私が懸けるは憧れの果て


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作:折本装置
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番外編・桜花爛漫


「もう桜が咲いてるんだ……まだ三月なのに」

 

 

 

 夕方、帰り道、桜を見て私は呟きました。

 

 

 

 今日は、春休み。

 私は、部活動も今はないので、自主練習を終えた後は帰宅しています。

 普段なら、楽郎さんとメッセージのやり取りをするのですが、彼は今、親せきの集まりに参加しているらしいです。

 私も、お祖母ちゃん、お祖父ちゃんのお家に帰省することはあるのですが、何でも楽郎さんの親せきの集まりは、何十人にも及ぶ大規模なものだそうです。

 数十人が一か所に集まったら、とても賑やかになりそうですね。

 いずれ、もしかしたらですけど。

 

 

 

「わ、私もその中に(・・・・)、だなんて」

 

 

 

 いえいえ、それはさすがに気が早すぎますよね!

 楽郎さんは大学への進学を予定されているようですし、私もそれは同じです。

 そして大学に入学して、卒業して、就職して。

 そしたらその時はきっと結婚出来たら、なんて。

 どうしましょう。 

 考えるだけで、顔が熱くなっていくのがわかります。

 にやけてしまっています。

 

 

「会いたいな……」

 

 

 

 忙しいのはわかっていますし、連絡も取れるかわからない、とも言われています。

 けれど、それでもなお会いたいと思ってしまうのは我儘でしょうか。

 いえ、我儘ですね。

 四月からは、新生活が始まりますし、そうなるとしばらく会えなくなる可能性もあります。

 もちろん、楽郎さんが帰ってきてから会えばいいのですけど。

 

 

 ◇

 

 

 

 晩御飯も食べ終わって、お風呂に入って。

 今日は少し早めに寝ることにします。

 ゲームをしてもいいのですが、今からやり始めると寝るのが遅くなってしまいます。

 

 

「あれ?」

 

 

 

 携帯端末を見ると、電話がかかっています。

 かけてきたのは、今一番会いたいあの人。

 私は、今寝ようとしたことも忘れて、ボタンをタップしました。

 

 

「もしもし。いま、起きてる?」

「楽郎さん、どうかされたんですか?」

「いや、ちょっと話したくて。いま、シャンフロにログインできる?」

「できます!」

 

 

 

 私は、VRヘッドセットをつけて、ログイン。

 あらかじめ、メッセージで待ち合わせをする場所を指定することによって合流できました。

 

 

 

 ◇

 

 

「少しだけ、話がしたくてさ。春休みは、お互いバタバタしてあんまり会えてなかったから」

「わ、私もいっぱいお話ししたかったです!」

 

 

 少しだけあっていなかっただけなのに、柄にもなく緊張している。

 その一方、無事に会えてうれしいと思っている自分もいる。

 親戚を躱して、やっと手に入れた短い自由な時間だ。

 確実に、プランを成功させねば。

 

 

 

「秋津茜」

「はい、なんでしょう!」

「誕生日、おめでとう」

「……え?」

 

 

 

 気づきましたか。

 今日は、いや、昨日は三月二十四日。

 そして今は、三月二十五日の零時零分。

 隠岐紅音の誕生日。

 俺と彼女が付き合い始めてから、初めての誕生日。

 直接会えなくても、せめて祝いの言葉を伝えたかった。

 家族よりも、友達よりも、誰よりも早く。

 この、俺達が初めて出会った電脳の海の世界で。

 

 

 

「あ、ありがとうございます!」

「ま、付き合ってはじめての誕生日だからな」

 

 

 

 待ち合わせに使ったポイントは、桜に似た花が咲く木の下だ。

 彼女には、桜吹雪が似合うと、俺はいつも思っている。

 

 

 

「桜がきれいです……」

「桜、ソメイヨシノは元々全部同じ木から生えてきたクローンなんだってさ」

「そうなんですね!」

 

 

 

 純粋に驚く、紅音。

 彼女を見ていると、なんだかそれを前置きにしてしまう自分がどうにも情けなく思えてくるが……まあいいや。

 俺にとっては、それよりも重要なことがある。

 

 

「だからまあ、俺が見てる桜も、君が見ている桜も、ほとんど同じものなんだよなっていう話だ」

「あ……」

 

 

 

 ある意味で、このゲームと同じなのかもしれない。

 VRゲームのシステムは、互いの夢を共有するというものだ。

 違う場所にいる、違う二人が、ほとんど同じものを見て、感じて楽しんでいる。

 それほど、俺達の関係を表せるものはないって思うから。

 

 

 

「楽郎さん!」

 

 

 

 忍者の装束をつけたまま、彼女は俺に抱き着いてくる。

 いやあの、こっち半裸なんだけど。

 というか、こっちで本名はまずいって。

 

 

「好きです!大好きです!」

「お、おう。うん、俺も好きだよ」

「えへへ……」

 

 

 ああもう。

 彼女に抱き着かれると、こっちでもあっちでもまあいいか、という気分になってしまう。

 彼女の声が、好きだ。

 電脳の世界でも変わらない、明るい声。

 彼女が発する雰囲気も好きだ。

 こうして一緒にいると、俺は彼女のことが好きなんだなと改めて実感する。

 

 

「俺が帰ってきたら、一緒に花見でもするか」

「はい!」

 

 

 

 とりあえず、レジャーシート買いに行かないとな。




ハッピーバースデー!


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良かったら読んでみてください。
9/10 



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