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第9章 下級吸血鬼
第149話 下級吸血鬼と確信

「最近、迷宮で失踪者が出ている件についてはご存知ですか?」


 ニヴの話はそんなところから始まった。

 どこかで聞いたな、と思い出してみると、あぁそうだったなという件が一つ浮かぶ。


「……新人冒険者の失踪事件のことですか? 何人もいなくなっているとか」


 するとニヴは頷いて、


「そう、それです。私はそれを、吸血鬼ヴァンパイアの仕業である、と考えています」


 唐突に犯人の断定を行った。

 あれは今でも冒険者組合(ギルド)では犯人捜しをしているが、目星もついていないんじゃなかったかな?

 シェイラの話によると、というだけなので、もしかしたら本当はすでにある程度のところまで分かっているのかもしれないが……。

 しかし、それにしても吸血鬼ヴァンパイアが犯人とは。

 それが正しいのだとしても、俺は犯人じゃないぞ。


「……少し、無理やりすぎるのでは? 別に血を吸われた冒険者が見つかった、というわけでもないでしょう。それなのに、そんなことを断定するのは……」


 出来るはずがない、と思っての台詞だったが、ニヴは、腰に下げた魔法の袋から地図を取り出し、それをテーブルの上に広げだした。

 見れば、そこには色々な情報が記載してある。

 ただ、どれも吸血鬼ヴァンパイア関連のことばかりだ。

 何年の何月にどの吸血鬼ヴァンパイアがどのような規模で出現しどのようにして滅びたか、または生き残っているかが書かれている。

 これだけの情報、よく集めたものだ。

 吸血鬼ヴァンパイアに関する情熱は本当らしいなと、それだけで分かる。

 だからと言って好感も持てないが、まぁ、話は聞いておく。

 ニヴは地図から、西の方にある国の一つを指さし、説明を始めた。


「この国に、ルグエラという街がありますね。ここになりますが……ここで、半年ほど前に新人冒険者の失踪事件が起こっています」


「……それが?」


 良くある話だ、とは言わないが、ない話ではない。

 気にするほどのことでもないはずだ。

 しかし、ニヴは続ける、

 指を、東に移して、


「次はこちらです。ここにはオラドラスという街がありますが、やはりここでも新人冒険者の失踪事件が起こっています」


 次もか。

 それから、ニヴは徐々に東に指をずらしていき、そして最後にこの街マルトを指さして、合計で全部で十三の街で同様の事件が起こっていることを告げた。

 行方不明事件は徐々に東に進んでいるかのように、日付を追って、徐々に東にずれていっているのだ。

 これは……。

 そう思った俺の雰囲気を察したのだろう。

 ニヴは言う。


「お分かりの通り、行方不明事件は徐々に東進しています。そして、とうとう、ここに辿り着いた。ここまではいいですか」


「あぁ……」


「もちろん、これだけでも吸血鬼ヴァンパイアが関係しているとは断言できません。そもそも、この行方不明事件、十一の街においては特に公表されていませんでした。というか、普通に迷宮で亡くなったものとして扱われていました。私が自分ですべて確かめましたので、事実です」


 それは……どうなんだろうな。

 実際にそうだったのかもしれない。

 そもそも、迷宮で人が死ぬことは悲しい話だが普通のことだ。

 特に新人冒険者となれば、その頻度は否応なく上がる。

 数が多少、多かったとしても、それは結局深く潜りすぎる暴勇の持ち主がたまたま多かったのだろう、で済まされた可能性の方が大きい。

 事実そうだった可能性も低くはないだろう。

 だから俺はその点について尋ねる。 


冒険者組合(ギルド)はいつものこととあまり問題視していなかったのでは?」


「そういうところもありましたね。ですが、そのうちのいくつかは分かっていて隠していましたよ。というのも、そのいくつかの街において、屍鬼しきが数体確認され、討伐されているのです。金級になると見れる冒険者組合(ギルド)の資料の中に、吸血鬼ヴァンパイア関連の討伐記録があるのですが、不思議なことにそのことは記録に残されておりませんでした。ご存知の通り、屍鬼しき吸血鬼ヴァンパイアの眷属、吸血鬼ヴァンパイアがいなければ、基本的には発生しないものです。それに加え、その屍鬼しきたちは、失踪した冒険者たちそのものだった、ということでした」


 それを黙っていた冒険者組合の罪はかなり重い気がするが、まぁ、こんなものだろうなという感じもしないでもない。

 そんな俺の気持ちを察してか、ニヴも言う。


「……まぁ、それだけ分かっているのに言わなかった理由はなんとなく想像がつきます。なにせ、屍鬼しきの存在が明らかになると、街には冒険者が集まりますからね。一時的には街は潤いますが、冒険者組合(ギルド)からすると常に街にいてくれる冒険者たちから仕事を大量に奪って去っていく要らない祭りみたいなものですから。言いたくなかったんでしょう」


