「お花見に行きましょう!」
「お、いいね」
日本の心には桜がある。
ゲームによっては春になると桜が咲いたりもする。
あと、幕末みたいな日本をモチーフにした作品とかだと普通にお花見イベントとかあるよ。
幕末で見えるのは血の花と花火だけど。
お花見イベント最悪だったなあ。
火薬の威力が倍加したうえで、プレイヤー全員に一定量配布されるっていう。
ちなみに最適解は配布火薬を強奪したうえで、集積させて作る超広域殲滅爆弾を作るのが最適解だ。
 他のプレイヤーに背負わせて、機動性を確保する爆弾付きドローン天誅も悪くないが、
「お花見って何をすればいいんでしょうか?」
「まあ、ご飯を食べて、
「明日、楽しみにしてますね」
「ああ」
「じゃあ、また明日!」
「おう、また明日」
端末を見ると、明日はほぼ間違いなく快晴らしい。
紅音の家の前で、「ただいま!」という元気な声を扉越しに聞きながら。
ゲーム以外のモチベーションで、明日を待ち望むのなんていつ振りだろう。
◇
「おはようございます!」
「うん、おはよう」
翌朝、桜の木がある河川敷の公園にて、俺と紅音は待ち合わせていた。
俺は先日購入したレジャーシートを。
紅音は、二人分の弁当箱を。
本人曰く、「早起きして作りました!」とのことである。
桜が咲き誇っている中、俺たち以外の人気はない。
元々、あまり人が来ない公園を選んだというだけのことはある。
ジョギングをしたりしているので、ここら一帯のことはよく知っている。
最近は単なる身体パフォーマンスの維持、というだけではなく、紅音と一緒に行動をするという意味合いも含んでいる。
おかげで最近足がどんどん速くなっている。
いい兆候だ。
どこからか紅音との関係を嗅ぎつけた暁ハートたちからの逃走確率が上がっていく。
まあ、大体逃げられないんだけどね。
AGIはともかく、回避率はパラメーターに存在しない。
サッカーのドリブルとかを学習したらどうにかなるのだろうか。
「やっぱり卵焼きは甘いのがいいですね!」
「伊達巻好きって前に言ってたもんな」
「はい!お正月になったら作るので、楽郎さんも是非食べに来てください!」
「それだとご両親に対面イベントもあるよなあ、スキップできないかなあ」
「えへへ、ご挨拶ですか。私も楽郎さんのご両親に挨拶したいです!」
「う、うーん。外堀がシミュレーションゲーム並みの速度で埋まっていくう」
紅音の作ってくれた弁当を食べて。
笑って、景色を楽しんで。
「あの、楽郎さん」
「何でしょう」
「ちょっとお願いしてもいいですか?」
少し、照れたように笑いながら、紅音が問いかけてきた。
「膝枕って、これ俺が頼むものじゃない?」
「え、そうですか?私がやりたかったので、つい」
「そっか、まあ、それなら全然いいけど」
柔らかい太腿の感触だとか。
顔を上げるとどうしても視界に入ってくる胸部装甲だとか。
紅音の、爽やかで甘い匂いだとか。
いろんなことが同時に五感を通じて入ってきてしまう。
「こうやって、のんびり過ごすのもいいよなあ」
趣味が寝転がって出来るものである都合上、俺のスケジュールはギリギリまで凝縮されている。
こういう時間も悪くないと、思えたのは人生で初めてのことで。
「私も、楽郎さんと過ごせてうれしいです!」
彼女の満開の桜みたいな笑顔も、同じ気持ちだと語っていた。