「最近、迷宮で失踪者が出ている件についてはご存知ですか?」
ニヴの話はそんなところから始まった。
どこかで聞いたな、と思い出してみると、あぁそうだったなという件が一つ浮かぶ。
「……新人冒険者の失踪事件のことですか? 何人もいなくなっているとか」
するとニヴは頷いて、
「そう、それです。私はそれを、
唐突に犯人の断定を行った。
あれは今でも
シェイラの話によると、というだけなので、もしかしたら本当はすでにある程度のところまで分かっているのかもしれないが……。
しかし、それにしても
それが正しいのだとしても、俺は犯人じゃないぞ。
「……少し、無理やりすぎるのでは? 別に血を吸われた冒険者が見つかった、というわけでもないでしょう。それなのに、そんなことを断定するのは……」
出来るはずがない、と思っての台詞だったが、ニヴは、腰に下げた魔法の袋から地図を取り出し、それをテーブルの上に広げだした。
見れば、そこには色々な情報が記載してある。
ただ、どれも
何年の何月にどの
これだけの情報、よく集めたものだ。
だからと言って好感も持てないが、まぁ、話は聞いておく。
ニヴは地図から、西の方にある国の一つを指さし、説明を始めた。
「この国に、ルグエラという街がありますね。ここになりますが……ここで、半年ほど前に新人冒険者の失踪事件が起こっています」
「……それが?」
良くある話だ、とは言わないが、ない話ではない。
気にするほどのことでもないはずだ。
しかし、ニヴは続ける、
指を、東に移して、
「次はこちらです。ここにはオラドラスという街がありますが、やはりここでも新人冒険者の失踪事件が起こっています」
次もか。
それから、ニヴは徐々に東に指をずらしていき、そして最後にこの街マルトを指さして、合計で全部で十三の街で同様の事件が起こっていることを告げた。
行方不明事件は徐々に東に進んでいるかのように、日付を追って、徐々に東にずれていっているのだ。
これは……。
そう思った俺の雰囲気を察したのだろう。
ニヴは言う。
「お分かりの通り、行方不明事件は徐々に東進しています。そして、とうとう、ここに辿り着いた。ここまではいいですか」
「あぁ……」
「もちろん、これだけでも
それは……どうなんだろうな。
実際にそうだったのかもしれない。
そもそも、迷宮で人が死ぬことは悲しい話だが普通のことだ。
特に新人冒険者となれば、その頻度は否応なく上がる。
数が多少、多かったとしても、それは結局深く潜りすぎる暴勇の持ち主がたまたま多かったのだろう、で済まされた可能性の方が大きい。
事実そうだった可能性も低くはないだろう。
だから俺はその点について尋ねる。
「
「そういうところもありましたね。ですが、そのうちのいくつかは分かっていて隠していましたよ。というのも、そのいくつかの街において、
それを黙っていた冒険者組合の罪はかなり重い気がするが、まぁ、こんなものだろうなという感じもしないでもない。
そんな俺の気持ちを察してか、ニヴも言う。
「……まぁ、それだけ分かっているのに言わなかった理由はなんとなく想像がつきます。なにせ、
酷い話だが、
マルトにおいては比較的健全な運営がなされているが、他の街には他の街の
癒着だったり利権だったりにどっぷり浸かっている場合も少なくないのだ。
もともと荒くれ者の集団だし、まぁ、ある程度はどうしようもない部分でもある。
それでも基本的なサービスは提供できているのは、凄いのかすごくないのか……。
まぁ、ちゃんとやれよ、
それにしても……つまり、
そういうことなら……。
ニヴは続ける。
「お話したことからも分かると思いますが、私は常に
「もうこの街から出ていっている可能性もあるのでは?」
東に進み続けている
もういない可能性もあるだろう。
これにはニヴも頷いて、
「まぁ、ないとは言えませんね。ただ、私の経験上、これだけの数の人間を狩った
色々と見張っているらしい。
方法は……金級になれば、
それとも、ニヴ独自のそれか。
分からないが……確信ありげである。
おそらくは、正しいのだろう。
しかしだ。
「それで、なぜ私を疑ったのです?」
それが問題だ。
俺はそんなに怪しかったのか?
そう思っての質問だったが、ニヴは答える。
「私はこの街で
……まぁ、納得というか。
正直、全部正解なんだけども。
意外とちゃんと調べて俺を狙ったんだな。
ミュリアスやシャールも、説明に一応の納得はしているような顔だ。
しかしだ。
俺は
色々疑われた見返りくらい求めてもよさそうだとここで思う。
だから言う。
「……紛らわしくて悪かったとは思いますが……しかし、それで疑われては……」
「ええ、そうでしょうね。災難ですよね。よくわかります。私が言えたことじゃないですけど。でもまぁ、そういうわけですから、私としては今回のタラスクの購入代金にかなりの色をつけることで謝罪の気持ちとさせてもらえないかと考えています。それと、これは要らないかもしれませんが……」
と先んじてくれるものを色々と提示した上で、ニヴが何か謎の物体を差し出してきた。
……紙、かな。
そこに、
それがあれば、
まぁ、どれだけ時間がかかるかはどこにいるかによると言う甚だ微妙な連絡手段だけどな。
特にニヴのような神出鬼没そうなタイプには……あまり連絡はつかないだろう。
「そんな嫌そうな顔しないで下さいよ。必要になるかもしれないじゃないですか」
「……その可能性は低そうですね……」
出来るだけ関わりたくないからな。
けれど、ニヴは不吉なことを言った。
「私、色々と調べたり考えたりすることも好きですが、何よりも勘が大事だと、よく、思うんですよね。その勘が言っているんですよ。レントさんは、いずれ、必ず、私に、連絡をくれる、と」
「……」
勘弁してくれ、と思う。
しかし……彼女の勘は、かなり当たっているということがこの状況で察せられる。
なにせ、俺を
それで、俺が連絡をすると感じていると言うのは……あまりにも不吉すぎた。
……とにかく、もらうだけもらっておこうか。
この紙には何か魔術とかかかっているかもしれないから、帰ったらロレーヌに見てもらおう……。
深くそう思った。
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