第5話 夜半の侵入者
時刻は午前〇時二十分頃である。小雨が降り、風は微風。月は綺麗に隠れていた。
小雨自体は気にならないが、匂いが流れてしまうのが問題だった。そのせいで、得られる情報が制限されてしまう。
「四月の夜行、今年はいつだ?」
「八日の
都市の外周に巡らされた城壁の上で警護にあたっているのは、妖怪であり術師資格を持つ若者の守衛術師だ。学園の卒業生であり、葉傀という組織に所属する術師でもある。
百鬼夜行——それは、妖怪の祭りだ。昔から起こる日が決まっており、彼らが言っているのは四月の午の日のことだ。三月と四月は午の日に夜行が起こるのである。
「学生連中も夜行が楽しみなんだろうな。
「だからって若い子に粉をかけるの、お前やめろよ。俺まで馬鹿っぽく思われるだろう」
犬妖怪の青年は肩をすくめ、真面目に注意したカマイタチの先輩は外周を見下ろした。
都市の向こう側は森林になっている。山がちな土地であり、渓谷や湖沼なども見られた。
全くの闇夜だが、妖怪の多くは夜目が利く上、術師は基礎的な強化術の一環で暗視能力を身につける。
元来妖怪や術師——彼らは闇に紛れ暮らす生き物だったのだ。人間の術師もその特異な才能ゆえ人里では疎まれていたし、結果的に妖怪と同じ生き方を選んだ経緯がある。
と、犬妖怪が目を眇めた。
「どうした?」
「この区域に学生が仕事に出てる記録なんてねえよな」
「先輩に向かって口の利き方……。確かに、ないが」
「誰かが魍魎と戦ってる。あそこ」
犬妖怪が指差した。カマイタチが目を細めると、確かに草木が揺れて、微かに戦闘音が響いている。
魍魎と原住生物の争いとも思えたが——それにしては激しい。
カマイタチは念話で〔第七区域に侵入者の恐れあり。調査に向かう。城門周辺及び城壁上部の守りを固めろ〕と伝え、犬妖怪に顎で下を示した。
二人は壁から鉤縄で下に降りていく。頑丈なグローブが発火しそうなくらいにギュッと縄を握り、地面激突寸前で止まった。
「あちっ、あちち……」
「こっちだ。くそ、雨のせいで匂いがしない」
これで雨が上がってくれれば、蒸発した水分に乗って地上の匂いが上昇し、上にいる仲間も気づいただろうが——相手如何によってはその対策すらしていそうだが、無断で外に出ている悪ガキくらいならばそんなこともできまい。欺瞞の術は、言うが易し。意外と高度なのだ。
カマイタチを先頭に、二人は森を進んだ。彼らの等級は二等級。大半の術師が二等級で御の字、一等級で頭打ちとなることを踏まえれば実力者と言える。
手にした脇差を抜刀したカマイタチを見て、犬妖怪も妖力銃をホルスターから抜いた。
「見てみろ」
「冗談、だろ」
今まさにこの世界との
二人はごく、と生唾を飲んだ。人数にもよるが、相手が一人だとしたらそいつは二等級以上。三等級の術師が二等級の魍魎と同格とされるのが常であるため、そう判断するが——それ以上である可能性も——、最悪、一等級なんてことも。
「っ、先輩!」
樹上から何かが降ってきた。二人は後ろに飛び退く。降ってきたのは黒犬という獣妖怪だ。尾の数は一本。まだ、人語も話せないレベルだろう。
それが三体。唸り、吠え、攻撃を仕掛けてくる。
「構うな、迎撃しろ!」
「わかってる!」
飛びかかってくる黒犬に、カマイタチは素早く脇差を振るった。首筋を狙った飛びかかりに、半身になって回避。すれ違いざま、尻から頭部にかけて一閃して上下に切り分ける。
血飛沫が上がり、カマイタチは頭を狙う爪の一撃を屈んで避けた。そこへ、犬妖怪の射撃が襲いかかる。
妖力の弾丸が黒犬を吹っ飛ばし、最後の一体が変化した。大きな、ヒグマほどの大きさになる。
「体重は変わらん。所詮犬だ」
「俺にそれを言いますかね」
犬妖怪が上着を脱ぎ、本来の姿に戻った。完全な犬ではなく、二足歩行の半獣人であった。筋骨逞しい上半身が逆三角形に膨らみ、髪の毛と同じ赤茶色の毛皮に覆われる。顔もマズルが伸び、犬というか狼のような外見に。三本の尾が、蛇のように揺れる。
ヒグマ並みに巨大化した黒犬と茶髪の犬獣人が組み合う。互いの首筋に食らいつくが、犬妖怪の方が圧倒的に咬筋力が優っていた。毛皮を引き裂き、肉を噛み裂く。血が滲み、しかし相手も負けじと頸椎を噛み砕こうとしてきた。
そこへカマイタチが本来の姿に戻り、鎌と一体化した前足で相手の喉を両断した。
小柄なイタチは、柴犬ほどの大きさしかない。しかしその切れ味は先ほど握っていた脇差以上だった。
二人から二匹になった守衛の術師は、周囲を睨む。
「罠だったみたいだ。呪術師——ああ、十中八九呪術師のクソ野郎は通り抜けた」
「懲罰問題だなこれ。祭りまでに懲罰房から出られりゃいいけど」
若い二匹の妖怪はそう軽口を叩き、しかし祭り云々より呪術師の存在を危惧していた。
何はともあれ、しっかり警告せねばなるまい——。
葉傀学園戦記 — あやかしだらけの学校で最強の妖術師を目指します! — 夢咲蕾花 @FoxHunter
ギフトを贈って最初のサポーターになりませんか?
ギフトを贈ると限定コンテンツを閲覧できます。作家の創作活動を支援しましょう。
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。葉傀学園戦記 — あやかしだらけの学校で最強の妖術師を目指します! —の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます