外に匂わせる。
出来ないよ。うん。
出来たらもう俺は
しかしニヴには出来るわけか?
いやぁ……怖すぎる。
とは言え、冒険者としては他人の強さがどのくらいなのかは気になるものだ。
俺は尋ねる。
「……ニヴ様は、それが出来ると?」
するとニヴはふっと笑って、
「まさか! ただ、
と思ったよりも堅実な返答をした。
なるほど、俺にはそれがないから無理、か。
納得だ。
まぁ、それに加えてニヴはもともと俺よりずっと強いわけだけどな……。
ともかく、話をよく理解した俺はニヴに頷いて、
「分かりました。そういうことなら……そのような
そう言って手を差し出す。
一応の握手だ。
和解と言うか、色々あったけどとりあえずちょっとだけ、仲直りを、という意味合いで、
ニヴはその手に少し目を見開いていたが、
「……ええ、よろしくお願いします」
と今まで見せなかった少し柔らかな笑顔を向けて、俺の手を握ったのだった。
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