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第133話・特権階級

 

「良いんですか佐世(さよ)さん? 案内の自衛官を置いてきちゃって」


 ヘラヘラと笑う同僚。

 佐世と呼ばれた記者は、テレビ用カメラを持った彼へ振り向いた。


「大丈夫よ、私は記者なんだから––––この腕章がある限り、“報道の自由”が担保される。自衛隊に都合の良い部分だけ取材しても、デスクはオーケー出さないわよ」


「まっ、確かにそうですね。どこから映しましょう?」


「そうね……、まずはこれだけ立派な部屋だもの。写真をできるだけ撮るわよ」


 そう言って、佐世はポケットから取り出したデジタルカメラで撮影を開始する。

 まず目につけたのは––––


「ほら、見なさい。この椅子は他の駐屯地よりも新しい物が設置されているわ」


「一番新しい駐屯地なんですから、当然では?」


 音声収録担当の若者が、訝しげに呟いて……。


「わかってないわね、国民の血税がこんな“無駄金”として使われていると……私が報道せずして、誰が伝えるの! それにほら!」


 一番目立つであろう、壁に掛けられたフルHDモニターを指差す。


「こんなことにまでお金を使うなんて不謹慎だわ、自衛隊は人殺しを助長する。そう印象付けるには十分よ!」


 こんな演習場の存在自体が、日本の平和憲法と明らかに矛盾している。

 ダンジョン最前線の部隊は、明らかに特別扱い。


 だが憲法9条の存在が、彼女の中でそれを許さなかった。


「少しナレーションを入れるわ、音声チェックして」


「はい、こっちはオーケーです」


「じゃあ行くわよ」


 モニターの前に立った佐世は、マイク片手に実況を開始した。


「ご覧ください、こちらには観戦用でしょうか……大きいモニターが何台もあります。戦闘の演習を行うための機材がここまで揃っているという事実を、我々国民は深く受け止める必要があるでしょう」


 しばらくして、マイクが止められる。


「ちょっと芝居臭くないですか?」


「これくらいで丁度良いのよ、私達の報道から平和は作られていくんだから」


「なるほど、我々マスメディアにしかできない……いわば暴走気味の自衛隊を抑制するための言葉ですね」


 その後も、かなりどうでも良いことをいちいち大袈裟に取り上げる佐世たち。

 あらかたを撮り終わった頃だろう、敢えて存在感を消していた少女が近づいて来た。


「聞きたいのですが、さっきから一体何をなさっているのでしょう? 自衛隊の人には見えないのですが」


 疑問を抱いたテオドールが、佐世に近づいたのだ。


「えっ、この駐屯地内に子供……? しかも外国人っぽい……聞いてないんだけど」


「訳あって置かせてもらっている、テオドールと言います。佐世さん……でしたっけ? つかぬことを聞くのですが、さっきから何をやっているのでしょう」


 佐世はインターネットを殆ど使わない人間だった。

 やるとすれば、Twitterで一方的に情報発信するのみ。

 なので、今や世界に冠たるアイドルであるテオを知らなかった。


 ちょうどいいとばかりに、佐世はカメラを意識した。


「お姉さんたちはねぇ、平和を推進するお仕事をしてるのよ。あっ、良かったらテオドールちゃんにもお話……伺えるかしら?」


「大丈夫ですよ、何が聞きたいんですか?」


「じゃあ早速。自衛隊は武器を持った武装集団ですけど、怖くないですか?」


 明らかに悪意が入った質問。

 しかし、テオドールは世界のアイドルにふさわしい笑顔で答えた。


「“最初はとても厄介でした”が、今では頼もしいと感じています」


「んっ、んん……?」


 どこかズレたような答えに、若干戸惑う佐世。

 果たして厄介とはどういう意味だろうか、でもまぁ良いだろうと次に進む。


「平和国家の日本が、こうして無差別に武力を用いる状態……凄く違和感があると思うんですが。何か考えさせられるところはありませんか?」


 またも悪意のある質問。

 だが––––


「……っ? 武器を持つのは普通じゃないんですか? わたし達みたいな侵略者から身を守るためなら、むしろ当然かと」


 またもよくわからない答え。

 この物言いだと、まるで彼女が以前––––自衛隊の敵だったようではないかと佐世は思う。


 一方でテオドールも、記者の質問の真意に気づき始めていた。


「あの、質問がまるで結論ありきな気がするのですが……」


「そんなこと無いわよ、ただ平和を愛する1人の記者としての質問だわ」


「えと……つまり記者さんはこう言わせたいんですよね、“自衛隊は危険な集団”で、民の平和を脅かしていると」


 思わず汗を流す佐世へ、テオドールは一切の悪意なき心で言い放つ。


「自衛隊が強いと誰が困るんですか?」


「えっと……その、日本に過去侵略された被害者の国々たちよ」


「あっ、そういうことですね!」


 パンと手を叩いたテオドールは、美しく地雷原の上を舞う。


「わたしが改めて自衛隊を相手する機会があったら、記者さんみたいに自衛隊へデバフを掛けてくれる存在はとてもありがたいです。だって記者さんの言う危険って––––」


 純粋度100%の笑顔で、テオドールは呟いた。


「日本をいっぱい攻撃したいけど、自衛隊が邪魔な人の視点ですよね?」


133話を読んでくださりありがとうございます!


「少しでも続きが読みたい」

「面白かった!」


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