「とりあえず剣を下ろしてくれるかい? 殺したくなる気持ちは凄くわかるけど––––“今この場所”の予定じゃないんだ。だから抑えて」
錠前の優しい言葉を受けて、テオドールは素直に剣を消滅させた。
そして、ゴミを見る目で睨みつける。
「寿命が少し伸びましたね」
過呼吸に陥っていた佐世が、感情を隠すことなく叫んだ。
「何やってたのよ!! わたしが殺されたら、困るのはアンタ達なんだからね! ちゃんと守りなさいよ!!」
あまりにも無茶苦茶な言葉。
言論でも負け、実力でも負けた記者の戯言に––––狂人は口開く。
「えっ、ちゃんと守ったじゃん。っていうかアンタさぁ……」
身長の高い錠前が、記者を上から見下ろした。
「ウチの部下を騙して勝手に出歩いてたでしょ、困るんだよねー……勝手にそういうことされると」
「ッ……! 我々記者には報道の自由が保障されています! 駐屯地内くらい、いくら歩いたって良いでしょう!?」
「……君さ、もしかして未だに記者が“特権階級”で、世論を上手く支配してるとか思ってる口? だとしたら古いなー……腐敗臭がするよ」
数歩前へ……。
錠前がにじり寄ると、記者との身長差がなおハッキリする。
それは圧倒的な威圧感となって、佐世を怯ませた。
「
「おばさん……ですって! それが他者を尊ぶ態度ですか!?」
「はなから尊ぶ気なんざ全く無いんだ、無理言わないでよ。いいか……よく聞け」
おちゃらけ気味だった声が、一気に低音へ下がる。
「ここは最前線だ、勝手な行動が許されると思ってたら……二度と本土の土が踏めないぞ」
「じ、自衛官が記者に……お、脅しですか……!? 信じられません! カメラ! カメラ回して!!」
佐世の指示で、大汗をかいたカメラマンと音声担当がスイッチを入れる。
録画、録音を錠前に指向するが––––彼はポケットに手を入れ、微塵も動揺しない。
余裕の立ち姿に違和感を覚えつつも、佐世が反撃に出る。
「自衛官による我々報道への脅迫行為、れっきとした問題行動です! 然るべきところへ報告しますよ!!」
勝った……!
どんな幹部だろうが、カメラを向けられて反論する自衛官はいない。
報道最強の武器は、カメラによる歪んだ真実の投影。
こいつがどんなに慌てて取り繕ったって、もう遅い。
醜態を何からなにまで映し尽くして、こいつのキャリアを終わらせる!
私には––––その力があるのだと、佐世はポケットに隠していたボイスレコーダーを向けた。
「レコーダーは2つ用意しておくのが定石、残念だったわね……あなたの問題発言は既に録ってある。反論ならいくらでも聞くわよ?」
勝ち確状態の3人に、周囲を囲まれた状態の狂人は––––
「記者にもピンからキリまでいるけどさぁ、君ら……とびっきりの“キリ”だよ。スーパーで売ってるマグロの方が良い眼してる」
「なっ!?」
詫びでも反省でも、謝罪でもない。
彼は笑いながら、カメラを覗き込んで。
「ひっ!」
「僕を一般の自衛官と同じに思わない方が良い、根っこがイカれてるんだ……こんな
錠前が指で空間をなぞった瞬間、異変が起きた。
カメラの電源が強制的に落とされ、マイクも一切音を拾わなくなったのだ。
当然、佐世が向けていたボイスレコーダーも電源ランプが消える。
「えっ、嘘……バッテリー切れ!?」
「悪いが自衛隊は忙しい、2週間後に大規模なエリア攻略が控えてるんでね」
指を鳴らす錠前。
すると、外で待機していた筋肉ゴリゴリの自衛官たちが大勢入ってきた。
その中の空挺レンジャー自衛官数名が、彼の隣に来る。
「錠前1佐、いかがしますか?」
「お部屋に案内して差し上げろ、しっかりくつろいでもらえ」
「はっ!!」
ガタイの良い自衛官たちに両側を押さえられ、抵抗することもできずに連行されていく報道陣。
そして、錠前はリーダーの自衛官に耳打ちする。
「実験的に造った電波を通さない部屋……あったよね? SNSに色々書き込まれても面倒だ、そこへ放り込め」
「了解しました」
「それと、部屋を出て良いのは食事と手洗い時のみ。見張りは最低でも2人つけろ。また脱走されたら困る」
「委細、承知しました」
敬礼をしてから立ち去る自衛官たち。
その様子を見ていたテオドールが、驚愕した様子の表情で呟いた。
「錠前……、あなたは。一体“何に成った”んですか?」
「ん? どういうことかな? あぁ言わないで、最強自衛官のイカレっぷりにドン引いてるんでしょ? 確かに、君には刺激が強すぎ––––」
「とぼけないでください! さっきカメラを壊した時の魔力……、明らかに人間が出して良い種類のものじゃありませんでした」
執行者であるテオドールは、魔力の質を目で見ることができる。
数日前に会った時は自分と変わらなかったのに、今の錠前からは明らかに異質な魔力を感じさせられるのだ。
無限の底なし沼、どす黒い魔王のような気配、全てを破壊してしまいそうな覇気。
まさか––––
「“アノマリー”を……、食べたのですかッ?」
信じられないものを見る目のテオドール。
それに対する錠前の解答は––––
「正解っ♪」
彼の手が優しく頭を撫でると、テオドールは一瞬だけ眩暈を覚えてから……。
「…………ほえ? わたし、今なんて言いました?」
直前まで話していた内容が、頭からスッポリ抜け落ちてしまう。
違和感を抱き、錠前に質問するが……。
「何も言ってないよ、ほら、新海たちがそろそろ戻ってくる。行って来な」
「は、はいっ」
駆け出したテオドールの脳内に、さっき喋った言葉は無い。
手を振って見送った錠前は、ニッコリと笑い。
「一応まだ知られたくないんでね、別に信用してないわけじゃないんだが……ごめんよテオドールくん」
錠前は胸ポケットに隠していたボイスレコーダーを持ち、電源をオフに。
そのままジュースを買ってから、自分の執務室へ歩いて行った。
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