 酷い話だが、冒険者組合(ギルド)は清廉潔白な団体ではない。

 マルトにおいては比較的健全な運営がなされているが、他の街には他の街の冒険者組合(ギルド)の決まりがある。

 癒着だったり利権だったりにどっぷり浸かっている場合も少なくないのだ。

 もともと荒くれ者の集団だし、まぁ、ある程度はどうしようもない部分でもある。

 それでも基本的なサービスは提供できているのは、凄いのかすごくないのか……。

 まぁ、ちゃんとやれよ、冒険者組合(ギルド)、というところであろう。


 それにしても……つまり、吸血鬼ヴァンパイア屍鬼しきにされた冒険者たちが何人も見つかったということか。

 そういうことなら……。 

 ニヴは続ける。


「お話したことからも分かると思いますが、私は常に吸血鬼ヴァンパイアを探していますから、変わったことがあれば自分で探りに行くのを常としているんですね。まぁ、外れのことも多いのですけど、今回は完全に当たったとそれで思いました。それで、私も東進しつつ、他の街でも屍鬼しきが発生していないか確かめ、結果、いくつかの街で見つけました。見つけ次第、しっかり滅ぼしておきました。それで、最後に残った親玉を求めてここにやってきたわけですが……今のところ発見には至っていません。どこかに必ずいるはずなのに、です」


「もうこの街から出ていっている可能性もあるのでは?」

 

 東に進み続けている吸血鬼ヴァンパイアなのである。

 もういない可能性もあるだろう。

 これにはニヴも頷いて、


「まぁ、ないとは言えませんね。ただ、私の経験上、これだけの数の人間を狩った吸血鬼ヴァンパイアがそれをやめることはほぼ、出来ません。未だに新人冒険者の不自然な失踪がここで続いている以上、まだいると考えるのが自然ですし、いないとしても、他の街で人間の失踪が起こっているはず。今のところそう言った話は近隣の街や村から届いておりませんので、やはり、まだここにいるはずです」


 色々と見張っているらしい。

 方法は……金級になれば、冒険者組合(ギルド)の情報網を一部利用できるという話もあるから、それかな。

 それとも、ニヴ独自のそれか。

 分からないが……確信ありげである。

 おそらくは、正しいのだろう。


 しかしだ。

 

「それで、なぜ私を疑ったのです?」


 それが問題だ。

 俺はそんなに怪しかったのか?

 そう思っての質問だったが、ニヴは答える。


「私はこの街で吸血鬼ヴァンパイアを探すにあたって、ほぼ全員が怪しい、と考えて行動していますが、その中でも特に怪しい人物が何人かいました。特にレントさん。貴方は最近この街にやってきて、短い期間で銅級に上がり、タラスクまで一人で討伐してしまった。お分かりかと思いますが、絶対にいないとは言いませんが、そんなことが出来る新人は非常に少ないです。しかしもし貴方が吸血鬼ヴァンパイアなら……。そのようなことも無理ではありません。それに加えて、貴方はあまり人のいない時間を狙って活動している傾向にある。よくある吸血鬼ヴァンパイアの特徴の一つです。人目や日を出来る限り避けようとするからです。仮面やローブも、その肌の青白さや、口に生えた牙を隠すためのものと考えると……。要するに、見れば見るほど怪しかったのですよね、申し訳なかったですが」


 ……まぁ、納得というか。

 正直、全部正解なんだけども。

 意外とちゃんと調べて俺を狙ったんだな。

 吸血鬼狩りヴァンパイア・ハンターとして名高い理由がよくわかる。

 ミュリアスやシャールも、説明に一応の納得はしているような顔だ。


 しかしだ。

 俺は吸血鬼ヴァンパイアではないと保証されたのだ。

 色々疑われた見返りくらい求めてもよさそうだとここで思う。

 だから言う。


「……紛らわしくて悪かったとは思いますが……しかし、それで疑われては……」


「ええ、そうでしょうね。災難ですよね。よくわかります。私が言えたことじゃないですけど。でもまぁ、そういうわけですから、私としては今回のタラスクの購入代金にかなりの色をつけることで謝罪の気持ちとさせてもらえないかと考えています。それと、これは要らないかもしれませんが……」


 と先んじてくれるものを色々と提示した上で、ニヴが何か謎の物体を差し出してきた。

 ……紙、かな。

 そこに、冒険者組合(ギルド)の登録番号が記載してある。

 それがあれば、冒険者組合(ギルド)を通せば連絡がつけられるというものだ。

 まぁ、どれだけ時間がかかるかはどこにいるかによると言う甚だ微妙な連絡手段だけどな。

 特にニヴのような神出鬼没そうなタイプには……あまり連絡はつかないだろう。


「そんな嫌そうな顔しないで下さいよ。必要になるかもしれないじゃないですか」


「……その可能性は低そうですね……」


 出来るだけ関わりたくないからな。

 けれど、ニヴは不吉なことを言った。


「私、色々と調べたり考えたりすることも好きですが、何よりも勘が大事だと、よく、思うんですよね。その勘が言っているんですよ。レントさんは、いずれ、必ず、私に、連絡をくれる、と」


「……」


 勘弁してくれ、と思う。

 しかし……彼女の勘は、かなり当たっているということがこの状況で察せられる。

 なにせ、俺を吸血鬼ヴァンパイアであると判断したのだから。

 それで、俺が連絡をすると感じていると言うのは……あまりにも不吉すぎた。


 ……とにかく、もらうだけもらっておこうか。

 この紙には何か魔術とかかかっているかもしれないから、帰ったらロレーヌに見てもらおう……。

 深くそう思った。


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