「な、何を言ってるのかしら……! わたしは公平中立な記者よ? そんな偏見、心外だわお嬢ちゃん」
必死に言い訳する記者を見て、テオドールはモニターを指差す。
「さっき、あのモニターが無駄金とおっしゃっていましたよね?」
「そ、そうよ……! 戦闘のために使う物じゃないわ。だからアレは武力使用を助長するもので––––」
「普通に考えて、安全のために設置したと思うんですが……。危ない訓練だからこそ、第三者がキチンと見張れるようにしてるんだと考えます」
「ッ…………!!」
何だこのガキは。
せっかく自衛隊の印象操作に使おうと思ったのに、ことごとくこちらの痛いところを突いてくる。
だが––––
「なるほどね、でも思わないかしら……」
こいつの発言なんて、適当に切り貼りすれば後でいくらでも都合よくできる。
せっかく子供を見つけたのだから、らしい言葉の1つでも引き出させよう。
こんなアイドルをやってそうな可愛い子から、自衛隊のネガティブキャンペーンが飛び出せば……本社も1発でオーケーを出すだろう。
そうすれば自衛隊への批判は高まり、“こちら”の都合が良くなる。
しかし、そんな甘い目論見を––––テオドールは純粋な心で粉砕していった。
「……さっきからおかしくないですか? 安全のためのモニターを無駄とおっしゃったり、彼らは危険だとか……なんだかとても恣意的です」
「お嬢ちゃんは若いから知らないだろうけどね、日本は何十年も昔……とんでもない犯罪行為を行なったのよ。残酷な侵略戦争で、中国や東南アジアへ大迷惑を掛けた。それは許されないことなのよ」
「だから記者さんは、日本の武力である自衛隊が危険だと?」
首を傾げたテオドールが、やはり訝しむ。
「……昔の、それも数十年前にあった戦争中の話ですよね? 確かに悪いことかもしれませんが……それで現在の自衛力を放棄して良い理由には、決してならないと思います」
テオドールからすれば、ついこないだまで侵略者だった身。
異世界人の価値観としては、何十年も引きずっていられないというもの。
「ッ! あのね、日本は残酷な侵略国家なの。日本が強い武力を持っていると……中国やロシアが迷惑するの。世界の国々に不安を与えるべきじゃないわ」
佐世の苛立ちを込めた言葉に、異世界人の少女は至って冷静に返した。
「いま世界とおっしゃりましたが、“2国“しか出てきてません。記者さんにとって地球というのは、中国とロシアが全てなんですか?」
「ッ……!!」
「しかもその2国……、東京でこないだ武力を行使した国だと思うんですが。やっぱり記者さんって––––」
理解できないという雰囲気で、テオドールは腕を組んだ。
「中国やロシアにとって、自衛隊が邪魔だから……少しでも弱体化させようとしてます?」
「そ、そんな訳––––」
「わたしはあの日、東京にいました。透たちが守ってくれなかったら……今どうなっていたかわかりません。少なくとも、新宿での戦いにおける自衛隊の武力使用は、かなり妥当だと思うんです」
「チッ……!!」
苛立ちが頂点に達した佐世は、起動していたボイスレコーダーを切った。
ビデオとマイクもオフにするよう伝え、口調を尖らせる。
「わかってないわね、中国とロシアは偉大な超大国なのよ。逆らえば日本なんかあっという間に潰されて消えるわ。だから自衛隊なんているだけ無駄、強く勇ましい彼らをイタズラに刺激するだけの金食い虫なの」
「んー……では、なおさらじゃないですか? 強くて怖い国が近くにいるなら、セキュリティを増やすのが自然だと思います」
「それが彼らを刺激するだけだって言ってるのよ。日本の武力は悪で、中国とロシアの武力は世界平和に貢献している。彼らを怒らすべきじゃないわ」
「……彼らの武力が平和? 東京で民間人を巻き込もうとした国がです? ちょっと幼い自分には理解できません」
子供だと思っていたのに、なぜここまで頭が回るんだと……佐世は苛立ちを隠せない。
「日本は過去に罪を犯した戦犯国家なのよ、だから東京での事件も自業自得なの。自衛隊はあの時、応戦せず……降伏するべきだったんだわ。それが北朝鮮にまで報復して……やはり日本は侵略国家で野蛮。自衛隊はおぞましい”悪魔”だわ」
そこまで言って、佐世は自身の身に何が起きたか理解できなかった。
風が吹いたかと思うと、首筋に冷たい……鋭い感触が触れたのだ。
「はっ……? えっ?」
目を向ければ、銀色の剣が自分の首へ触れていた。
表情を恐ろしく冷たいものに変えたテオドールが、剣を具現化––––佐世に突き付けていたのだ。
「さっ、佐世さん!?」
ビビり倒した音声担当が、思わず叫ぶ。
「だ、大丈夫よ。こんなのオモチャに決まってるんだから––––」
手で握ってどかそうとして––––
「はっ…………?」
自分の手のひらから血が溢れ出る。
オモチャと思って握ったそれは、鋭利な刃を剥き出しにした……本物の武器。
「わたしに意味不明な持論をぶつけるのは良いです、しかし––––透たちの悪口は絶対に許しません。選んでください」
剣を押し付け、にじり寄る。
「今ここで首を落とされるか、謝罪するか……」
「じょ、冗談……よね?」
「わたしは今まで異種族も含めて、戦いで100人以上は殺して来ました。今さら1人増えようが……関係無いですよ」
信じられないほどの恐怖が、佐世を襲った。
今まで取材してきて、こんな目に遭ったことは1度もない。
記者という特権階級には、誰も逆らえないはずなのに––––
「無言は否定と捉えて良いですね?」
こんな子供が放って良い殺気ではない。
まさか、このガキが––––新宿で中国とロシアが狙っていた……。
「はいはーい、そこまでにしといてくれるかい? 駐屯地内で流血沙汰は、さすがに勘弁だからねー」
いつの間にかテオドールの背後に立っていた1人の自衛官が、彼女の肩を軽く叩いた。
「良い正論パンチだったよ、テオドールくん。でも一旦剣を下ろして、とりあえず後は––––」
佐世の前に立った狂人にして、現代最強の自衛官––––錠前1佐はにっこりと笑う。
「僕に任せてもらえるかな?」
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