1月15日放送の「どーも、NHK」では、「どうする家康」の磯智明制作統括が大河ドラマの舞台裏を詳しく語りました。取材した中で紹介しきれなかったアツ~い思いを、ここで一気に蔵出しします!
■なぜタイトルが「どうする家康」?
そもそも今回の大河ドラマを脚本家の古沢良太さんにお願いしたいと思っていました。古沢さんは民放のドラマでも数々の面白い作品を書かれているので、彼の持っているセンスを大河ドラマにいかしたいと思っていたのです。古沢さんにお引き受けいただいて、色々と話を重ねていく中で、古沢さんが好きな登場人物が徳川家康ということがわかり、正直最初は、「なぜ家康?」と思いました。歴史ではどちらかというとあまり人気がないようにも思えますし、まあ地味というか、狸親父というイメージもありますし。でも、家康の人生を古沢さんと一緒に話し合いながら振り返ったとき、とても波乱万丈で、わくわくするような人生を送ったということがだんだん見えてきて、話し合っているうちに「家康をぜひやってみよう」ということになりました。
古沢さんが家康の生涯を語る上で、毎回出てきたフレーズが「どうする家康」で、毎回毎回家康に「どうする家康、どうする家康」というような選択やピンチがあって、それをどうやって乗り越えていくかということを描くと、とてもわくわくするような大河ドラマになるのではないかという話になりました。
そこで、タイトルを考えるときに、こちら側から「古沢さんがそこまで、どうする家康とおっしゃるのなら、それをそのままタイトルにしませんか?」と提案したところ、古沢さんとしては「麒麟がくる」とか「青天を衝け」というような、もう少しカチッとしたタイトルにしたかったという思いはあったようなのですが、僕らとしては、このドラマの面白さが一番伝わるフレーズが、この言葉だと思ったので、「どうする家康」をタイトルとして採用することになりました。
■なぜ徳川家康に松本潤さんを起用?
家康という人物を周りがいかに支えたかというところがこの物語の大きなテーマで、やはり「守りたい」と思うような殿でなければ成立しません。愛される力がキーワードです。ナイーブで非常に欠点もあるけれど、最終的に殿を守らないと徳川家は滅んでしまうという風に思わせる人物となると、松本潤さんのような気品があって華があって、なおかつ優しさというか思いやりがある人に演じていただくのが一番いいなと思いました。1年間という長い大河ドラマの主演は、もちろん演技力も大事ですが、どうしてもその人の人柄というか、人間性みたいなものも出てくると思っています。松本さんに家康を演じていただくことで、周りがこの人を支えようと思うような魅力的な人間関係が描けるのではないかなと思い、今回お願いすることにしました。
■天下統一の鍵は家臣団?
今回の家康は、非常にすばらしい才能や能力を持っているというわけではなく、他の人たちとのチームプレイで天下統一というか平穏をもたらしたという風に描きたいと思っています。織田信長のように、絶対的なカリスマ的な魅力があったり、武田信玄のように、ものすごい強さがあったりするわけではなく、等身大というか、そこまですごい能力はないけれども、そういう人がどうやって周りの力を借りながら、最終的に世の中を治めていったのかというところが、今の人たちに非常に共感しうるというか、わくわくするような物語になるのではないかなと思いまして、今回企画させていただきました。
家康はたくさん戦争をしていますが、けっこう負けているんです。にもかかわらず、最後まで生き延びたのはなぜかというと、負けた教訓から何かを学び、滅ぶまでいたらず、ぎりぎりのところで踏みとどまった。もちろん家康の力もあるかもしれませんが、周りがカバーしていきながら、チームとして何とか支えきったというところがあると思うので、今回の大河ドラマでは、家康の家臣団をそれぞれ魅力的に描くことを丁寧に面白くやっていきたいと思っています。家臣団は、必ずしもいつも家康に対して、「いいですね」というイエスマンではありません。それぞれ思い思いの意見を言って、「殿はどうするのですか?」と突きつけた中で、家康がどういう選択をしていくのか?というのが見どころで、チームプレイといっても、必ずしも一枚岩じゃないところが面白いと思います。
■クセ強な共演者 キャスティングの経緯は?
