私が懸けるは憧れの果て


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作:折本装置
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 本日四限目は、英語のクラスだった。

 ここの英語教師はちょっと変わった教師であり、ランダムでペアを作らせる。

 そのためにアプリをわざわざ使っているのだから、謎である。

 そのモチベーションはいかにして生み出されているのだろうか。

 いずれにせよ、まったくのランダムでグループは作られる。

 だから、この出会いも偶然だった。

 

 

「陽務さん!一緒にお昼どう?」

「うん!いいよ!」

 

 

 隠岐紅音と、陽務瑠美。

 同じクラスではあったが、今日まで特に会話したこともなかった。

 瑠美の方が、バイト付けだったり、紅音が部活に精を出していたりと絡みがなかったのである。

 しかし、今日たまたま英語の授業でペアになった。

 そして授業が終わった後、紅音は瑠美をお昼に誘った。

 それまで特にかかわりがなかったが、瑠美はノータイムで受け入れた。

 コミュ強である。

 

 

 

「え、陽務さんって読モやってるんだ!すごいね!」

「ありがとう!でも隠岐さんもすごいじゃない、雑誌見たよ!」

「うん!まだまだ頑張らないと、だけどね!」

 

 

 クラスでも一、二を争う美少女である紅音と瑠美の組み合わせは、はたから見ても美しいものであり、周囲の目を引いた。

 割って入れるものは皆無だったが。

 

 

「そう言えば、隠岐さんって休日とか何してるの?」

「走ってるのと、あとゲームしてるよ!」

「へえ、どんなゲーム?」

「ええと、シャングリラ・フロンティアとか、あとはベルセルク・オンライン・パッションとかかな」

 

 

「……ふーん。うん?」

 

 

 シャングリラ・フロンティアというゲームは瑠美も知っている。

 というより、もはや知らないほうが難しいだろう。

 映画に興味を持たない人物がそれでも「タイタニック」は聞いたことがあるように、あるいは歴史を知らずとも、織田信長の名前は聞いたことがあるように。

 特定の業界に疎い人でも、その業界のトップクラスのものであれば知っていることはある。

 シャングリラ・フロンティアはもはや社会現象となったゲームだ。

 さすがに瑠美も、名前くらいは知っていた。

 

 

 ただ、瑠美が注目したのはそこではない。

 むしろ、ベルセルク・オンライン・パッションという単語の方に引っかかりがあった。

 神ゲーであり、現在進行形で社会を揺るがしているシャングリラ・フロンティアではなく、過疎ゲーにしてクソゲーであるベルセルク・オンライン・パッションの方に、だ。

 

 

「うーん」

「?」

 

 

 どこで聞いたのだったか、そうそう思い出した。

 聞いたのではなく、その名前を見たのだ。

 

 

 ◇

 

 

 あれは、もうずいぶん前のこと。

 彼女が学校から帰宅してすぐのことだった。

 リビングに行くと、机の上ーー厳密にはその上に置いた雑誌の上にたまたま袋が落ちていたのだ。

 なぜ瑠美がそれを印象に残しているのかといえば、ちょうどその雑誌が瑠美の敬愛する天音永遠が表紙を飾っている雑誌だったからだ。

 瑠美にとっては怒り心頭、永遠さまの顔をふさぐなど言語道断である。

 

 拾い上げると、その袋には中身が入っていた。

 とっさにどけた際に、中身が見えていた。

 それはゲームのソフトであり、「ベルセルク・オンライン・パッション」というタイトルのゲームだった。 

 

 

「そういえば、お兄ちゃんが持ってるんじゃないかな、ベルセルク・オンライン・パッション」

「本当!」

「う、うん」

 

 

 爆速で紅音は食いついた。

 ベルセルク・オンライン・パッションは、彼女がはまっているゲームの一つだ。

 元々かったのは安いからという理由それだけだったが、無限の可能性(バグ)を秘めた、彼女にとって非常にやりがいのあるゲームである。

 加えて、尊敬できる先輩と出会うきっかけとなったゲームでもあり、いろいろな意味で印象深いゲームである。

 今はシャンフロに精力を傾けているが、それでも彼女にとって、瑠美の兄がベルセルク・オンライン・パッションをプレイしているのは重要な意味を持っている。

 なにせそのゲームは、超が就くほどの過疎ゲーなのだ。

 始めた時など、自分ともう一人しか対戦に参加してくれる人物はいなかった。

 それにしても、あの時は幸運だったと紅音は思う。

 そのおかげで、奇跡といえる出会いもあったりしたのだし。

 シャンフロなら、リアルでもやっている友人はいるものの、過疎ゲーではありえない。

 これが最初で最後の、リアルの知り合い(?)とベルセルク・オンライン・パッションをするチャンスだとしてもおかしくないのだ。

 

 

「あの、陽務さん!」

「な、何?」

 

 

 紅音は瑠美の手を握り、キラキラした目を、瑠美の目に合わせて。

 

 

「私、陽務さんのお兄さんにあってみたいんだけど、今日陽務さんのおうちに行ってもいいかな?」

 

 

 

「え、で、でも大丈夫かな?いやうちの兄ってあんまり社交的じゃないんだけど、どっちかといえばインドア派って感じで紅音ちゃんと合うかどうか……」

「大丈夫!私何とか頑張るから!お願い!」

「ま、まあそこまで言うなら」

 

 

 気迫とキラキラした目の輝きに押されて、瑠美は紅音を家に連れていくことに決めた。

 

 

 

 




次回、23:00に更新です。
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