それにしても数が多い。
二、三匹ならある程度の余裕を持ってさばけただろうが、十匹近いのではないだろうか。
そんな数の
森の中での戦闘は別に初めてというわけではないが、俺が探索したことのある森など、せいぜいがゴブリンかスライム、最悪でも
もちろん、ここに来るにあたって、
まず、場所がつかみにくい。
視覚でどうにか探そうとしても木の影や枝の裏をちょろちょろしているのですぐに見失ってしまう。
本当なら魔力や気でもってその位置を探すのが正しいのだろうが……そういった魔力の扱いは俺はまだ、修行中であるし、気も基本的技術のみ身に付けているだけで周囲の状況を感覚を広げて察知するような方法は学ぶ前に才能の枯渇でもって脱落している。
聖気はそういう意味ではまるで役に立たないし……。
もう単純に気配を感じてどうにか頑張るしかないだろう。
近づいてきた
蔓にぶら下がっているのがイライラする。
火をつけてやろうか?
いやいや……それをやって山火事になったら俺が火葬されてしまう。
また骨に戻るのは嫌なのだ。
素直に伸びている蔓を掴まれないように地道に切り落としていくしかあるまい。
間断なく襲われながらだとかなり辛いが……仕方がない。
せめて向こうの連携をもっと散らせたら、と思うが、俺には難しいだろう。
木をよじ登っても追いつけるはずもないし……と悩んでいると、
「ヂュッ!」
と、鳴き声がして、エーデルが両足に魔力を込め、木をひっかきながら物凄い速度で登りだした。
あんなこと出来るのか、と俺は驚く。
なぜかと言えば、俺は出来ないからだ。
魔力を足に込めてもあそこまで器用に駆け上がるのは難しい。
おそらくは木を強化した爪で素早くえぐることでとっかかりを得てあの速度を出しているのだろうが、俺が同じことをやると木が凹み、数段上った時点で華奢な木なら割れてしまうだろう。
体の小さいエーデルだから出来る方法だった。
それから、俺が地上で
「……キィッ!」「キキッ!」
という甲高い鳴き声が上空から聞こえてきて、直後、地面にぼとりと
その体にはひっかき傷がたくさん刻まれており、明らかにエーデルにやられたものだろうと分かる。
ただ、致命傷にまではなっていないようで、地面に体を叩きつけられながらも急いで木を登ろうと立ち上がるが、そんな隙を俺が見逃すわけもない。
即座に飛び掛かって袈裟斬りにしていく。
さほど気を遣って切らないのは、
皮は薄く、毛皮としてもとげとげしていて需要がない。
食用としても味が悪く、せいぜい魔石が採れる程度だ。
そのため、これだけ適当に、かつ大きな傷をつけても問題にはならないのだ。
次々に落ちてくる
どすり、と少し重い音がしたが、怪我はないようである。
丸々としていて、結構な量の脂肪が身に付いているからクッションになったのかもしれなかった。
まぁ、無事なら何よりだ。
何が起こっているのかさっぱり見えなかったからな……。
一応、聞いてみれば案の定、上で
まるで見えなかったが、落ちてきた
ソロで戦っているとこういう役割分担が出来なかったから、敵の性質によってはかなり助かる。
もちろん、これから何があるかわからないから、こういうときにも一人でもなんとかできるように訓練しておかなければならないけどな。
さて、解体だ。
今回は魔石を採るだけなので、すぐ終わる。
十匹程度だが、そこまで大きなものではないので嵩張ることもないだろう。
しかし、こんなに
エーデルに周囲を警戒させて、出来るだけ
◇◆◇◆◇
それが、アリゼと、俺が
魔石はたった今、確保した
欲を言うならもう少し質のいいものが欲しいが……なにせ、
探せばもっといいものがあるはずだ。
ただ、
錬金術的に、
同じだと魔力が偏って扱いにくい杖になりがちだ、という話だった。
もちろん、バランスのいい杖にするためにはしっかりとした製作者の調整が必要だが、アリゼと俺にはその調整の仕方も含めて教えるつもりだから、別々の魔物から素材を集めてもらわないと余計困ると言うことだった。
場合によっては偏った性質の杖もいいが、とりあえずは基本からだ、ということらしい。
そうなると……うーん。
三階層だと難しいかもな。
もう一階層、あとで頑張ってみるか、と思った俺である。
しかし、
戦う相手として難しいのはもちろんだが、
森の中だと特に、である。
森の木々に紛れて、どれが
それもそのはず、
そのため、見分けようとしても見分けられるものではない。なにせ、同じものなのだから。
ただ、魔力が凝っているわけだから、熟練の魔術師の目には違いが分かるようだが、俺には当然それはまだ、出来ない。
あとは、魔道具屋などで販売している、魔力を少しだけ視覚化してくれるメガネを使うくらいしか方法がないが、あれは高い上にほとんど使い捨てだ。
一日程度で効果が切れるというふざけた仕様で、そんなものに金を払う気にはなれない。
結果として探すのに難儀しているわけで、買っとけばよかったと絶賛後悔中なわけだが……。
まぁ、今更の話だ。
俺は最後の一つ、一番メジャーで、かつ安全性に疑問符のつく方法を試しているところだった。
それはつまり、それっぽい灌木をべしべし叩く、という方法である。
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