織田信長や武田信玄という人物は、家康がぶつかっていくような非常に手強いキャラクターなので、岡田准一さんや阿部寛さんに演じていただけたらいいなと思いました。また、大河ドラマは登場人物が非常に多く、俳優さんの顔でその役柄を覚えることになるので、途中から見ていただいた方でもこの役は誰がやっているかがわかるキャスティングにしたいと思っています。
今回の古沢良太さんの台本は非常に面白くて、家臣団の描き分けもすごくキャラ立ちしています。キャスティングをする際、俳優さんにまず台本を読んでもらって、その役を理解してもらった上で引き受けていただくということが必要ですが、古沢さんの脚本が面白いからこれだけの俳優さんにご出演いただけたと思しますし、この役を演じたいとみなさんが思ってくださったのだと思います。
何十年という歳月を演じていただくので、全体的な役柄のバランスみたいなところでキャスティングも考えていかなければなりません。石川数正に松重豊さんをキャスティングしたのは、年代ということありますが、「家康に対してビシっと言える俳優さんは誰だろう?」と考えてお願いしました。
■なぜ桶狭間から?
桶狭間については、家康が初めて遭遇する最大の山場なので、僕らは「どうするポイント」と言っていますが、まずはそこから始めてみようということなりました。ただ、そこに至るまでの家康の生涯、例えば子ども時代がまったく描かれないかというとそういうわけではなくて、さかのぼって家康と信長の関係や今川義元との関係も出てきます。野村萬斎さんもこれで終わりではなくて、これから先も家康がいろいろ悩んだり葛藤したりするとき、回想シーンというか家康の記憶の中で登場することもあります。今回の家康の人間像ですが、今川義元のように、仁と徳というか、思いやりと優しさで世の中を治めていくという考え方と、織田信長のように、力によって治めていくやり方の中で、いろいろ葛藤を抱えていく人物として描いていこうと思っています。そういう意味で第1話は、まさにこの2人が登場し、家康の初めての物語、葛藤が描かれたわけです。
■兵糧入れは命がけ!?
大高城の兵糧入れについてはあまり描かれていないため、今回は、信長の築いた砦を家康がどう突破して米を届けたのかというところを丁寧に描こうと思いました。そこで、古沢良太さんと一緒に実際に大高城に登りました。歴史に詳しい先生からいろいろと説明を受ける中で、大高城が見渡せるあちこちの場所に信長の砦があり、囲まれていて背面が海という絶体絶命の状況の中に大高城があることがわかりました。さらに桶狭間もわりと近いところにあり、まさに緊迫した状況の中で、家康は米を届けたということがわかりました。実際に足を運んでみていろんな発見があり、すごい任務を家康が任されたという発見があったので、古沢さんも僕もそういう発見を第1話の中に取り入れてみようと思いました。
■テンポのいい脚本のねらいは?
大河ドラマというと「重厚感」をイメージされると思うのですが、それよりも話をどんどん前へ進ませようと意識して台本を作っています。リアルタイムの中に物語があって、主人公たちがどう思ったのかというところが物語の推進力になっていくというような感じです。徳川家康の話はだれもが知っているだけに、ただ年代をなぞるだけではなく、物語の真ん中にどうやったら視聴者を入れられるのかということを考えました。そのため、説明的なセリフをあまり使わないようにして、とにかくどんどんどんどん話を進めていく中で、見ている人がわくわくしてくれればいいなと思いながら物語を作っています。
■インカメラVFXで撮影している理由は?
