4.痛すぎる〝でっちあげ市長〟
「なんと申しましょうか…」
股間に硬球が直撃して苦悶する選手の痛みをこう代弁してファンの微苦笑を誘ったのはプロ野球の名解説者と評された小西得郎だったか、そのセリフを今しみじみと思い出している。まさに「なんと申しましょうか」な、笑うに笑えない滑稽な失態を安芸高田市の石丸市長がまたも私たちに見せてくれたからだ。
選挙時のポスター印刷代金を踏み倒すという「セコすぎる」案件で訴えられた裁判の控訴審で、一審につづいて敗訴した彼が全国民に微苦笑を誘ったのが去年の12月13日。皆さまにも記憶に新しいところだろうが、その余韻も冷めやらぬ同月26日に「でっちあげの恫喝発言で名誉を毀損された」として訴えられたいわゆる『恫喝裁判』でも敗訴。政治家としての資質に疑問符がついたばかりか、その人間性をも疑われることになったのだ。
先の例えで言えば1イニングに二度も股間を直撃されるというコントを演じて見せてくれたわけだが、今回の案件は、みずから仕かけた罠にみずからハマってしまったテイの自業自得。とんでもない悪球に手を出して打ち損じた自打球を股間に食らったようなもので、同情どころか哀感すら誘われもしたのだった。
「いったい、何やってんでしょうね」
これは敗訴したその日に子飼いというか共犯ともいえそうな広島ホームテレビ(そういえば最後にテレビ出演したのはここだったが、あのときはギャラどころか粗品すらもらっとらんぞ・笑)のクルーを呼んでの仕込みインタビューで縷々語った、いつもの意味不明な言い訳、負け惜しみのセリフのひとつで、裁判そのものを陳腐化しようと試みたものだが、そのまま安芸高田市民が彼に投げ返したいセリフだろう。
「いったい何やってんでしょうね、あの方は」(笑)
またしても空振りした〝論破芸〟
ことの発端は石丸が市長に当選した直後、2020年の9月25日に遡る。この日開かれた市議会の本議会中に、T市議が急性の疾病で居眠りをしてしまったことから騒動ははじまった。
この居眠りを見とがめ(利用し)た石丸市長が、その日ツイッター(現「X」)に投稿。
「一般質問中に、いびきをかいて、ゆうに30分居眠りする議員が1名。」と、もってまわった表現でネット民を煽ったのだ。
この市長の投稿を問題視した市議会側が石丸市長と協議するために、市長に声をかけて全員協議会を開催したのだが、その協議の場において恫喝発言があったとして、その翌日の10月1日に石丸市長がツイッターに「数名から議会に批判をするな、選挙前に騒ぐな、事情を補足してやれ、敵にまわすなら政策に反対するぞ、と説得?恫喝?あり。これが普通かどうかわかりませんが、実態なのは確かです。」と、火に油をそそぐような投稿を重ねたのだ。
この投稿の内容そのものが石丸市長がでっちあげた恫喝発言だったわけだが、この文末で「実態」なのは「確か」です、とわざわざ同義語をくどく重ねて念を押しているところがキモで、これも石丸市長お得意の〝反語〟というべきか、「じつは捏造した嘘」がバレないように巧妙に二重ラミネートで隠してみせたというところだろう。
それはさておき、この架空の恫喝発言を発端に、石丸市長は名誉毀損へと至る架空劇をつくっていくことになる。あることないこと投稿を連発して市議会を悪役に仕立て、特定議員(原告)の評判を貶めて〝情弱ネット民〟の好餌に仕立てていき、この戦略にまんまとノセられたネット民が脊髄反射して騒ぎだしたことから、YouTubeを中心にした「石丸市長は正義のヒーロー!」の、はた迷惑な正義の押し売りごっこ、不毛で空疎なネット騒動が現出することになった。なんのことはない、でっちあげの発言にさらに嘘を脚色して石丸本人が書き上げた台本、それを情弱ネット民が演じてきたチープな騒動劇、それが今につづく〝石丸劇場〟の実態だったというわけだ。
当初は、この「エセ勧善懲悪もの」は連日満員御礼の好評を博していた。ところが脚本・演出・主役の石丸には誤算があった。まさかの証拠、「恫喝発言はなかった」こと証明する全体協議会の録音テープが登場したことで石丸ヒーロー物語りはにわかに暗転、舞台が司法の場に移されたことで、正義のヒーローが実は名誉毀損をしていたヒーラーだったことが露見するというドンデン返しの終幕を迎えたのだった。
ご本人は前述の協議会のなかで「ツイッター(X)には何を投稿してもいい」と豪語していたらしく、もちろん「何を」の中には嘘も含まれていたわけで、彼がその場その場で思いつきで嘘を重ね、それを指摘されるとさらに出まかせのいい言い訳で屋上にさらに屋根をかけるようなマネをしてきたことを私たちは知っている。その彼の正体が司法によって法的に認知されたといっても過言ではないだろう。
繰り返しになるが、今回の裁判沙汰は石丸市長本人の恫喝発言でっちあげからはじまった。そして、その虚偽の発言を真実のごとく装うために特定の市議(原告)を犯人にでっちあげ、個人攻撃の投稿をつづけることで相手の評判を貶め名誉を毀損した。
