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第135話・イカれた狂人にカメラは効かない

 

「とりあえず剣を下ろしてくれるかい? 殺したくなる気持ちは凄くわかるけど––––“今この場所”の予定じゃないんだ。だから抑えて」


 錠前の優しい言葉を受けて、テオドールは素直に剣を消滅させた。

 そして、ゴミを見る目で睨みつける。


「寿命が少し伸びましたね」


 過呼吸に陥っていた佐世が、感情を隠すことなく叫んだ。


「何やってたのよ!! わたしが殺されたら、困るのはアンタ達なんだからね! ちゃんと守りなさいよ!!」


 あまりにも無茶苦茶な言葉。

 言論でも負け、実力でも負けた記者の戯言に––––狂人は口開く。


「えっ、ちゃんと守ったじゃん。っていうかアンタさぁ……」


 身長の高い錠前が、記者を上から見下ろした。


「ウチの部下を騙して勝手に出歩いてたでしょ、困るんだよねー……勝手にそういうことされると」


「ッ……! 我々記者には報道の自由が保障されています! 駐屯地内くらい、いくら歩いたって良いでしょう!?」


「……君さ、もしかして未だに記者が“特権階級”で、世論を上手く支配してるとか思ってる口? だとしたら古いなー……腐敗臭がするよ」


 数歩前へ……。

 錠前がにじり寄ると、記者との身長差がなおハッキリする。

 それは圧倒的な威圧感となって、佐世を怯ませた。


報道(おまえら)の時代はもう終わってるんだよ、いい加減気づきなおばさん。軍事施設を無断で立ち歩くバカに……特権なんか無いよ?」


「おばさん……ですって! それが他者を尊ぶ態度ですか!?」


「はなから尊ぶ気なんざ全く無いんだ、無理言わないでよ。いいか……よく聞け」


 おちゃらけ気味だった声が、一気に低音へ下がる。


「ここは最前線だ、勝手な行動が許されると思ってたら……二度と本土の土が踏めないぞ」


「じ、自衛官が記者に……お、脅しですか……!? 信じられません! カメラ! カメラ回して!!」


 佐世の指示で、大汗をかいたカメラマンと音声担当がスイッチを入れる。

 録画、録音を錠前に指向するが––––彼はポケットに手を入れ、微塵も動揺しない。


 余裕の立ち姿に違和感を覚えつつも、佐世が反撃に出る。


「自衛官による我々報道への脅迫行為、れっきとした問題行動です! 然るべきところへ報告しますよ!!」


 勝った……!

 どんな幹部だろうが、カメラを向けられて反論する自衛官はいない。


 報道最強の武器は、カメラによる歪んだ真実の投影。

 こいつがどんなに慌てて取り繕ったって、もう遅い。

 醜態を何からなにまで映し尽くして、こいつのキャリアを終わらせる!


 私には––––その力があるのだと、佐世はポケットに隠していたボイスレコーダーを向けた。


「レコーダーは2つ用意しておくのが定石、残念だったわね……あなたの問題発言は既に録ってある。反論ならいくらでも聞くわよ?」


 勝ち確状態の3人に、周囲を囲まれた状態の狂人は––––


「記者にもピンからキリまでいるけどさぁ、君ら……とびっきりの“キリ”だよ。スーパーで売ってるマグロの方が良い眼してる」


「なっ!?」


 詫びでも反省でも、謝罪でもない。

 彼は笑いながら、カメラを覗き込んで。


「ひっ!」


「僕を一般の自衛官と同じに思わない方が良い、根っこがイカれてるんだ……こんな玩具(カメラ)じゃ抑止力にすらなんないよ」


 錠前が指で空間をなぞった瞬間、異変が起きた。

 カメラの電源が強制的に落とされ、マイクも一切音を拾わなくなったのだ。


 当然、佐世が向けていたボイスレコーダーも電源ランプが消える。


「えっ、嘘……バッテリー切れ!?」


「悪いが自衛隊は忙しい、2週間後に大規模なエリア攻略が控えてるんでね」


 指を鳴らす錠前。

 すると、外で待機していた筋肉ゴリゴリの自衛官たちが大勢入ってきた。


 その中の空挺レンジャー自衛官数名が、彼の隣に来る。


「錠前1佐、いかがしますか?」


「お部屋に案内して差し上げろ、しっかりくつろいでもらえ」


「はっ!!」


 ガタイの良い自衛官たちに両側を押さえられ、抵抗することもできずに連行されていく報道陣。

 そして、錠前はリーダーの自衛官に耳打ちする。


「実験的に造った電波を通さない部屋……あったよね? SNSに色々書き込まれても面倒だ、そこへ放り込め」


「了解しました」


「それと、部屋を出て良いのは食事と手洗い時のみ。見張りは最低でも2人つけろ。また脱走されたら困る」


「委細、承知しました」


 敬礼をしてから立ち去る自衛官たち。

 その様子を見ていたテオドールが、驚愕した様子の表情で呟いた。


「錠前……、あなたは。一体“何に成った”んですか?」


「ん? どういうことかな? あぁ言わないで、最強自衛官のイカレっぷりにドン引いてるんでしょ? 確かに、君には刺激が強すぎ––––」


「とぼけないでください! さっきカメラを壊した時の魔力……、明らかに人間が出して良い種類のものじゃありませんでした」


 執行者であるテオドールは、魔力の質を目で見ることができる。

 数日前に会った時は自分と変わらなかったのに、今の錠前からは明らかに異質な魔力を感じさせられるのだ。


 無限の底なし沼、どす黒い魔王のような気配、全てを破壊してしまいそうな覇気。


 まさか––––


「“アノマリー”を……、食べたのですかッ?」


 信じられないものを見る目のテオドール。

 それに対する錠前の解答は––––


「正解っ♪」


 彼の手が優しく頭を撫でると、テオドールは一瞬だけ眩暈を覚えてから……。


「…………ほえ? わたし、今なんて言いました?」


 直前まで話していた内容が、頭からスッポリ抜け落ちてしまう。

 違和感を抱き、錠前に質問するが……。


「何も言ってないよ、ほら、新海たちがそろそろ戻ってくる。行って来な」


「は、はいっ」


 駆け出したテオドールの脳内に、さっき喋った言葉は無い。

 手を振って見送った錠前は、ニッコリと笑い。


「一応まだ知られたくないんでね、別に信用してないわけじゃないんだが……ごめんよテオドールくん」


 錠前は胸ポケットに隠していたボイスレコーダーを持ち、電源をオフに。

 そのままジュースを買ってから、自分の執務室へ歩いて行った。


135話を読んでくださりありがとうございます!


「少しでも続きが読みたい」

「面白かった!」


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