コロナのために、外で大規模なロケーションが容易にできなくなったという背景もありますし、例えば大きなセットを作っても、台風で流されて撮影ができなかったということもありました。また、戦国時代は、鎧をつけて撮影をしなければならないのですが、鎧ってものすごく暑いんです。気温が35度ぐらいになると撮影ができないような状況になってしまって、馬も35度ぐらいになると、ほとんど走れないようになります。今の日本の天候や事情に合わせて、大河ドラマのロケーションを成立させるにはどうすればいいのかを考えた時、映像をスタジオの中に持ち込んで、そこで表現する方法を考えた方が将来的にはプラスになるのではないかということになり、「鎌倉殿の13人」の頃から、徐々に舵を切り始めました。設備が整った中で撮影するため、熱中症などの心配もなくなりましたし、働きやすくなりました。
また、これまでは、1回1回セットを組んでいたのですが、映像は1回作れば再利用できるので、別の戦国ものの大河ドラマでも利用することができるようになります。VFXは持続可能というか、何度も利用できるため、SDGsの面でも非常にプラスになります。映像のバリエーションをどんどん増やすことで、将来の大河ドラマの制作にもフィードバックできればいいなと思います。
■臨場感のある合戦の秘訣は?
殺陣やそこに至るまでの準備段階、練習をいかに重ねていくかを大切にしています。例えば、槍の使い方にしても単純に槍で刺すということではなく、叩いたりあてたりというような、当時の戦術をきちんと考証して反映させています。また、三河家臣団の戦い方は、基本的に泥臭いというか、体と体でぶつかっていくようにしています。武田や織田については、それぞれの個性が出るような殺陣や戦い方を描いていきたいと思っています。
■静岡県や愛知県に出演俳優が訪ねて盛り上がっていますね?
その土地に徳川家康という人物がいなければ、こういうドラマが生まれなかったので、僕らとしてはドラマを生んでいただいた場所ということで、縁のある地域に深い思いがあります。地域に対しては、ドラマを一緒に作るパートナーのように思っているので、地域との関係がうまくやれるかどうかが大河ドラマの成功を左右すると思います。
今回のように俳優のみなさんが縁の地を訪ねることは、地域のみなさんに喜んでいただきたいという思いがある一方で、制作サイドにとっては、俳優のみなさんに地域を知ってもらい、役を演じる上で何かプラスになってほしいというところもあるため、積極的に今後もやっていければと思います。収録はどうしてもスタジオの中がベースになってしまうので、その向こうに何があったのかと想像しながら演技をするためには、実際に行ってみないとわからない、見えない風景があると思うので、そこで得た体験を俳優さんに生かしていただきながら地域の人に伝えていきたいと思います。そのキャッチボールがうまくいけば、いいドラマになるのではと思います。大河ドラマを通じて、地域の方々も自分の地域の歴史を再発見し、周りの風景を見直すきっかけにしていただければと思います。特に家康は非常に人間関係も広いし、いろいろな地域に影響を与えているので、家康の縁の地ということをきっかけに、地元の魅力を見つけていただけると、すごくいいなと思います。
■今後は、どうなる家康?
今回の大河ドラマは、徳川家康という非常にメジャーな人物ではあるのですが、彼をリアルな目線で見たときに、「本当にこの家康は天下を取れるのかな?」というところを、わくわくしながら見ていただけたらと思います。生まれたときはまだ何も知らない、何もできない存在ですが、成長を重ねて行って、最終的に何かを成し遂げることになると思うので、そこをできるかぎりリアルに描きたいと考えています。1話2話を見ただけでは、「本当にこの家康は江戸幕府を開くのかな?」と思うかもしれませんが、僕らも歴史は変えられないので、そこに至るまでをみんな一緒にリアルな感情をもって見ていただければいいなと思います。
これから、そうそうたる人たちとぶつかっていくので、彼らと家康がどう向き合っていくのかというところも大きなドラマだと思いますし、有村架純さんが演じる瀬名も、歴史的にはああいうことになるのですが、そこのところもきちんと計算しつつ考えながら描いているので、そこも注目していただければと思います。
プロフィール
磯 智明(いそ ともあき)
1990年、NHK入局。主な演出・演出作品に、連続テレビ小説「春よ、来い」「こころ」「なつぞら」、
「スニッファー臭覚捜査官」「この声を君に」「うつ病九段」「あなたのそばで明日が笑う」など。
大河ドラマは、「毛利元就」「風林火山」「平清盛」を担当。