その嘘の数々、虚偽発言の足跡をここで一つ一つ追ってみても、かえって虚構の迷路に誘い込むことになる。その検証は裁判官という適任の審判が法的に、また客観的にジャッジメントしてくれた。
いわく、
「被告石丸による本件各投稿は、いずれについても原告の名誉を毀損するものといえる。」
つまり「石丸伸二は、みずからの野心のためなら恫喝発言をでっちあげることも厭わない人物である」そう断じられたにひとしい。
石丸市長は前回の印刷代金踏み倒しという、まるで食い逃げ犯のごときセコい案件で訴えられて敗訴。さらに控訴審でも敗けている。そして今回は恫喝発言をでっちあげて他人の名誉を毀損するという、およそ公人にはふさわしくない卑劣な行為をしていたことが露見した。こういっては失礼だが、安芸高田市議会という狭い世界では効力を発揮してきた彼の〝論破芸〟も、一般社会の法規を体現する司法の場ではチープな言い訳にしか映らず、偽証まがいの弁明(みずから記したという怪しいメモで立証を試みるなど)はふたたび苦笑を誘う陳腐なコントに終わってしまったということのようだ。
選挙ポスター代金の未納裁判では、彼は非常識な『行動』を断罪された。さらに今回の裁判では恫喝発言をでっちあげ、その虚言を正当化するために嘘に嘘を重ねたという『言論』を咎められた。まさに彼の『言動』がコンプライアンスに違反し法に抵触していたことが公になったのだ。
そもそも選挙公約が嘘だった?
ここで彼が市長選に立候補したときのことをいまいちど思い出してみよう。そう、彼が権力を手にするためにまだ市民の前ではネコを被って「清廉で礼儀正しい青年」を気取っていたときのことだ。
上の政治ビラで彼は「何を目指すの?」と題して次のことを公約していた。
①政治再建、②都市開発、③産業創出を柱に、「この先も世界で一番住みたい」と思えるまちを目指します。
その冒頭で彼は以下のように記していたではないか。
まずは、法令等の遵守(コンプライアンス)を徹底します。コンプライアンスとは、法律や規則を守るのはもちろんのこと、その基となる社会規範に順じて行動することを意味します。
もちろんこの公約は、前市長が河井事件に端を発した贈収賄というコンプライアンス違反の責任をとって辞任したのを受けての市長選で、自分がいかに清廉な人物かをアピールするために持ち出してきたアピールなわけだが、これがただの口当たりのいい見せかけのお約束に過ぎなかったことを私たちは再認識させられることになった。
これを公約に石丸が市長に当選したのが8月12日、例の恫喝発言をでっちあげて投稿したのは10月1日のことだ。わずかひと月半ののちにはコンプライアンスに違反して違法行為に手を染めていたことになるわけで、その節操のなさにはあきれるばかりだ。
いまこの一文を、私たちは「なんと申しましょうか…」と、苦笑しながら味わうほかはない。
前市長は贈収賄という政治の文脈で起きた不祥事を問われ辞任した。その混乱に乗じて当選した新市長は、恫喝発言すらでっちあげて市民の付託を受けた市議の名誉毀損するという、コンプライアンスそのものを踏みにじるような想定外の市長だった。その皮肉をいま安芸高田市民は複雑な思いで噛みしめていることだろう。
全国に自治体は1700あまりあるそうだが、こんな前代未聞な人物が首長をしている地方自治体はほかに例はないだろう。
今回の裁判で原告側の代理人となった弁護士が判決後に、いみじくも語っていた。
「このような、首長にしてはいけない人物を選んだ市民の責任ですよ」と。
この過ちは、ふたたび繰り返して欲しくはない。
(ちなみに、この会見の場で原告側弁護士が石丸のでっちあげ恫喝発言によって多大な心労を被った原告を代弁して、広島ホームテレビを名指しで非難したのは異例のことだった。当のディレクターがカメラを回していて「僕たち公正な取材をしています」と笑わせてくれたが、その足で速攻で前述した石丸の弁解インタビューを撮りに行って、彼の一方的な弁明をまたぞろユーチューバーの切り取り動画のために公開していたのだから、何をかいわんやだ)
「20年後に安芸髙田市は滅びます」
そんなたわ言を吹聴して石丸市長は市民に不安を煽っているらしいが、そこまで待たずともご自身が再選でもされたら、その任期の4年も待たずに安芸高田市は倫理的に破綻することになるだろう。
そのご当人はきょう、「安芸高田市の公式チャンネル登録者数が自治体として #東京都 に並ぶ日本一を達成しました」とXに投稿して、裏アカ空アカ混じえたネット支持者と盛り上がってタコ踊りを披露していたようだが(しかも実際はまだ上に神戸がいて、でっちあげのランクだったというオチまでつけて)、もう公約もへったくれもなくなってしまったいま、彼の政治的リアルはネットの中にしか存在していないのかもしれず、すでに安芸高田市の行政は瓦解しつつあるといってもよさそうだ。
(文中敬称略)
◉この原稿は修正・加筆中です
✻2024.1.17に加筆しました
✻2024.1.18に加筆しました
✻2024.1.19に一部修正しました
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